自社がまず持続可能に
井上: 最後に、これからの企業に求められるものについてお聞きしたいと思います。
投資家から、気候変動による事業への中長期的な影響を分析、開示することが求められています。当社は、気候変動による事業への影響を重要な経営課題の一つと捉え、ESG経営の観点からも関連情報の開示が必要不可欠と判断し、TCFD提言への賛同そして「TCFDコンソーシアム」に参画しました。気候変動による事業への影響を分析して、その結果について情報開示も行っています。また、当社は、省エネと環境に配慮した建物開発の建設資金に充当するため、環境問題の解決に資する事業(グリーンプロジェクト)に限定して発行されるグリーンボンドの発行や、今年3月には、環境成績の目標達成によって利率が変動するサステナビリティ・リンク・ローンの発行も行い、財務の面においても、環境経営を意識した取り組みを行っています。
2050年のカーボンニュートラルに向けて、そして脱炭素社会の実現に向けて企業に求められるものについて、沖先生のお考えをお聞かせいただけますか。
沖:近年、投資家が企業にESG経営を求める傾向がますます高まっていますが、世の中を良くするために求めているというより、実際には投資先を見定めるために行っているのだと思っています。2050年に存在するか分からない会社は、投資先の候補から外されるわけです。そして、30年後に会社は存続しているが、そこに向けたロードマップが描けていない会社は、投資先としてどうなのかと、かなりシビアな目で見ていると思います。
御社も含めて、企業は自社がまず持続可能でなければなりません。社会は持続可能だけど、自社は存続できないでは寂しいですね。地球環境問題の解決を考えると工夫をしなければなりません。その取り組みのプロセス自体が重要なのではないでしょうか。
井上:なるほど。将来のビジョンを描けない会社は、これからは投資対象にはならないということですね。
沖:はい。カーボンゼロを達成するのは非常に難しい。その問題を解決できる会社や組織というのは生き残れるし、それを避けているところは退場してもらうということだと思います。しかし、それをするには、技術、物やサービス、インフラが変わらなければできません。井上社長が言われたとおり、建設業界にできることはたくさんあるので、それをより先に、効率よくできる組織が有利ですね。そのような部分で競っていただくのが良いのではないかと思います。御社には大変期待しています。
井上:よく分かりました。環境問題や自然災害に対応するというのは、ある意味、自社が生き残るための一つの手段なのかもしれませんね。その結果、社会や世の中が安定して、安心な社会になることにつながるということでもあるのですね。環境問題に対応するというよりも、会社が未来永劫続くための一つの通らなければいけないゲートと思ってやったほうが良いかもしれません。
今回当社が掲げた新環境ビジョンでは、脱炭素社会、資源循環社会、そして自然共生社会の実現に向けた取り組みを加速し、SDGsが目指す持続可能な社会の実現に貢献していく姿勢を掲げています。CO2排出量削減目標についても、2050年のCO2排出量削減目標をマイナス100%(ゼロ)としています。この目標を達成することは一筋縄ではいきませんが、これも当社が持続するための一つの通過点であると前向きに考える必要があるということですね。
沖:外圧でやらざるを得ないと従業員に伝えていただいても構わないと思います。その方が嫌々取り組むよりはずっと建設的です。
井上:当社は今年(2021年)11月で創業218年を迎えます。2050年というと今から約30年後ですが、その時にも会社が存続しているように、引続き脱炭素を含めた環境問題全般にしっかりと取り組んでいきます。またいろいろとご指導いただければと思います。本日はありがとうございました。