ZEBへの挑戦 サステナブル・リノベーションによる『ZEB』を実現 ゼロエミッション国際共同研究センター ―産業技術総合研究所―
2021年3月、国立研究開発法人 産業技術総合研究所(以下、産総研)つくば西事業所に、既存の本館と別棟群(1976~80年竣工)を改修・更新した「ゼロエミッション国際共同研究センター」が完成しました。
政府目標の2050年カーボンニュートラル達成には、新築だけでなく改修工事でのZEB化が重要です。今回、「西-4A棟」において、建物で消費する年間の一次エネルギーの収支をゼロにする『ZEB』(Net Zero Energy Building)を達成。改修工事での『ZEB』実現は、シミズ初のチャレンジとなりました。
設計初期段階から複数案をシミュレート、最適手法によりNet Zeroリノベーションを実現
2019年10月、日本政府は各国代表者を集めた「グリーンイノベーションサミット」において、脱炭素社会に向けて世界の英知を集結する「ゼロエミッション国際共同研究拠点」の立ち上げを表明しました。
これを受けて産総研が設立したのが、ゼロエミッション国際共同研究センターです。
エネルギー・環境分野における最先端の研究が行われる産総研の改修に当たり、シミズは、研究環境性能の確保と省エネ性能の両立、年間のエネルギー収支を実質ゼロにする『ZEB』の達成を目指し、“Net Zero リノベーション”をテーマに掲げました。
『ZEB』を目標とした設計において大活躍したのが、シミズが開発したZEB評価検証ツール「ZEB Visualiezer」です。本ツールでは、建物の省エネ性能をBIMなどから構築した3Dモデルと、省エネに関する設計ライブラリを用いて、即座にZEBの達成具合を評価できます。これにより、複数の検討案のエネルギー性能を繰り返しシミュレーションし、設計の初期段階でZEB達成のための最適解を導き出しました。
今回、『ZEB』を達成したのは、2階建てRC造の研究棟「西-4A棟」です。
設備設計の山口真吾は「同棟にはエネルギー消費量の大きい化学実験室などが入っていた一方、既存建物の南側の庇が深く、直達日射を遮ることのできる構造となっていました。既存建物を活かした上で、窓へのLow-E複層ガラスの採用や外壁面の断熱補強、さらに空調や照明などの各種設備機器による最新の省エネ技術を融合させ、最適に組み合わせることにより『ZEB』を実現しました」と語ります。
西-4A棟(左)と棟内の化学実験室(右)。既存建物の優れた省エネ性能を活かし、最新の省エネ技術を融合させた
具体的には、高効率運転を可能とする個別空調機、昼間の照度を自動的に調整するLED照明、普段捨てられる全熱交換器の排気を実験に伴う局所排気に再利用するハイブリッド換気システム、リチウムイオン蓄電池設備を組み合わせたシミズ・スマートBEMSなどの採用により、建物内の消費エネルギーを省エネ計算上で53%削減することに成功。
さらに、屋上に設置した太陽光パネル発電による創エネを加えて、計108%のエネルギー削減を達成し、“Net Zero リノベーション”を実現しました。
もちろん、計算上のエネルギー収支だけではなく、ユーザービリティーにも十分な配慮を心がけました。電気設計の川口学はこう話します。「着工後に、個々の施設を使う研究者から、電気設備に直結する要望がどんどん寄せられました。皆さんが研究しやすい施設でなければ意味がないため、変更をシミュレーションに反映し、ZEBの最適解をタイムリーに提案しました」。
こうして成し遂げた“Net Zero リノベーション”により、発注者からも信頼を得ることができました。意匠設計の谷 泰人は「改修工事でのZEB達成例は少なく、技術的にもハードルが高いのですが、研究施設としての機能性と、通常の省エネ快適性能を追求する中で『ZEB』を実現できたことを非常に喜んでいただけました」と語ります。
既存の素材を生かす“ゼロエミッション志向”のリノベーション
シミズが掲げたもう一つのテーマは、可能な限り廃棄物を出さないよう既存の素材を生かしながら再生し、新たな価値を生み出す“ゼロエミッション志向”です。本館は築45年と歴史のある建物で、壁面のタイルや床の石材は良質な素材が使われていました。それらを磨き直すなどして、できるだけ再利用を図りました。
設計と施工の緊密な連携でサステナブル・リノベーションを実現
設計期間を含めて1年という短工期での、さまざまな要素技術を盛り込んだゼロエミッション志向によるNet-Zeroリノベーション。このプロジェクトを成功させることができたのは、緊密な連携によるフロントローディングが可能な設計施工での受注によるところが大きかった、と谷は話します。
「今回、設計のモデルデータを施工に活用する『デジタルファブリケーション』にもトライすることで、短工期に対応することができました。デジタルをプラットフォームとし、設計・施工で共にメリットを享受できるようなものづくりが始まりつつあることを、このプロジェクトで体感しました」。
シミズは今後も、ものづくりにデジタルを積極的に取り入れ、カーボンニュートラルの達成に貢献する取り組みを進めていきます。
記載している情報は、2021年9月15日現在のものです。
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