
新エネルギーへの夢 大型陸上風車の未来を切り開く
昼夜を問わず風の力で発電する陸上風力発電。再生可能エネルギーの需要拡大に伴い、その需要はますます加速する見込みです。中でも、発電効率が良い大型風車の市場投入が予想されており、当社は風車の大型化に対応すべく、国内最大の陸上風車建設用のタワークレーンを開発しました。
国内最大・最高性能で効率良く建設
当社が開発した「S-Movable
Towercrane(エスムーバブルタワークレーン、SMTC)」は、大型陸上風車の建設に対応可能な移動式タワークレーンです。
作業可能な高さは最高152m、揚重能力は最大145tと自立式タワークレーンでは国内最大・最高性能を誇り、6~7MWクラスの大型陸上風車を効率良く建設することができます。
2023年に完成し、各種試験などを経て、24年には国内最大級の陸上風力発電プロジェクト「芦川ウインドファーム(WF)」(北海道)の南側区画に適用。4.3MW風車を施工しました。
設置した風車は、支柱の高さ85.0m、ブレード(羽根)の長さ60m、ブレードの最高到達点145mです。1基目の風車施工では、部材の荷下ろしから支柱の建て方、ブレードとローター(風車の回転部)の地組(地上での事前組み立て)、ブレードを取り付けたローターの揚重・組み立てに至る一連の作業を4日で完了し、想定通りの施工性を発揮しました。


作業可能高さ | 最高152m |
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揚重能力 | 最大145t |
商標登録内容 S-Movable Towercrane 【登録番号】商標登録第6441546号(T6441546)
SMTCの主な仕様

SMTCでの施工状況
芦川WF南側区画の工事概要
- 所在地
- 北海道天塩郡豊富町
- 発注者
- 合同会社道北風力
- 工期
- 2020.4~2025.7
- 設計施工
- 清水建設株式会社
- 工事内容
- 4.3MW風車15基、連系変電設備、構内電線路の建設
開発の背景
日本は2020年のカーボンニュートラル宣言以降、2050年までのCO2排出量ゼロの達成に向けて動き出しています。その一方で、陸上風力発電における売電単価は年々下がっています。そこで事業性を向上させるために、発電効率の良い風車の大型化が進行しています。

風車を大型化することで、より強い風が吹く上空で安定した稼働ができ、電力の増産につながります。こうした観点から今後6~7MWクラスの大型風車の市場投入が予想されています。さらに、過去に建設された風車が耐用年数を経過することに伴うリプレース需要も増加していく見通しで、陸上風力発電施設の市場規模は2030年には5兆円を超えると見込まれています。
その一方で、現在の陸上風車建設用クレーンで対応できるのは、支柱の高さ100m・4MWクラスが限界です。さらに風車建方工事で主流として使われている1200t吊オルテレーンクレーンは日本に約16台しかなく、今後製造される予定はないとみられています。750t吊クローラクレーンを利用した施工も可能ですが、クレーンのブームの組み立て・解体作業のために広大な範囲の樹木の伐採が必要となり、国内ではその許可を得ることが厳しく採用が困難となっています。
そこで大型陸上風車の建設に適したクレーンとして、SMTCを開発しました。

施工性を高める工夫
SMTCの多軸台車移動試験状況
多軸台車での移動でサイクルを短縮【特許登録済】
国内最大・最高の作業性能のみならず、陸上風力発電施設の建設で不可欠となる風車建設サイト間の移動を早く行えることもSMTCの大きな利点です。
風車を建設した後、クレーン自らがマストを解体しながらクライミングダウンをします。クレーン本体の解体はせず、自走式多軸台車に乗せて次の風車建設サイトに移動。解体から移動、組み立てのサイクルを5日で完了します。



風を受け流す円筒形マストの採用
SMTCには、円筒形マストを採用しました。円筒形状の風力係数は0.7で、従来の矩形トラス形状の1.6と比べ、風圧の影響を低減。クレーンが風から受ける荷重を小さくすることで、マストの変形と揺れを緩和して、安定した施工を実現します。
通常マスト内の昇降設備は、はしごが一般的ですが、オペレータの負担軽減のために階段を採用しました。


ピン結合のマストステー【特許申請中】
マストステーの設置により、揚重作業時及び強風時のマストの変形を低減し、安定性と安全性が向上しています。さらには、組み立てや解体に要する時間を短縮させるため、マストとマストステーの接続部にはピン構造を採用しました。一般的には組み立て・解体時に、マストステーを固定させるために外部高所での作業を伴い、危険度が増しますが、SMTCは内部から安全に固定できます。


クレーン検査兼用のカウンターウェイト
タワークレーンは、風車を組み立てるごとに労働基準監督署のクレーン検査が必要になる場合があります。タワークレーン自身のカウンターウェイトをクレーン検査の荷重試験に利用することで試験時間の短縮を図ることができます。

遠隔操作
遠隔操作も可能としており、オペレータは運転室まで昇降することなく、玉掛けや地切り、風車組み立て時のボルト接続といった作業を目の前で確認しながら、クレーンを操作できます。遠隔操作器よりも、運転室での操作を基本とする一方、先に操作を始めた操作器を優先させることで、同時操作が効かないように制限を設け、安全な運用を可能にしています。


陸上・洋上の二刀流で普及に貢献
2050年のカーボンニュートラル実現に向け、再生可能エネルギー由来の電源の一つである陸上風車の需要はますます加速していきます。日本風力発電協会(JWPA)や経済産業省によると、2023年12月時点での陸上風力発電導入量は約5GWですが、2030年、2040年、2050年の導入目標はそれぞれ、18GW、35GW、40GWとなっています。
当社はこれまで、国内において450基近くの陸上風車を建設してきました。参照するデータによりますが、当社のシェアは2023年12月末時点で約20%に達します。
当社は陸上風力では国内最大の大型移動式タワークレーン「SMTC」を、洋上風力では世界最高性能の自航式SEP船「BLUE WIND」を武器に、風力発電施設建設のトップランナーとして、再生可能エネルギーの普及に貢献していきます。
お問い合わせ
土木技術問合せ窓口 sc-civiltech-mlist@shimz.co.jp
記載している情報は、2025年4月3日現在のものです。
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