建設業は生物多様性との関わりが深く、事業活動を行う上で継続的な生物多様性保全の取り組みが必要となっています。生物多様性に関する社会的関心が高まっている背景には、2007年の第3次生物多様性国家戦略制定、2008年の生物多様性基本法成立、また、2010年の愛知県名古屋市での「生物多様性条約第10回締約国会議」(COP10)開催などがあります。
当社では建設活動が生態系に影響を与えることを認識し、生物多様性を環境経営の重要課題としてとらえ、全社員が生物多様性配慮の意識を持ち、計画・設計内容、工事計画に反映させるよう努めています。
自然保護・生物多様性に関する方針
シミズ生物多様性ガイドライン
当社は、業界に先駆けて生物多様性を環境マネジメントの重要な課題と位置付けて取り組んでおり、その活動をさらに継続・発展させるため、2009年に「シミズ生物多様性ガイドライン」を制定しました。生物多様性による恩恵と文化的価値を次世代に引き継ぎ、持続可能な社会の実現に貢献するため、すべての事業領域で生物多様性の保全と共生に自発的に取り組むことを目的としています。
エコ・ファースト認定・経団連生物多様性宣言への賛同
「シミズ生物多様性ガイドライン」に則った活動を継続的に推進する中で、次なる中長期の目標として、2018年に環境大臣の認定を取得した「エコ・ファースト制度」の約束書では、生態系評価ツールによって都市部の生態系保全・回復を推進するとともに、技術研究所内のビオトープにおける希少動物の2030年までの目標誘致種を定めました。
また、2020年には「経団連生物多様性宣言・行動指針(改訂版)」に賛同するとともに、将来に向けた当社の取組方針として、2030年までに標準化・指標化すべき設計施工案件での取り組みを掲げました。

生物多様性認証制度の普及推進
一般社団法人いきもの共生事業推進協議会(ABINC)会員企業として、各種ワーキンググループに参画し、「いきもの共生事業所®認証(ABINC認証)制度の普及・啓発に寄与しています。
同制度は、生物多様性保全に取り組む工場、オフィスビル、商業施設、集合住宅などを「いきもの共生事業所®」として認証しています。当社では、2015年2月に東京都江東区に位置する技術研究所が取得しました。2006年に設置した都市型ビオトープ「再生の杜」が、銀座から3kmというロケーションにありながら、2,000m2規模のビオトープを中心に300種以上のいきものが訪れる緑地を有していることが評価されたものです。

事業活動における生物多様性配慮の取り組み
事業活動における生物多様性に配慮した調査・計画・施工
計画・設計段階では、独自の「建築・土木設計エコマップ」の作成を義務付け、生物多様性に関するリスクと機会、関連法令を抽出・評価しています。適宜、現地の生態調査、生息適地シミュレーションを実施するほか、グリーンインフラ化や生物多様性向上のための方策を検討し、保全・向上計画に反映させます。
工事着手時には「環境重点管理表」の作成を義務付けています。同表では環境管理項目として生態系問題や水質汚濁による生息環境への影響を明示しています。発注者、設計者、行政、地域住民、学識経験者などからの意見を踏まえ、生物多様性への影響が懸念される場合はその対策を検討し、着工前検討会で承認を経てから施工します。
また、施工中・竣工後には社内の専門部署と連携して生物モニタリングを行うほか、ABINC※1やSEGES※2、SITES※3などの取得を発注者に提案し、取得の支援、緑地価値の可視化に貢献します。
- いきもの共生事業所® 認証
- 社会・環境貢献緑地評価システム
- Sustainable SITES Initiative(米国グリーンビルディング協会の評価認証プログラム)
地域の生態系ネットワークを評価「UE-Net」

2009年、当社は都市域の生物多様性に配慮した開発計画の立案を支援するシミュレーションシステム「UE-Net(Urban Ecological Network)」を開発・実用化しました。UE-Netは、衛星画像データを用いて地域の自然環境を分析し、事業地内の緑化計画が周辺の生態系ネットワークに与える波及効果を生物の生息適性の視点から可視化し、地域の生物多様性に貢献できる緑化計画をご提案します。
2011年に生物多様性データベースの拡充を行い、さまざまな緑化計画の検討が必要な開発事業の構想段階において短期間でこのシステムを適用できるようになりました。さらには、広範囲にわたる生態系ネットワークを表示できることから、開発前の代償的な保全措置(オフセット)の検討にも活用できます。当社は、データベースを拡充した「UE-Net」を、東京臨海地域~副都心地域における都市開発計画の評価・提案に適用し、生態系ネットワークの形成に寄与していく考えです。
年 | 計画地 | 用途 |
---|---|---|
2009年 | 東京都江東区 | 庁舎 |
2010年 | 東京都新宿区 | 商業施設 |
2010年 | 東京都中央区 | オフィス |
2011年 | 東京都江東区 | 集合住宅 |
2011年 | 埼玉県 | 教育施設 |
2011年 | 東京都中央区 | オフィス |
2011年 | 東京都新宿区 | オフィス、工場 |
2011年 | 東京都新宿区 | オフィス |
2012年 | 東京都中野区 | 複合施設 |
2012年 | 東京都渋谷区 | オフィス |
2012年 | 東京都港区 | オフィス |
2015年 | 神奈川県 | 複合施設 |
2016年 | 神奈川県 | 庁舎 |
注:工事受注に至らなかった案件を含む
また、UE-Netを活用したプロジェクトで、生物多様性に関わるお客様への提案件数を、ISO14001の目標値として定め、全社で推進しています。
年 | 実績 | (目標) |
---|---|---|
2015年 | 23件 | (14件以上) |
2016年 | 12件 | (14件以上) |
2017年 | 22件 | (14件以上) |
2018年 | 29件 | (14件以上) |
公益社団法人 土木学会平成24年度環境賞、一般財団法人エンジニアリング協会 平成25年度エンジリアリング功労者賞 受賞。
UE-Net/ユーイーネットは清水建設の登録商標です。
- ニュースリリース:都市域の生態系ネットワークを評価
- ニュースリリース:都市生態系ネットワーク評価システム「UE-Net」の基盤データベースを拡充
生物多様性に配慮した空間を設計
自然の潜在能力を借りて空間を設計する「エコロジカル・ランドスケープ」

エコシステムとエンジニアリング、デザインを同次元で解決することにより、人と自然の要求を同時に満たそうとする設計手法です。これにより、ダムや学校、医療施設、住宅団地が地域のエコシステムに組み込まれ、本来そこにあるべき生物多様性に配慮した空間をつくることができます。
地域の動植物の生物多様性に配慮した施工
ダム工事やトンネル工事における動植物保全対策

トンネル工事やダム工事は、山間地の豊かな自然の中で行われ、大規模な地形の改変や樹木の伐採を伴い、生態系への影響が大きくなります。そのため、自然環境特性や希少動植物の生息状況に合わせて、さまざまな対策をしています。プロジェクトごとに、学識者を中心とした希少動植物保護の委員会などの審査・助言を仰ぎながら工事を進めています。
生物多様性保全事例
自然のもつ機能を賢く生かしながらインフラ整備を行うとともに、自然の恵みを還元する、持続可能な地域づくりに貢献する事業活動をサポートしています。
都市の生物多様性保全
横浜野村ビル



横浜みなとみらいに2017年に竣工した横浜野村ビルでは、お客様と横浜市が新しい緑化技術を取り入れた環境配慮を開発の目標に掲げました。
当社グループの生態系環境関連部門を横断したチーム力を駆使し、次の5つの緑化環境技術をプロジェクトで具現化することにより、お客様や横浜市へのニーズに応えました。
- 生物の生息適性シミュレーション技術(UE-Net)により、地域のエコロジカル・ネットワーク評価を整備前後で比較検証し見える化
- 地域性植物材料の導入(遺伝子解析技術)により遺伝的かく乱のない、地域固有の生態系に配慮
- 蓄雨機能を有した窪地状の植栽ゾーン「レインガーデン」を設置し、自然な雨水涵養を促すとともに湿地性の生物多様性環境を創出
- 希少種を含む多様な日本固有種を用いた縦型緑化ルーバー「グリーンラジエーター」を外壁面へ設置
- 緑地面積を阻害しない「緑化ベンチ」を設置し、夏期のクールスポットと、人が生物多様性と向き合える都市環境を創出
このような都市における生物多様性への取り組みにより、(公財)都市緑化機構の環境認定制度である、「SEGESつくる緑」や、LEED、CASBEEなど数々の認証を取得しています。