技術研究所から都市型ビオトープ「再生の杜」の12年
シミズの技術研究所(東京都江東区)にビオトープ「再生の杜」を開設して12年が経ちました。10年以上にわたって生物や植生環境のモニタリングを行い、データを蓄積してきた例は珍しく、貴重な取り組みとして注目を集めています。
また、シミズ・オープン・アカデミーなどを通じて、年間約3000~4000人が訪れ、環境教育の場としても役立っています。
「再生の杜」の歩み
再生の杜は、2006年に、都市部における生物多様性向上の可能性を実証するために建設されました。敷地面積は1,940㎡で、池や流水路を備えた水辺域、湿地域、落葉林、常緑林など、植生の異なるゾーンを設けて、多様な環境を実現しています。
現在は、技術研究所 主任研究員の林豊、研究員の平野尭将と渡部陽介が主担当として、ビオトープに関する調査・研究を行っています。
建設当時から再生の杜に携わってきた林は「単に植物を植えて池をつくるだけでは、地域に即した生態系と違うものになってしまいます。そのため、事前に周辺環境を調査して生物を選択し、必要とする環境をビオトープに盛り込みました」と語ります。
開設当初に植栽した植物は200種類。遺伝子のかく乱を防ぐために、全て関東近辺由来のものとし、表土には関東近辺の田畑の土を使用しました。池に放した魚も江戸川流域の河川から採取してきたものです。中には絶滅危惧種のミナミメダカも含まれていて、ビオトープでの保全の可能性を検討しました。
つくった後の環境の変化を調べるため、人の手はなるべく入れないようにしていますが、増えすぎた種の間引きや外来種の排除など、ある程度のメンテナンスは必要です。
「どの植物が貴重なのかを造園屋さんに伝えておかないと、全部一緒に刈られてしまったりするので、最初は草刈りも研究員だけで行い、刈るべき植物、残すべき植物のリストを作成しました」と林は振り返ります。
10年におよぶモニタリングの成果
近年、各所でビオトープがつくられているものの、長期に渡りモニタリングしているところはあまりありません。
緑地の評価・計画に関する研究を進めている渡部は「ビオトープの生態系は年々推移するので、継続的にモニタリングし、時間をかけて順応的にビオトープづくりを行うことが、問題点の抽出・改善や生物多様性の向上につながります」と語ります。
建設から10年目に行ったモニタリングでは、下記のような結果が得られました。
対象 | モニタリング結果 |
---|---|
・植物全般 | 整備当初は200種を植栽。10年を経て、表土の埋土種子などから絶滅危惧植物を含む多くの植物が出現し、296種となった。 |
木本 | 当初3〜4mだったものが10m以上の高さになるなど、順調に成長。 |
草本 | 絶滅危惧種に指定されているタヌキマメ、タヌキモ、トチカガミが生息し続けている。 |
・昆虫類 | 当初の160種とほぼ同じ種数を確認。水辺面積が広いことから、トンボは10年で16種類が飛来した。 |
・鳥類 | 東京都区部の絶滅危惧種、カワセミを始め、サギ類やカモ類が頻繁に飛来。都市部ではオオタカよりも珍しいと言われるハイタカを含め、多様な鳥類が確認されている。 |
モニタリングで得られた主な動植物
これらの結果を受け、入社3年目の平野は「樹木の成長によって、より良い環境になったことが生物多様性の向上につながったと言えます。ただ、密植による課題も出てきたため、11年目以降は、ある程度伐採するなどして経過を見ているところです」と現在の状況を分析します。
都市型ビオトープの未来
これからのビオトープを考える上でのキーワードのひとつが「ネットワーク」です。近年は、生物多様性に配慮するという動きが、学校や地域、行政、民間企業にも普及してきています。
規模は小さくても、屋上や校庭など各所にビオトープができれば、生物が行き来するネットワークが形成され、郊外から都心まで多様な生物が生息できる環境が整うことが期待できます。
もうひとつのキーワードは「グリーンインフラ」です。SDGsやESGへの関心が高まる中、水循環の健全化や暑熱環境の改善、防災・減災、また、健康・福祉、環境教育など、地域が持つさまざまな課題解決に向けて、都市型ビオトープが果たす役割がますます大きくなっていくと考えられます。
「社会やお客様に対し、都市環境にはこういうものが必要で、こういうメリットがあるということを、データに基づいて発信していきたい」と3人は力強く語りました。
今後もシミズは、生物多様性だけでなく、さまざまな効果を
複合的・総合的に発揮していけるよう、ビオトープ創出技術を 改良・改善し、検証を進めていきます。記載している情報は、2018年9月21日現在のものです。
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