インフラを輸出 首都ジャカルタの交通問題の解消に貢献 ジャカルタ都市高速鉄道 南北線延伸2期(Phase-2a)CP201,CP202
かつて世界の大都市の中で、最も交通渋滞が深刻と言われたインドネシアの首都ジャカルタ。問題解決の切り札として建設された都市高速鉄道の延伸が行われています。現在、当社JVが施工している二つの工区について紹介します。
土建3工区のうち二つを施工中
1万7000以上の島で構成される島嶼
国家インドネシア。同国の首都ジャカルタでは、経済の著しい発展により、交通渋滞や大気汚染が深刻化しています。そこで、ジャカルタ都市高速鉄道(MRT:Mass Rapid
Transit)南北線(全長24km)の建設が計画され、当社がJVの幹事社として2工区、構成企業として1工区の計3工区に参画した1期工事区間約16kmが2019年3月に開通しました。
現在、開通した区間から北方向に5.8km延伸する南北線2期工事A区間が建設中で、当社JVは、土建工事3工区のうち、CP201、CP202の2工区を施工しています。
MRTネットワークの中心
2020年6月に着工したCP201工区は、2期工事A区間3工区の中で最もジャカルタ中心部に位置しています。約2.7kmの区間に地下2層のタムリン駅とモナス駅の駅舎、駅間を結ぶ6本のシールドトンネルの施工を行っています。
タムリン駅は官公庁や中央銀行が立ち並ぶタムリン通り内に位置し、また、計画中の東西線との乗換駅となる予定で、将来は東西南北に延びる首都ジャカルタのMRTネットワークの中心となる予定です。モナス駅はその駅名の由来でもある国家独立記念塔モナスがあるムルデカ広場の一角にあり、周辺には2023年6月に天皇陛下も訪れたインドネシア国立博物館や大統領官邸があります。
タムリン駅は通常の駅二つ分
タムリン駅は、一時的に車両を留め置く「留置線」区間と合わせて全長441mあり、通常の駅の約二つ分の長さを開削工法で施工しています。CP201工区建設所長の佐藤は、工事の特徴について「タムリン駅が建設される幹線道路は政府要人の通行も多く、渋滞など交通への影響を抑えなければなりません。作業帯は最小限とし、交差点部を含む長い開削区間の工事進捗に合わせて道路の切り回しを行いながら工事を進める必要があります。また、超軟弱粘性土が広く分布する特殊な地盤条件での施工となるため、地下工事で道路や周辺建物に影響を与えないよう、設計段階では地盤変状予測や対策工の検討を行い、施工時には計測管理を密にして安全性を確認しながら慎重に工事を進めています」と語ります。
グラウンドアンカーが残置
着工後に、地中に複数の支障物の存在が判明しました。代表的な例として、タムリン駅西側に隣接する建物の建設時に施工されたグラウンドアンカーが地中に残置されており、地中連続壁施工の支障となることが判明しました。その対応について佐藤は「アンカーの数量や正確な位置も不明だったため、地上からの探査ボーリングや実際の連壁掘削時の状況を基にアンカーの位置を把握しました。アンカーに当たる箇所では連壁の深さを浅くし、それを補うための地盤改良や駅掘削時の仮設支保工設置など、設計の変更や対策工の検討を行いました」と語ります。また、「追加の費用や工期を確保するための契約上の対応が、本プロジェクトに限らず海外工事では特に重要で、業務に占める比重も大きくなります」と海外工事特有の苦労についても語ります。
技術的難度の高い函体推進
モナス駅はムルデカ広場の中に建設されるため、比較的施工しやすい立地条件となっています。国立博物館横の出入口から幹線道路を横断して駅につながる地下連絡通路は、観光名所でもある国家独立記念塔モナスなどが近くにあり、また、政府要人も行き来する道路を横断するため、非開削工法で施工することが要求されました。そのため、幅12.2m × 高さ6.1mの大きな函体 を、道路下約3mという小土被りで約60mにわたり推進する函体推進工法で工事を行っています。これだけの規模の函体を小土被りで推進した前例はほとんどなく、非常に技術的難度の高い工事です。
地下4層の駅舎
CP202工区は、CP201工区から遅れること約2年後の2022年7月に着工しました。地下2層のハルモニ駅、地下4層のサワブサール駅、マンガブサール駅と駅間を結ぶ4本のシールドトンネルを施工するもので、工区南端のハルモニ駅がCP201工区のシールドマシンの到達場所となります。
本工区は、既存建物や運河と近接しており、施工エリアが限られるという立地上の特徴があります。工事による既存建物の沈下を抑制することが求められており、その課題にどのように対応するか入札段階から検討。部分的に地盤改良を行うとともに、各種モニタリングを行うなど、慎重な管理を行っています。
サワブサール駅とマンガブサール駅については、駅幅の関係上、ホームが上下2層に分かれており、地下4層となっています。掘削深さは、地下2層のハルモニ駅の約1.5倍、掘削土量も増加します。また、駅舎本体の構築時は、道路を運河の反対側に切り回して作業帯を確保する必要がありますが、ハルモニ駅とサワブサール駅は運河西側、マンガブサール駅は運河の東側に位置しているため、サワブサール駅とマンガブサール駅間の運河横断部を路面覆工して対応しています。
3駅同時施工
本工区では、3駅の工事を同時に進める必要があり、そのことが施工の難度を上げています。CP202工区建設所長の多川は「道路管理者との協議を踏まえ、工事着手から約1年後、3駅同時に道路切り回しを行い駅舎本体工事が始まりました。また、南北線延伸2期の土建3工区のうち、CP202工区の着工時期は大きくずれており、開業目標を達成するためには3駅の工事をほぼ同時に進めていく必要があるのです」。3駅同時施工の難しさについては「施工のピークが3駅で集中することとなり、その施工物量をこなすことのできる協力会社の確保などが必要となります。一工種一協力会社で3駅施工とするほうが管理上などでメリットはありますが、労務や資機材が確保できないなど不測の事態に備えて、複数社に発注してリスクヘッジをしています」と語ります。
運河の下部を掘進
トンネル工事の特徴ですが、ハルモニ駅を並列で発進したシールドマシンは、途中で上下の位置関係に変わり、地下4層のサワブサール駅に到達します。上下の位置関係のままサワブサール駅を発進し、運河の下部を斜めに横断して、マンガブサール駅に到達します。 シールドの掘進自体は、運河横断部で一部障害物の切削が必要となるが、土質的にはそれほど難しいものではありません。他工区の状況を鑑みて日進で10~15mぐらいを見込んでいます。ただし、サワブサール駅に到達したシールドマシンのうちの1台は駅内を移動して、マンガブサール駅に向けて発進するため、駅舎工事との工程調整の難しさがあります。
東西線の受注につなげる
今後の抱負について佐藤は「さまざまな課題がありますが、成功させるという強い意志を持って引き続き取り組んでいきます。スタッフもそれぞれの立場でのプレッシャーや苦労があると思いますが、その役割に責任感を持って困難を解決しようと努力してくれています。そのような人財が、プレッシャーを逆にモチベーションに変え、やりがいを感じて働ける環境を与えられるようにしたいと思っています」。多川は「1期工事、CP201工区を当社が施工していることが、CP202工区の受注につながりました。私としては、ここで当社の工事を終わらせるつもりはありません。ジャカルタMRT東西線の出件が見込まれる中、次の工事につながるよう本工事に取り組みます」と語ります。
工期は、CP201工区が25年11月、CP202工区が29年12月。当社はこれからも海外諸国のインフラ整備に貢献していきます。
工事概要
- 所在地
- インドネシア共和国ジャカルタ特別州
- 発注者
- PT MRT Jakarta(Perseroda)
- 設計
- 清水建設株式会社
- 監理
- OCG・JIC・パシフィックコンサルタンツ・長大・日本工営JV
- CP201工区
- 工期
- 2020.6~2025.11
- 構造・規模
-
駅舎 地下2層 2駅
シールドトンネル 6本 計 1970m
- CP202工区
- 工期
- 2022.7~2029.12
- 構造・規模
-
駅舎 地下2層 1駅
地下4層 2駅
シールドトンネル 4本 計 1184m
記載している情報は、2024年11月15日現在のものです。
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