TNFD提言に基づく自然関連財務情報開示

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当社グループでは、気候変動と同様に自然関連の影響を重要な経営課題と捉えています。清水建設は、2023年2月にTNFD提言への賛同を表明した後、2024年1月にはTNFD Early Adopterとして早期採用を宣言しました。TNFD開示提言に基づいた開示の初回である2024年度は、当社事業の中でも財務的影響を考慮し、建設事業、不動産開発事業、及びグリーンエネルギー開発事業のうち太陽光発電事業を対象としました。
なお、本ページは開示の概要版となっています。全文は、開示内容に関する今後の課題等についての有識者コメントも含めて、PDFとしてダウンロードが可能です。

TNFD推奨 自然関連情報開示項目

一般要求事項 開示に関する一般要求事項
ガバナンス 自然関連のリスク及び機会に係る組織のガバナンス
戦略 事業における依存と影響の特定、重要課題と当社の対応
シナリオ分析によるリスクと機会の分析と影響度等の評価
ネイチャーポジティブに向けた戦略
(自然KY、持続可能な型枠合板への取組み)
優先地域の特定
リスクとインパクト管理 組織による自然関連のリスクの選別・管理・評価方法
指標と目標 TNFD提言におけるグローバル中核指標の開示

開示に関する一般要求事項

1.マテリアリティの適用 当社への財務的影響と当社の活動が自然にもたらす影響の2つに着目した考え方
2.開示のスコープ 2024年度の開示は、国内建設事業、国内不動産開発事業、国内太陽光発電事業の3事業における上流、直接操業、下流を対象
3.自然関連課題がある地域 建設事業:建設現場
不動産開発事業:自社保有施設
太陽光発電事業:運用している太陽光発電所
4.他のサステナビリティ
関連の開示との統合
TNFDでのシナリオ分析は、TCFDシナリオ分析メンバーと共同で実施、互いの影響について理解し、それぞれの開示文書で言及
5.検討した対象期間 短期:3年以内、中期:3年超~10年以内、長期:10年超を想定
6.ステークホルダー・エンゲージメント 当社はシミズグループ人権基本方針及び企業倫理行動規範にのっとり、地域コミュニティとのエンゲージメントを重視しながら事業活動を実施

ガバナンス

気候関連課題と同様に「サステナビリティ委員会(委員長:社長)」を中心としたガバナンス体系を構築しています。
また、当社グループは「シミズグループ人権基本方針」を制定し、協力会社を対象とした外部通報窓口を設置しています。
加えて、自然関連のリスクを最小化し保全や再生への有効な対策の実施に関しては、地域社会とのエンゲージメントを実践しています。従前より実施している工事期間中の措置に加え、「自然KY」という取組みを通し、建設現場周辺の自然関連課題の早期把握を進めています。

シミズグループの自然関連課題に関するガバナンス体制

シミズグループの環境問題に関するガバナンス体制

戦略

(1)自然(生態系サービス)への依存と影響の特定

当社の事業と自然資本の関係性の把握では、TNFD提言で使用を推奨している自然関連リスク分析ツール「ENCORE」を用いました。分析では、当社への財務的影響を考慮し、建設事業、不動産開発事業、及びグリーンエネルギー開発事業のうち太陽光発電事業の3事業を対象としました。

3事業の自然(生態系サービス)への依存と影響のまとめ

当社3事業の自然(生態系サービス)への依存と影響のまとめ

(2)事業における重要課題の特定

上流の重要課題の特定

事業上流における重要課題の特定では、依存と影響の分析結果に加え、調達品目の取扱量と製品原料を整理した後、当社の対応を取りまとめ、「持続可能な型枠合板」の調達に関する施策と目標値を定めました。

優先度の高い調達品目への対応

品目 製造主体や原料の流れ 取引先企業の規模 当社の対応
鋼材 ・鉄鋼メーカー
・原料は輸入かリサイクル
大企業 CSR調達アンケートなどによる働きかけ・必要に応じた協業
セメント ・セメントメーカー
・石灰は国産
ガラス ・ガラスメーカー
・原料は国産もしくは輸入
アルミ ・メーカー(サッシなど)
・原料は輸入かリサイクル
生コンクリート ・建設現場近傍の生コン工場
・砂利や砂は国内で採取
・型枠に木材を使用
地域の中小企業 技術や情報提供を通じた改善への連携

直接操業の重要課題の特定

土地利用の変化が陸域生態系へ与える影響に対し、当社は、現在稼働中の全建設現場と予定されている案件を対象とし、場所の自然の状態や、自然関連リスクが生じる可能性を網羅的に把握することで自然環境への影響を回避・低減する取組みを開始しました。

下流の重要課題の特定

事業の下流における重要課題は建築副産物であり、当社の全社一体となって4R活動(リフューズ、リデュース、リユース、リサイクル)を推進しています。

(3)シナリオ分析に基づくリスクと機会の特定

TNFD提言が推奨する4象限シナリオを用いてのシナリオ分析は、TCFDワーキングメンバーのほか、財務をはじめ上流(調達)から下流(副産物管理)部門を含む従業員で実施しました。

シナリオ分析結果(当社事業への影響度が大きいものを抜粋)

事業範囲 事象 R:リスク
O:機 会
影響度 時期 当社の対応
上流 トレーサビリティや環境認証への要求 R 囲い込み、価格上昇、数量制約による競争 ↓↓ 短期~中期
  • サプライヤーとの関係構築(CSR調達アンケート)
  • 型枠合板への取組み
O 新技術による優位性の確保 ↑↑↑ 短期~中期
  • リサイクル、新建材の技術開発
建設資材の入手困難・不安定化
(災害、資源枯渇)
R 資材価格が不透明・不安定、工期遅延 ↓↓ 短期~長期
  • 顧客とのパートナーシップ早期構築、強化
  • 限られた資機材で要求水準を満たす技術力の強化
O サプライチェーンの再構築・強化、新技術による優位性の確保 ↑↑↑ 短期~長期
  • サプライヤーとの関係構築(CSR調達アンケート)
  • リサイクル、新建材の技術開発
直接操業 土地改変への強い規制や土地利用の抜本的な見直し R 新規建設需要の減少 ↓↓↓ 長期
  • 新たな建設領域への投資(BLUE WIND※1など)
  • 土地利用高度化に対応する技術力向上
O 改修更新工事の増加、自然配慮・再生事業の実施 ↑↑ 長期
  • 次世代の需要に対応する技術(DX-Core※2、Hydro Q-BiC※3など)
  • 自然関連技術で規制緩和(グリーンインフラ+(PLUS) ※4
建設現場での自然関連規制や監視が強化 R 評判リスク、ブランド毀損 ↓↓ 短期~長期
  • 独自の自然関連評価に基づく対策を実施(自然KY)
  • 地域や自然関連ステークホルダーとのエンゲージメント
下流 「自然性能※5」の評価やモニタリングの要求 R 長引く施工責任、後施工の増加、管理負担の増大 ↓↓ 短期~中期
  • 「自然性能※5」を査定できる人財、組織の構築
O 「自然性能※5」を顕現化し差別化する技術 ↑↑ 短期~中期
  • 「自然性能※5」を高めることで不動産価値向上へ寄与
総量規制を含む再資源化への強い要請 R 設計段階からの強い制約 ↓↓↓ 長期
  • 「新Kanたす※6」による副産物管理
  • 設計施工段階から建物解体撤去を見据えた4R活動の徹底
O 解体技術が施工能力に直結 ↑↑↑ 長期
  • 「新Kanたす※6」による副産物管理
  • リサイクルルートの開拓、積極採用
  1. 清水建設が所有する世界最大級の搭載能力及び揚重性能を備えた自航式SEP船
  2. 建物内の設備やIoTデバイス、各種アプリケーションを容易に連携・制御できる建物運用デジタル化プラットフォーム機能を備えた建物OS(オペレーティングシステム)
  3. 再生可能エネルギーの余剰電力で水を電気分解し、発生した水素を吸蔵合金に蓄えたのち、必要に応じて取り出して発電できる建物付帯型水素エネルギー利用システム
  4. 自然の持つ機能を賢く活かしながらインフラ整備するとともに、シミズグループが持つソフトや技術を「+」することで、自然の恵みを地域全体に還元する事業コンセプト
  5. 自然の状態に目標を定め、それに向かって工法や対策をとる場合、選択した工法や対策が目標に対してどの程度有効かを示す能力。例えば、小動物の移動経路を整備し実際に移動可能である性能や、鳥類のねぐらへの影響低減を図った工法選択が在来工法よりも影響が少ないという性能
  6. 建設副産物の種類別発生量の予測をはじめ、削減メニューの提示、電子マニフェストの発行、全社の副産物排出量管理など、建設副産物の効率的で統合管理が可能なシステム

(4)清水建設のネイチャーポジティブに向けた戦略

「自然KY」による自然環境の現状把握と保全・再生の機会予測

当社は、建設現場周辺の自然を植生自然度に基づいて評価し網羅的に可視化し簡便に把握する「自然KY」を開発しました。「自然KY」は、建設現場周辺の自然の状態を把握・評価することで、自然への影響を考慮して建設を行う「リスク管理」を中心とした対策と、自然再生の機会を発見し「自然再生や創出」の提案を行い、ネイチャーポジティブに貢献する取組みです。労働災害や事故が発生しやすい作業を評価し特定するKY(危険予知)活動になぞらえ、「自然KY」と名付けました。KYには自然を再生するKY(機会予測)の意味も込めています。
この自然を評価する取組みを営業段階から実施することで、自然への影響を考慮した上で事業判断を行うほか、自然関連課題を早期に把握、ミティゲーション・ヒエラルキー(回避、低減、再生、オフセット)の考えに沿った対策を実施することができます。

「自然KY」による建設現場周辺の自然の可視化

「自然KY」による建設現場周辺の自然の可視化

ネイチャーポジティブに向けた実例紹介

持続可能なコンクリート型枠合板使用の取組み

持続可能なコンクリート型枠合板使用の取組み

建設副産物削減等に向けた取組み

(5)優先地域の特定

優先地域の特定は、建設事業において2023年度内に稼働中の建設現場1064件を対象とし、自然KYの取組みを実施しました。なお、上流と下流では優先地域を特定できていませんが、今後評価を進めていく予定です。

2023年度稼働中の建設現場における優先地域

2023年度稼働中の建設現場における優先地域

リスクとインパクト管理

自然関連課題の管理プロセス

事業範囲 管理項目 管理手法
上流 サプライチェーン全般の自然関連リスク
  • CSR調達アンケート
重要課題(コンクリート型枠)
  • 型枠合板への取組み
直接操業 優先地域の特定
自然関連リスク
自然再生の機会
  • 「自然KY」
  • 全社の非財務KPI
    (自然KYによる環境分析実施率)
下流 建設副産物
  • 建設副産物管理システム
    「新Kanたす」

指標と目標

(1)依存と影響に関する指標と目標について

依存と影響に関するTNFDグローバル中核開示指標と当社の実績(2024年度)

測定指標番号 自然の変化の要因 指標[単位] 測定項目 実績 目標
TCFD 気候変動 GHG排出量 CO2排出量 TCFD参照 TCFD参照
C1.0 陸/淡水/海洋利用の変化 総空間フットプリント [km2] 工事範囲の面積 工事範囲の集計「次項目参照」 -
C1.1 陸/淡水/海洋の利用変化の範囲 [km2] 工事による土地変化面積 工事による土地変化範囲を集計「次項目参照」 -
C2.0 汚染/汚染除去 土壌に放出された汚染物質 (土壌汚染対策法遵守)
  • 環境不具合
環境不具合ゼロ 環境不具合ゼロ
C2.1 排水排出 (水質汚濁防止関連法遵守)
  • 環境不具合
環境不具合ゼロ 環境不具合ゼロ
C2.2 廃棄物の発生と処理 [t] (建設副産物関連法遵守)
  • 処分形態別
  • 再利用別
環境パフォーマンスデータ参照 2030年、最終処分率3.0%未満
C2.3 プラスチック汚染 [t]
  • 処分形態別
環境パフォーマンスデータ参照 (2023年度実績より開示予定) 2030年、プラスチック最終処分率15%以下
C2.4 GHG以外の大気汚染物質 [t] (大気汚染防止関連法遵守)
  • NOx,SOx
  • フロン
環境パフォーマンスデータ参照 -
C3.0 資源の利用 水不足の地域地域からの取水量と消費量 [m3] (水質汚濁防止関連法遵守)
  • 取水
  • 排水(公共排水)
環境パフォーマンスデータ参照 -
C3.1 陸/海洋/淡水から調達する高リスク天然一次産品の量 [t]
  • 木材
型枠合板の種別内訳
(持続可能なコンクリート型枠合板使用の取組み)
2030年、外国産合板(非認証材)ゼロ
  • 生コンクリート
  • 鉄鋼(鋼材、鉄筋)
環境パフォーマンスデータ参照 -

陸/淡水/海洋利用の変化

2023年度竣工案件を対象とし、「C1.0:総空間フットプリント」では、報告年度での竣工工事案件における工事範囲の総面積を、「C1.1:陸/淡水/海洋の利用変化の範囲」では、工事により状態が変化した土地の面積を集計しました。
土地利用は当社の重要課題と認識していますが、当社の主要な事業である建設事業では、請負による施工という構造の性質上、目標数値は設定していません。しかし、自社事業の一部である不動産開発事業や太陽光発電事業による土地利用の変化の把握は必要であるため、今後集計を進めていく予定です。

C1.1:自然度・事業種別の陸/淡水/海洋の利用変化の範囲(2023年度竣工)

自然度別・事業種別のC1.1

建設現場周辺の自然度=建設現場の中心から半径2kmの範囲で植生自然度を面積に応じて加重平均したスコア
高:法定保護区内、自然度スコア7以上(自然植生、自然植生に近い二次林を多く含む)
中:自然度スコア4以上(二次林、植林、草原など)
低:自然度スコア2以上(ゴルフ場、公園、緑の多い住宅地、田畑など)
微:自然度スコア2未満(人工的土地利用を多く含む)

建設副産物削減等に向けた取組み

建設副産物の実績値については環境パフォーマンスデータにて公開しており、プラスチックについては2023年度実績より開示を予定しています。これらの目標は「エコ・ファーストの約束(更新書)」で掲げているものです。

資源の利用について

上流の重要課題の1つであるコンクリート型枠合板に関して、協力会社へのアンケートを実施し、2023年度に当社建設現場で使用した外国産合板(認証材)の占める割合は52%、外国産合板(非認証材)は45%という結果が得られました。今後は、生態系を回復軌道に乗せるネイチャーポジティブの考え方に基づき、2030年に外国産合板(非認証材)をゼロとする目標を立て、持続可能な木材利用に向けて取組みを進めていきます。

(2)リスクと機会に関する指標と目標について

2024年度版では、実績が未確認の指標も多いため、今後、対応を検討していく予定です。
本編では、指標番号C7.0の移行リスクのうち、コンクリート型枠合板にかかるコストを試算しています。

有識者コメント

TNFDタスクフォースメンバーである農林中央金庫秀島弘高氏、藤田香氏のお二人から、2024年度の開示について、また、今後の課題についてコメントをいただきました。
いただいたコメント等を踏まえ、今後は、「攻め」の取組みをビジネス創出の機会として深めるべく、また、TNFD提言を私たちが2050年に目指す脱炭素、資源循環、自然共生による持続可能な社会の実現への進捗を確認する手段として位置づけ、多様なステークホルダーの皆様に対して目標達成度をご報告していく予定です。

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