第33回 「三越日本橋本店」

江戸時代から日本橋の顔として、長い歴史と伝統を持つ三越日本橋本店は、1914(大正3)年の新築から幾度もの増改築を重ねています。当社は、その第4期以降の施工を担当しました。
近年行われた耐震改修に採用した免震レトロフィットが、築百年を超える建物の歴史的価値を守る一端を担っています。

最先端の意匠を取り入れ発展を続けた百貨店建築

第1期新築(1914年)カーテンウォール式鉄骨造。
関東大震災で躯体の鉄骨を残して焼失(写真提供:三越伊勢丹)

1673(延宝元)年、伊勢松阪の商人・三井高利が、越後屋の屋号で呉服店を創業したことに始まる三越は、1683(天和3)年、現在の日本橋(当時は駿河町)に店を移しました。

1904(明治37)年に「デパートメントストア宣言」を表明し、国内初の百貨店を目指した三越は、1914(大正3)年に店舗を新築。その設計を手掛けたのが、建築家横河民輔(よこがわたみすけ)(※)でした。これ以降、三越本店の設計は、横河の主宰する横河工務所(現横河建築設計事務所)が一貫して行っています。

現在の建物の原型を形成した第4期増改築(1935(昭和10)年竣工)では、内装にそれまでのルネサンス様式から、アール・デコ様式を導入。同店を象徴する5層吹抜けの中央ホールや、最上階の特別食堂が新設され、店内の柱や床を、産地の異なる大理石が華やかに彩りました。

増改築のたび、最先端の意匠を取り入れた同店は、1964(昭和39)年には総面積7万1,000m2を超える規模となり、日本一の大百貨店へと発展を遂げました。

第4期増改築(1935(昭和10)年)
震災後の修築により、鉄骨鉄筋コンクリート造となった建物に6年をかけて増築

第4期に新設された中央ホール

  • 横河民輔(1864〜1945)
    明治から昭和初期にかけて活躍した建築家、実業家。日本の鉄骨建築の先駆者であり、横河工務所を主宰し、数多くの民間建築を手掛けた。主な作品は、三井銀行本店(旧三井本館)、帝国劇場など

より安心・安全な歴史的建造物へ

三越日本橋本店では、阪神・淡路大震災を契機に、歴史ある建物の価値を保存しつつ、安全性を高める耐震改修が検討され、免震レトロフィットを採用。2008(平成20)年、この工事が完了しました。

店舗が営業する中での施工に加え、増改築の時期によって異なる基礎構造に合わせた計画、敷地いっぱいに建つ建物の免震ピットの確保といったさまざまな課題を克服すると同時に、地下1階にあった約1mの床段差を解消するバリアフリー化を新たに実現しました。

より安心・安全で、使いやすい建物に生まれ変わった三越日本橋本店は、文化審議会から「百貨店建築の発展過程を具現する意匠秀麗な大規模商業施設」として評価され、2016(平成28)年7月に国の重要文化財に指定されました。

重厚な外観と格調高い内部空間を構え、多くのお客様に愛され続ける三越日本橋本店を、当社の技術が支えています。

三越日本橋本店の主な工事の歴史

第1期 1911年7月~1914年9月 新築
第2期 1919年12月~1921年6月 増改築
第3期 1924年10月~1927年3月 震災修築
第4期 1929年3月~1935年10月 増改築(当社施工)
第5期 1955年12月~1956年6月 増改築(当社施工)
第6期 1964年1月~1964年10月 増改築(当社施工)
2005年9月~2008年5月 免震レトロフィット(当社施工)

免震レトロフィット後の三越日本橋本店(2008(平成20)年)