生産・物流施設の今

BCPとPIC/S GDPに対応した最先端の医薬品倉庫アルフレッサ福岡物流センター

生産・物流施設の今

生産・物流施設の今BCPとPIC/S GDPに対応した最先端の医薬品倉庫 アルフレッサ福岡物流センター

製造から販売まで、サプライチェーン全体で高度な品質管理が求められる医薬品。その需要の高まりとともに、物流機能の重要性が注目を集めています。
2018年10月、災害発生時のBCP(事業継続計画)や、厳格な温度管理などが求められるPIC/S GDP※1に対応した最先端の医薬品倉庫が、当社の設計施工により福岡に完成しました。

1 PIC/S GDP(Pharmaceutical Inspection Co-operation Scheme Good Distribution Practice)…医薬品の流通過程における温度管理、衛生管理、各種手順書などの作成などに関する国際基準

「安震(あんしん)スライダー」を自動倉庫に初採用

本医薬品倉庫の発注者は、医薬品、医療用検査試薬、医療用機器の卸売販売大手のアルフレッサ株式会社。
建設に当たってのニーズは、地震などの災害に備えた設備を有するBCP対応の建物であること、医薬品の流通に関する国際基準PIC/S GDPに対応する建物であること、でした。
このご要望を受けてシミズは、立体自動倉庫※2に自社の開発技術である免震装置「安震スライダー」の導入を提案、当装置の初採用施設となりました。

2 立体自動倉庫…棚を集中配備し、自動的に荷物の入・出庫を行う施設

そもそも、縦長の架構である立体自動倉庫は、揺れやすい構造となっています。
東日本大震災では、継続時間の長い揺れにより、震源から半径300kmにわたる広い地域において、立体自動倉庫に荷崩れ被害が発生しました。中には、建物自体に被害がなかったにもかかわらず、立体自動倉庫の一部の荷崩れによって搬送機器が使えなくなり、業務再開に数ヶ月を要した事例も見受けられました。
物流の核を成す立体自動倉庫の荷崩れ対策は、BCPを考える上で非常に重要であると言えます。
地震による立体自動倉庫の荷崩れ防止を目的とした安震スライダーは、立体自動倉庫の下に設置した架台を支持する免震装置です。直交するレール状部材のそれぞれがスライドすることにより、あらゆる水平方向の揺れに対して免震効果を発揮します。

安震スライダー
安震スライダー 安震スライダー

安震スライダー。すべり板には勾配がついていて、地震が終わると自然に元の位置に戻る(復元機能)。勾配による復元力とすべる際の摩擦抵抗で地震のエネルギーを吸収する(減衰機能)。支持する重量に応じて復元力・摩擦抵抗が変わるため、時間によって荷物の量が変化し、荷重の偏りが生じる立体自動倉庫に適している〔特許取得済〕

立体自動倉庫の下に設置した架台と床の間に、安震スライダーを配置することで、地震の揺れを減衰させ、動いた架台を元に戻すことができる 立体自動倉庫の下に設置した架台と床の間に、安震スライダーを配置することで、地震の揺れを減衰させ、動いた架台を元に戻すことができる
立体自動倉庫の下に設置した架台と床の間に、安震スライダーを配置することで、地震の揺れを減衰させ、動いた架台を元に戻すことができる
安震スライダーを採用した立体自動倉庫
安震スライダーを採用した立体自動倉庫
設計本部 生産・研究施設設計部 設計長の石谷 悟

本医薬品倉庫を担当した設計本部の石谷 悟は、「安震スライダーは、建物全体ではなく立体自動倉庫の床に局所的に取り付ければ良く、非常にシンプルな機構なのでコストが抑えられます。メンテナンスフリーであることも大きなメリット。この装置の導入により、震災時でも荷崩れを防ぐことができ、医薬品を必要なところに素早く送り出すことができます」と語ります。

そのほか、災害時72時間稼働のため、大型非常用発電機および緊急給水槽・排水貯留槽を設置するなど、非常時にも継続的に医薬品を供給できる物流体制を整えました。

PIC/S GDPを想定した厳格な温度・衛生管理

医療用医薬品はこれまで、製造業、製造販売業においてはさまざまな管理基準が明確になっていましたが、卸売販売業においては明確になっていませんでした。
それが2018年12月、厚生労働省により、PIC/S GDPに準拠した国内向けガイドライン(医薬品の適正流通(GDP)ガイドライン)が発行され、近い将来、省令化されて医薬品物流施設に適用されると見られています。
これまでも、医薬品物流倉庫は、一般の物流倉庫とは異なり、温度管理などを行っていましたが、本医薬品倉庫では、厳しい温度 管理を含めた質の高い気密性の確保などが求められるPIC/S GDPを想定して、設計内容に反映させました。

これまでの医療用医薬品の製造から販売までの流れ

これまでの医療用医薬品の製造から販売までの流れ これまでの医療用医薬品の製造から販売までの流れ
  • GMP(Good Manufacturing Practice):製造管理及び品質管理に関する基準
  • GVP(Good Vigilance Practice):製造販売後安全管理基準
  • GQP(Good Quality Practice):製造販売品質保証基準
  • 施行規則:医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律施行規則
  • 体制省令:薬局並びに店舗販売業及び配置販売業の業務を行う体制を定める省令

具体的な対応として、すべての入出荷口にドッグシェルターや二重シャッター、人の出入りする箇所に前室を設けることで、温湿度を乱しかねない外気の流入や虫の侵入を極力防ぐようにしています。

ドッグシェルター
前室(右)

ドッグシェルター(左)と前室(右)。建物へのモノや人の出入りの際に、外気の流入や虫の侵入を極力防ぐ

中でも、医薬品倉庫にとって重要な防虫・防鳥対策については、虫や鳥の専門家を擁する当社設計本部 設計技術部 生態系グループと連携。現地の虫や鳥を調査したうえで、鳥の糞害が及びそうな箇所にはあらかじめワイヤーを渡して鳥が留まれないようにするなど、的確な防御対策を講じました。

また、倉庫や保冷庫などの庫内の温度管理基準を定め、庫内条件を均質に保つために適正な空調機を配置。併せて、空気を撹拌するためのエアー搬送ファンも設置しました。これらの空調設備にはバックアップ系統を用意し、1系統が故障しても100%の空調対応能力を保てるようになっています。

空調機とエアー搬送ファンにより、庫内条件を均質に保つ
空調機とエアー搬送ファンにより、庫内条件を均質に保つ

用途に合った最適なスペック

BCP対策やPIC/S GDPのような品質管理基準に応じた対策は、手厚くするほど安心感を得られることから、ともすればオーバースペックに陥りがちです。「本プロジェクトでは、発注者とともにPIC/S GDPの考え方を精査し、適切なコスト感覚を持って用途に見合った最適なスペックを採用しました」と石谷は話します。

従来の物流施設はもちろん、厳格な衛生管理が必要とされる医療施設や食品関連施設などにも多くの実績を持つシミズは、防虫や防鳥を含め、あらゆるニーズに対応できる引き出しが豊富。
新しい時代に求められる物流施設の進化をリードしていきます。

北東面から見た夜景。倉庫への開口部周辺では黄色の防虫ライトが光っている
北東面から見た夜景。倉庫への開口部周辺では黄色の防虫ライトが光っている

記載している情報は、2019年10月3日現在のものです。
ご覧になった時点で内容が変更になっている可能性がございますので、あらかじめご了承ください。

おすすめ事業トピックス