対談「脱炭素社会の実現に向けた シミズの取り組み」

近年、世界中で地球温暖化の影響と見られる自然災害が猛威をふるっています。地球温暖化防止の枠組み「パリ協定」では、地球の平均気温の上昇を産業革命前と比べて2度より十分低く保つという世界共通の目標が掲げられており、その対応が喫緊の課題となっています。また、昨年、日本政府は、2050年までに国内の温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、カーボンニュートラルを目指すと宣言しました。本対談では東京大学大学院工学系研究科社会基盤学専攻の沖大幹教授をお招きし、脱炭素社会の実現に向けた取り組みなどについて、社長の井上と意見交換をしていただきました。

当社社長 井上 和幸、沖 大幹
左から 当社社長 井上 和幸、沖 大幹教授

企業が環境経営に取り組む意義とは

井上:地球温暖化が進み、森林破壊や海洋汚染などの問題が深刻化していく状況の中で、次世代にどれだけ豊かな地球を残せるかが求められています。当社は2005年京都議定書が発効された当時から、省エネ・CO2の排出量削減に総合的に対応する「エコロジー・ミッション」を策定し、比較的早い段階から地球環境に配慮した事業活動を行ってきました。2015年にパリで国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)が開催され、世界的な節目を迎えたほか、日本建設業連合会も施工時のCO2排出原単位を2030年に1990年比25%削減とする中期目標を設定、これらを機に、当社でも2016年に中長期目標「エコロジー・ミッション2030-2050」を策定しました。企業が持続的な成長を図るためには、気候変動問題への対応を「企業の社会的責任」として捉えるだけでなく、「成長の機会」につなげていく姿勢が求められていると感じています。企業がさまざまな形で環境経営に取り組んでいると思いますが、そのような状況を見て、先生はどのようにお考えになりますか。

:まず御社が、CO2排出量削減の中長期目標を立てているという点は、非常に重要だと思います。次の四半期あるいは来年どうするのかを考えて経営している企業が多いところ、10年後のことを語るというのは、昔はなかったのではないでしょうか。環境問題への取り組みは、CSR活動などと同様に、とにかく「やらされている」と感じている人が多いかもしれません。しかし10年後、あるいは2050年にどのような技術で社会に価値を見い出される企業になっているのかを思い浮かべて、その姿からCO2の排出量を減らすためには今どのようにすればよいか逆算する、バックキャストの考え方が、地球環境問題を考える際に一般的になってきたことが良い影響を及ぼしているのではないかと思いました。ビジネス面では、CO2の削減と経済成長の両立は、時としてうまくいかないわけです。ところが考えてみますと、建設業においても、土地、資金、搬入路などさまざまな制約がある中で工事を行い、良いものを安く提供されている。そこに温室効果ガス排出の削減という制約が一つ加わったということです。それができる会社や組織が優位に立ち、できないところは淘汰される時代に入ったのだと思います。課題に積極的に取り組み、克服した企業が、数十年後にもプレイヤーとして市場に存在するのではないでしょうか。環境経営には、社会に貢献するという部分ももちろんありますが、自社を持続可能にする活動を通じて社会が良くなる、環境も良くなるという意味では、企業と社会、環境がウィン・ウィンの関係にあります。単に社会貢献のためにやるのではなくて、まさに本業のために環境経営に取り組んでいるというところが重要なのではないかと感じます。

井上:環境問題への対応については、従業員の中には、まだ「やらされ感」を持っている者もおり、自分たちのビジネスとどうつながるのか、いまだに腹落ちしない者が相当数います。しかし、これからは環境経営を推進することが、結果として会社の業績アップにもつながるということをうまく従業員たちに示していければと思います。
特に気候変動への対応は、グローバルなテーマです。企業の社会的責任からも、しっかりと取り組まなければなりませんし、イコールビジネスだという認識をもっと深めて経営をしていきたいと思っています。
また、環境問題に一つ取り組むと、いろいろな反応が返ってきます。例えば、建設現場でCO2を削減しようとすると、今までと同じことをやっても絶対に削減できませんので、さまざまな工夫をします。そうすると、生産効率が上がるなど副次的な効果も出てくるのです。

:なるほど。いろいろなところの見直しになるのですね。

井上:社長という立場になり、そのようなことを敏感に感じるようになりました。