ダム建設最前線

ダム両輪(ダム新設、ダム再開発)施工の時代

ダム建設最前線 ダム両輪(ダム新設、ダム再開発)施工の時代

ダム建設最前線 ダム両輪(ダム新設、ダム再開発)施工の時代

当社は2020年から2023年の3年間で、八ッ場ダムをはじめとした新規のダム建設工事を3件、既設ダムの再開発工事を2件完成させました。現在、前者を2件(足羽川ダム、利賀ダム)、後者を3件(あいののダム、千五沢ダム、野村ダム)施工中です。新規のダム建設だけでなく、既設ダムの再開発にも積極的に取り組んでおり、ダム工事におけるトップランナーとなっています。

日本最大の流水型ダム-足羽川ダム-

足羽川ダムは、福井県の一級河川九頭竜川水系足羽川支川の部子(へこ)川(がわ)に新たに建設中の流水型のダムです。平常時は水を貯めることなく下流へ流し、大雨時にのみ河床部のゲートを閉じてダム湖に水を貯め、下流に安全な量だけ流す仕組みで、貯めた水は、下流域への影響を考慮し、ゲートで流量を調整しながら放流します。
堤高90m、堤体積70万m3の大型ダムのため、八ッ場ダムと同様に巡航RCD工法でダムを建設します。

※RCD( Roller Compacted Dam Concrete )工法:重力式コンクリートダムの合理化施工法。セメント量を少なくした超硬練りのコンクリートをブルドーザで敷均し、振動ローラーで締固める工法
本工事では、コンクリート運搬設備「SCプレミアムベルコン」と18tケーブルクレーンを2基設置し、高速施工を行います。また、ダムコンクリート自動打設システムを導入し、コンクリートの材料供給から、製造、運搬、打設を完全自動で行います。

足羽川ダム全景
足羽川ダム全景

足羽川ダム

所在地
福井県今立郡池田町小畑
発注者
国土交通省近畿地方整備局
工期
2020.8~2024.3(第1期)
構造・規模

重力式コンクリートダム

堤高96m、堤頂長351m 
堤体積670,000m3

多種多様な再開発工事に挑戦

日本では、治水・利水の課題に対処するために流域の特性に応じてダムを整備してきました。近年、気象状況の変化により局所的な集中豪雨(ゲリラ豪雨)、度重なる台風来襲、頻発する異常渇水などがあり、治水・利水機能の強化が求められています。
また、ダムの堤体は、適切に維持管理されれば、半永久的に健全であることが期待できることから、ダムを新設することなく、既設ダムを活用して機能増強工事を行う「ダム再開発」が数多く実施され、洪水、渇水被害を軽減し、治水・利水機能の向上が図られています。
当社では、「新中野ダム」の堤体嵩上げ工事、「鹿野川ダム」の堤体外のトンネル洪水吐き工事、「千五沢ダム」洪水吐き改造工事などを行ってきました。その中で、特筆すべきダム再開発が現在施工中の「野村ダム」ダム堤体内洪水吐き増設工事です。

国内2例目の浮体式上流仮締切の導入-野村ダム-

野村ダムは、愛媛県の一級河川肱川ひじがわの最上流部に位置する、洪水調節、農業用水、流水の正常な機能の維持を行う多目的ダムとして、1981年に完成しました。2018年7月の西日本豪雨の際に肱川下流域で洪水被害が発生。このため、洪水調節能力の増強を目指し、既設ダムに放流設備を1基増設する改良計画が策定されました。当社はECI(Early Contractor Involvement)方式で発注された野村ダム施設改良事業を受注し、施工計画策定の段階から技術協力を行っています。
本工事では、国内2例目の浮体式上流仮締切を導入しています。既設のダムを運用しつつ行う再開発工事では、水中に構築する基礎構造物を確実に施工するため、川の水を一時的に遮断する、扉体と呼ばれる鋼製部材を積み重ねた「仮締切工」が必要となります。従前は、施工に多くの潜水作業が必要な台座コンクリート方式やブラケット方式が用いられていましたが、本工事では、浮体式を導入し、潜水作業の大幅な削減による作業効率の向上と省人化を図ります。

野村ダム全景(下流面)
野村ダム全景(下流面)
野村ダム 増設放流設備・減勢工断面図
野村ダム 増設放流設備・減勢工断面図
野村ダム 上流側断面図
野村ダム 上流側断面図

野村ダム

所在地
愛媛県西予市野村町野村
発注者
国土交通省四国地方整備局
工期
2023.5~2025.12(第1期)
構造・規模

重力式コンクリートダム 増設放流設備・減勢工設置

堤高60m、堤頂長300m 
堤体積254,000m3

流入部にラビリンス型洪水吐き-千五沢ダム-

千五沢ダムは、福島県の一級河川阿武隈川水系北須川に位置し、かんがい用水の補給を目的として、1975年に完成しました。しかし、近年の農業を巡る情勢が大きく変化したことに伴い、農業用水としての利用が減り、ダムに空き容量が生じました。この空き容量を治水容量(洪水調節)として活用し洪水被害を軽減させることを目的として、改築工事が計画されました。流入部洪水吐きの改築(ラビリンス構造)、重力式ダムの新設、水位低下設備の新設、管理棟・管理設備の更新をします。
千五沢ダム再開発工事は、ダムの機能を維持したまま施工を行うことが必須の条件のため、農繁期を除く、11月~2月に洪水吐きの工事を行う必要がありました。冬期の気温低下時にコンクリート工事を行うため、打設中は打設箇所をシートで覆い、ジェットヒーターなどで給熱養生を実施。打設後には保温養生を行い、厳冬期という悪条件の中ではありましたが、コンクリートの品質を確保しました。

流入部洪水吐き(ラビリンス)3D模型
流入部洪水吐き(ラビリンス)3D模型
流入部洪水吐き全景
流入部洪水吐き全景
試験湛水の様子(2023年11月)
試験湛水の様子(2023年11月)
満水の様子(2024年1月1日)
満水の様子(2024年1月1日)

千五沢ダム

所在地
福島県石川郡石川町大字湯郷渡
発注者
福島県
工期
2014.10~2024.3
構造・規模

アースフィルダム

洪水吐き改築、重力式ダム部新設、水位低下設備新設、管理棟・管理設備更新

堤高43.0m、堤頂長176.5m 
堤体積347,000m3

ダム施工の効率化、省人化を図る

建設業界には、人材不足や技能継承、危険な現場での作業、長時間労働の常態化などの課題があります。DXを用いた最新技術やツールの導入により解消することが期待されています。特にダム工事においては、山間部での施工という条件から、危険性が高いため人材を集めることが難しく、2交代施工による長時間労働も懸念されます。このため、DXによる施工の効率化、省人化の効果が非常に高い分野と考えられます。

コンクリート運搬設備「SCプレミアムベルコン」

コンクリートダム工事においては、コンクリート打設の割合が全体の半数超を占めており、コンクリート打設の効率化が工事全体の生産性向上の鍵を握ります。当社は、打設効率を高める上で、特にコンクリートの運搬能力の向上が重要となることに着目。急傾斜の法面でも直線的に配置でき、運搬効率を最大化できる袋状のベルトコンベヤを利用したコンクリート運搬設備「SCプレミアムベルコン」を開発しました。実運用に向けて、福島県いわき市にて実証試験機を設置し、実証実験に取り組んでいます。
今後は本設備を2024年夏に足羽川ダムに導入し、コンクリート工事の生産性向上を目指します。

袋状ベルトコンベヤ
袋状ベルトコンベヤ
いわき実証試験機
いわき実証試験機

ダムコンクリート自動打設システム

ダムコンクリートは現場のコンクリート製造設備で練混ぜ、ケーブルクレーンなどを利用して運搬、打設します。この一連の作業は数万回も繰り返して行うものであり、本作業を効率化することはダム工事の生産性向上に大きく寄与します。このため、当社はコンクリート材料(骨材、セメント、水)の供給から製造、運搬、打設の作業を自動で行う「ダムコンクリート自動打設システム」を開発しました。
本システムは、打設計画を作成し、システムに入力することで一連の作業を完全自動で行うことが可能です。これにより、コンクリート打設に関連する人員を2/3に圧縮でき、生産性の向上、省人化に寄与しています。また、熟練したオペレータでなくてもシステムの運用が可能なため、今後予想される熟練技能者の離職にも対応できる技術です。2019年に簗川ダム(岩手県)で実装。改良を加え、現在、足羽川ダムに導入しています。

システム概要図
システム概要図

ダムコンクリートの締固め管理システムを搭載したバイブレータ付きバックホウ(バイバック)「SCプレミアムバイバック」

ダムコンクリートを構築するには、骨材とセメントを均一化させるため、打設時にバイブレータ付きバックホウ(バイバック)を用いてコンクリートの締固めを行います。締固め完了の判定は、現場技術者の経験に基づき行われていますが、適切かつ安定した品質を確保するため、ICTで計測した客観的なデータを基に定量的に作業完了判定を行う、締固め管理システムを開発しました。締固めの指標を表面の平坦度(凹凸)とし、3次元スキャナで計測。締固め位置はGNSSと各種センサにより3次元座標で把握します。本システムを搭載したバイブレータ付きバックホウ(バイバック)「SCプレミアムバイバック」の実装を開始しています。

SCプレミアムバイバック外観
SCプレミアムバイバック外観
コンクリート締固め状況
コンクリート締固め状況

粒度分布検出システム

ダムコンクリート作成に必要な骨材は、現場の原石山より採取した岩を破砕し切り出した後、粒度別に分級する作業「ふるい分け試験」が行われたものが使用されています。従来、ふるい分け試験は手作業で行われており、かつ、ダムコンクリート打設は2~4年と長期間に及ぶため、多くの人工と時間を要していました。そこで、ベルトコンベヤ上にレーザスキャナを設置し、運搬される骨材の点群データをとり、そのデータをAI判定することで粒度分布を検出するシステムを開発。生産性の向上、省人化に寄与しています。

ベルトコンベヤ上のレーザスキャナ
ベルトコンベヤ上のレーザスキャナ
レーザスキャナにより取得された点群データ
レーザスキャナにより取得された点群データ

ダム建設の今後の展望

2024年4月1日からは時間外労働の上限規制が適用され、さらなる生産性の向上、省人化、労働時間の削減に向けた取り組みが必要となります。当社は引き続き、ダム建設工事の生産性向上や省人化に寄与する技術開発を行い、実用化、普及に向けて取り組んでいきます。ダム建設工事が新設工事、再開発工事と多様化する時代。しっかりと両輪で歩み、社会インフラの整備に寄与していきます。

記載している情報は、2024年3月15日現在のものです。
ご覧になった時点で内容が変更になっている可能性がございますので、あらかじめご了承ください。

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