技術研究所から水素エネルギーが創り出す
CO2フリーの未来
日本のCO2排出量の約40%は、どこから発生しているかご存知ですか?
実は、建築関連なのです。そのうち80%近くは、建物運用時のエネルギー消費。つまり、照明やエアコンなどの空調設備やエレベーターを利用するために、膨大な量のCO2が排出されているわけです。
太陽光でつくった電力を水素に変えて運用する
当社技術研究所の野津 剛は、建物のCO2排出をできるだけ抑える仕組みについて思案していたある日、こんなアイデアを思いつきました。
「建物を運用するための電力を、水素エネルギーでまかなえないだろうか?」
水素(H2)は、酸素(O2)と化学反応させると、電気と水(H2O)をつくり出します。その反対の原理で、水に電気を流して水素と酸素に分解することで、水素をつくり出すことができます。この時の電力に、太陽光などの再生可能エネルギーを用いれば、水素の製造過程でCO2を排出することがありません。
このCO2フリー水素※1を「ガスや電気と同じようにビルのエネルギーマネジメントに活用できないだろうか?」という発想から構築したのが、『水素エネルギー利用システム』です。
太陽光発電によってつくられた電力で水を電気分解して水素を製造し、水素吸蔵合金に貯蔵、必要に応じて水素を放出させて空気中の酸素と化学反応させることにより、電気と熱を取り出すという概要です。
実現すれば、建物運用時のCO2排出を限りなくゼロに近づけることができます。
※1CO2フリー水素 … 再生可能エネルギーから製造した水素。
野津が率いる技術研究所 エネルギー技術センターの水素技術グループは、延床面積1,000㎡程度の建物規模での実証実験の準備に取り掛かりました。
大量の水素をどうやって貯蔵する?
水素エネルギー利用システムの実用化に向けて、課題となったのは水素の貯蔵方法でした。気体のままで貯蔵するには大容量のタンクが必要で、当然、貯蔵スペースも大きくなります。また、水素は爆発の危険性をはらんでおり、例えばビル内の閉鎖された空間で高圧の水素が漏れ出して火が着くようなことがあれば、甚大な被害が予想されます。
この課題を解決する鍵となったのが、産業技術総合研究所が研究を進めていた水素吸蔵合金でした。水素吸蔵合金は、体積当たりのエネルギー密度が高く(最大で体積の1,000倍の水素を吸蔵)、少ないスペースで大量の水素を貯蔵することができます。
安全性については、水素吸蔵合金の配合を工夫することでクリア。水素吸蔵合金は、水素の吸蔵・放出によって、ボロボロと崩れる水素脆化という現象を起こします。これを繰り返すと粉末になり、着火しやすくなってしまうのです。
当社は産業技術総合研究所とともに幾度となく理想的な配合を探り、水素の吸蔵・放出性能を確保しつつも、粒子が細かくならず、着火しない合金をつくることに成功しました。
10カ月に及ぶ実証実験で得たもの
理想的な水素吸蔵合金の開発に成功した当社は、2017年6月からいよいよ実証実験を開始しました。約10ヵ月に及んだこの実験では、実際の建物の電力・熱需要データに基づき、スマートBEMS※2が太陽光発電や建物の状況を勘案しながら、水素の製造、貯蔵、放出などを監視・制御。具体的には、春や秋につくった余剰電力を水素に変えて貯蔵し、夏や冬の空調に活用するなど、効率的なエネルギー制御技術の確立を目指しました。
※2スマートBEMS…シミズが開発した建物のエネルギー制御システム。分散型電源や各種建物設備機器を統合的に最適制御することで、快適かつ効率的に省エネを実現できる。
燃料電池は、水素を用いて発電する際に熱も発生します。そのため、ホテルや病院といった大量の給湯が必要な建物とは、特に相性が良いシステムだということがわかりました。
水素吸蔵金の性能試験では1,000サイクルほどの吸蔵・放出を繰り返しましたが、劣化はわずか水素吸蔵合金の数パーセント。「通常の運用サイクルであれば、10年は問題なく運用できそうです」と、野津は耐久性の面でも自信を覗かせます。
CO2フリーの実現はもちろん、BCPにも期待
「今後は実際の建物で試してみたいですね」と、実用化に向けた次のステップを見据える野津。
近い将来、郊外に設置したメガソーラーや洋上のウインドファームで発電した電力を水素貯蔵し、街をまるごと効率的にエネルギーマネジメントできるようになれば、CO2排出量の問題など過去の遺産となってしまうのかもしれません。
大量かつ長期保存が可能な水素エネルギー利用システムは、BCP※3用の電源としても期待できるでしょう。クリーンさと持続可能性を併せ持つスマート街区の実現に向けて、水素エネルギー利用システムへの期待は高まります。
※3BCP … 災害や事故等の発生に伴って、通常の事業活動が中断した場合、可能な限り短い期間で、事業活動上最も重要な機能を再開できるように、事前に計画・準備し、継続的メンテナンスを行う“事業継続計画”のこと。
記載している情報は、2018年6月15日現在のものです。
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