第34回 ホテルニューグランド本館

開国と同時に、海外との玄関口として発展を続けてきた港湾都市・横浜。
開港直後から、港近くにはたくさんのホテルが建ち並びました。その中でも「ホテルニューグランド」は、横浜の顔として多くの人に愛されてきたホテルです。
当社は、1927(昭和2)年の本館建設以来、さまざまな工事を手掛けてきました。2016(平成28)年には本館の耐震改修を完了し、リニューアルオープン。日本のホテル史とも呼べるその歴史に、また新たな1ページを刻みました

クラシックホテルの誕生

1859(安政6)年の開港を機に、横浜には各国の商船が続々と入港しました。港に近い海岸通りには、洋風の商館とともに、外国人が経営するホテルが次々と建設され、一帯は大変なにぎわいを見せました。
しかし、その風景を一変させたのが、1923(大正12)年の関東大震災でした。横浜市の被害世帯は95.5%に上る壊滅的なもので、歴史あるホテルも、ことごとく倒壊や火災によって失われてしまいました。
横浜市は、国際的な港湾都市の復興と将来の繁栄のためには、ホテルが不可欠であるとし、市の事業としてホテル計画を決定。1926(大正15)年に、震災復興のシンボルとして、ホテルニューグランドの建設が始まりました。
設計は、当時、国会議事堂などのコンペで入選を続けていた新進気鋭の建築家・渡邊仁(※1)が担当。

外観は、優雅なアーチ窓が並び、ヨーロッパのホテルを思わせる姿が特徴的で、弧を描いた建物の東角には、開業年の「AD1927」を刻んだ石造のメダイヨン(※2)が据えられています。
2階のロビーやボールルームの天井には、石膏による精緻なレリーフが施されています。これは、洋風建築の内部に、東洋的な手法を織り交ぜ、来訪者に日本を印象付けようという、設計者渡邊の意図が盛り込まれたものです。

開業後は、マッカーサー元帥を筆頭に、チャップリンや大佛次郎など、国内外の多くの著名人が宿泊。海に臨む優美な姿と、ホテルスタッフの心のこもったおもてなしにより、広く世界にその名を知られることとなりました。

  1. 1  渡邊仁(1887~1973)
    東京帝国大学工科大学建築学科卒。鉄道院、逓信省に務めた後、設計事務所を設立。代表作品は、服部時計店、第一生命館(いずれも当社施工)など。
  2. 2  メダイヨン
    円形もしくは楕円形の壁面装飾。

歴史とともに先人の想いと技を伝える建物

1992(平成4)年に建設した新館は、現代的外観のタワーの内装をヨーロッパ調にすることで、本館との調和を図り、同時に1931(昭和6)年以降、三度行った増改築によって変わっていた本館の姿を、可能な限り開業当時に戻す改修工事も行いました。
そして、2016(平成28)年の耐震改修工事では、建物の補強とともに、歴史的保存部位である漆喰天井を補強保存する、日本初の工事を実施。建物の歴史的価値を守り、後世につなぐ工事が完了しました。(※3)

新たなスタートを切ったホテルニューグランドは、その歴史とともに、先人の匠の技やお客様の思い出を伝える歴史的建造物として、これからも横浜の町を見守り続けることでしょう。

  • 3  「建築物の耐震改修の促進に関する法律」に基づいた、横浜市の「耐震改修済証」(本館)および「基準適合認定建築物(あん震マーク)」(本館・新館)を取得。

建物概要

所在地 :
横浜市中区山下町
設計 :
本館:渡邊仁建築事務所、横浜市建築課
新館:当社
構造・規模 :
本館:SRC造、RC造、S造6F
新館:SRC造、S造B5―18F

横浜市認定歴史的建造物、経済産業省近代化産業遺産、2016年ベスト・ヒストリック・ホテル賞受賞