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世界初!2連のマシンが地下空間でスパイラル掘進 「H&V シールド工法」立会川幹線雨水放流管工事

世界初!2連のマシンが地下空間でスパイラル掘進 「H&V シールド工法」
撮影 古明地賢一

暮らしを築く・社会を守る 世界初!2連のマシンが地下空間でスパイラル掘進 「H&V シールド工法」 立会川幹線雨水放流管工事

近年、集中豪雨による河川の氾濫や浸水被害などが多発しており、防災・減災への関心が高まる中、国土を強靭化し、人々の安全・安心を守るインフラの構築が求められています。東京都品川区を流れる立会川幹線では、浸水被害と水質悪化を防止するため、2016年から雨水放流管敷設工事を行っています。当工事において、世界初の挑戦となったH&Vシールド工法によるトンネルのスパイラル掘進について紹介します。

浸水被害と水質悪化を防ぐために

目黒区碑文谷一丁目地先に源を発し、品川区東大井二丁目地先で勝島運河に注ぐ延長約7.4kmの立会川は、流域の市街化に伴って大部分が下水道幹線(立会川幹線)として暗渠となり、下流部の750mだけが地上を流れています。
現状の立会川は月見橋付近で合流式の下水道と接しており、流域に大雨が降ると、短時間に大量の汚水混じりの雨水が放流される構造になっています。氾濫が起これば甚大な浸水被害となることが懸念される上、河川及び勝島運河の水質悪化や悪臭も起こっており、改善が急務となっています。
そこで、月見橋付近から河口までの河川直下に「立会川幹線雨水放流管」を敷設し、既設の第二立会川幹線を経由して、雨水を直接京浜運河に放流しようとするのが当プロジェクトの全体像です。

発進坑口(横2連)
発進坑口(横2連)

横2連型で発進、縦2連型で到達

放流管を敷設できる場所は、発進立坑のある河口部では縦幅が狭く、途中の桜橋付近でのS字カーブ箇所では横幅が狭いという制約がありました。その制約の中で雨天時に必要な放流量(必要整備水準)を満たすためには、内径5m(外径5.7m)の放流管を2本敷設する必要がありました。そこで採用されたのが、H&Vシールド工法によるスパイラル掘進です。本工法では2機の円形シールドマシンを組み合わせ、らせん状にねじりながらのスパイラル掘進が可能となります。1機のシールドマシンで2本を別々に掘削するのに比べて、近接したトンネルを2本同時に施工できる、地盤改良の範囲が小さくなる、発進ステップが1段階になるなどのメリットがあります。同工法によるスパイラル掘進の実施工は、世界初の試みでした。
下のイメージ図のように、シールドマシンは、まず河口部の発進立坑を横2連型で発進。左方向への急カーブを掘進した後、スパイラルを開始。シールドマシンの左機を軸に、右機が上方向に旋回します。約137mをかけて90度回転した後、到達立坑まで、横幅に制約のある残りの区間を縦2連型で掘進するという工程です。

※Horizontal & Vertical variation

発進立坑側から見たスパイラルのイメージ図
発進立坑側から見たスパイラルのイメージ図
3次元シミュレーションによるスパイラル掘進。右奥が発進立坑
3次元シミュレーションによるスパイラル掘進。右奥が発進立坑

2017年制作 東京都下水道局、清水建設株式会社(4分01秒)

新技術を考案し、正確な方向制御を実現

左右のシールドマシンの接合構造については、新たに考案したピン接合による後胴部揺動式接合方式を採用しました。それぞれのシールドマシン同士の角度(揺動角)を緻密に制御しながらの掘進が可能になります。スパイラル掘進時には右機全体を上向きにすることで上方向への旋回力を得ることができ、さらに従来は常時30cm以上必要と考えられた大きな余掘り(本来の設計断面より余分に掘削することで生じる掘削量)を1cm程度と大幅に低減し、周辺地盤への影響を最小限に抑えました。
また、常時2機のシールドマシンの位置や揺動部の挙動などを監視するため、H&Vシールド工法専用の掘進管理システムを構築。このシステムを使い中央管理室のモニターでシールドマシンをリアルタイムに一元管理することが可能となり、正確な方向制御で掘進することができました。

左右のシールドマシンは後胴でピン接合されている
左右のシールドマシンは後胴でピン接合されている
シールドマシンの推進力を受ける反力壁(中央)。左奥が第二立会川幹線
シールドマシンの推進力を受ける反力壁(中央)。左奥が第二立会川幹線

全員の力を結集させて掘進完了

2018年2月から始まった初期掘進では、発進坑口とマシンの隙間から泥水が漏れ、切羽の安定に必要な泥水圧を保てないことも。現場を率いる工事長の太田博啓は、当時について「所員と作業員が泥だらけになりながら作業する姿を見て、計画をした自分の力不足を痛感。夜も眠れない日々が続きました」と語ります。それでも、さまざまな難局を乗り越え、迎えた2018年9月末。

「スパイラル掘進完了日の朝礼は、ピーンと張り詰めた雰囲気があり、『絶対に世界初のスパイラル掘進を成功させてやる』というみんなの気概がひしひしと伝わってきました。私が左トンネルで『最終リング行くぞ!』と声掛けをすると、右トンネルからも『最終リング行くぞ!!』『おおおおお!!』と叫ぶ声が聞こえました。それを聞いた時、この仲間たちのおかげでここまで来ることができたと心から感謝の思いが湧き、絶対に成功すると確信しました」と太田は振り返ります。 2019年7月、シールド機は無事到達しました。

土木東京支店 土木第三部 工事長 太田 博啓
土木東京支店 土木第三部 工事長 太田 博啓

土木学会賞技術賞を受賞

このH&Vシールド工法によるトンネルのスパイラル掘進は、複雑なトンネル線形を有する工事で適用可能な後胴部揺動式接合方式などの技術を確立し、シールド技術の発展に大きく寄与したと高く評価され、令和元年度土木学会賞技術賞(Ⅰ)を受賞しました。
厳しい制約のある複雑な地下空間の工事は、今後も増加すると考えられます。シミズは今回の成果を適用できる場をさらに広げ、インフラ整備の進展にさらに寄与していきます。

左上方に30度スパイラルを終えた右トンネル

撮影 古明地賢一

左上方に30度スパイラルを終えた右トンネル

記載している情報は、2020年10月27日現在のものです。
ご覧になった時点で内容が変更になっている可能性がございますので、あらかじめご了承ください。

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