第45回 シミズが手掛けた歴史的建造物
東武鉄道浅草駅ビル(現:EKIMISE(エキミセ))

季節を問わず国内外の観光客でにぎわう町・浅草。同じく人気の観光地である日光・鬼怒川方面に向かう玄関口の一つが東武鉄道浅草駅です。隅田川を望む優美な駅舎は、百貨店の歴史を語る上でも非常に貴重な建物です。

現在のEKIMISEの姿(写真提供:東武鉄道)

現在のEKIMISEの姿(写真提供:東武鉄道)

関東初の百貨店併設駅ビル

1931(昭和6)年に開業した東武鉄道浅草駅ビル。当時の東武鉄道社長根津嘉一郎(※1)氏が示した「繁華街浅草の象徴となりうるような立派な駅ビルを建築する」との方針の下、設計を()()(みさお) (※2)、施工を当社が担当しました。意匠の基本はネオ・ルネサンス様式で、2階のアーチ型大窓や壁面装飾などに特徴が表れています。

竣工時外観。手前に続く線路も当社施工

竣工時外観。手前に続く線路も当社施工

1、2階が駅、上層には松屋浅草支店(現:松屋浅草)が入居。百貨店併設の駅ビルとしては関東初で、国内最大級の規模を誇りました。屋上には百貨店として初めて遊園地を常設し、長大な建物を生かしたゴンドラなどが人気を博しました。

日本初の常設屋上遊園地が設けられ、浅草の名所となった

日本初の常設屋上遊園地が設けられ、浅草の名所となった

  • 1 根津嘉一郎
    多くの鉄道敷設や再建事業に携わった実業家。文化、教育事業にも尽力し、根津美術館や武蔵大学(いずれも当社施工)を開設した
  • ※2 ()()(みさお)
     初代鉄道省建築課長を務めた建築家。代表作は南海ビルディング(大阪府)、宇治山田駅(三重県)など

現代の技術でよみがえった創建時の姿

からくも戦災を乗り越えた本ビルは、後の外装改修でアルミルーバーに覆われ、本来の姿が見られなくなっていました。しかし、2012(平成24)年に、当社設計施工による耐震改修および内外装改修工事が行われ、「EKIMISE」として創建時の姿によみがえりました。アルミルーバーを撤去後、GRCカバー工法(※3)で往年の姿を再現するとともに、耐震壁や鉄道車輪モチーフの耐震ブレースを設置し、耐震性能を向上させています。また、失われていた壁面装飾や屋上の時計塔も、古写真などを基に復元しました。工事は、公共交通機能と百貨店の営業を妨げないよう、建物を使用しながら実施。ホーム階の耐震改修では、運行時間を避けるため作業時間が2時間弱に限られる日もあり、多くの困難が伴いましたが、無災害で完了しました。

仲見世の「見世」と「駅」をかけあわせた「EKIMISE」のコンセプトは、「浅草プラットホーム」。時代は変わっても活気にあふれ、多くの人たちが行き交う場所であることはこれから先も変わりありません。

  • 3 GRCカバー工法
    GRC(ガラス繊維補強セメント)製の外装ユニットを被せるリフォーム工法

建物概要

所在地 :
台東区花川戸2-18
構 造 :
SRC造 B1-7F-PH2
延床面積 :
35,380m2
受賞歴:
第24回BELCA賞ベストリフォーム部門、日本建築防災協会理事長賞・耐震改修優秀建築賞