第23回 歴史に残る建造物(その11)「旧唐津銀行本店」

佐賀県唐津市の中心部に立つ「旧唐津銀行本店」。
小規模ながら、壮麗な外観で人目を引くこの洋館が完成したのは、1912(明治45)年。明治期の近代化を象徴する貴重な建造物として多くの市民に親しまれ、2002(平成14)年には市の重要文化財にも指定され、2017(平成29)年には県指定重要文化財となりました。

旧唐津銀行本店

竣工 :
1912(明治45)年
所在地 :
佐賀県唐津市本町1513
監修 :
辰野金吾
設計 :
田中実
規模 :
地下1階、地上2階、一部塔屋
建築面積314m2 延床面積906m2

辰野金吾・監修、田中実・設計の洋館

旧唐津銀行は、唐津市の発展に多大な功績を残した大島小太郎が創設した銀行です。同行の頭取も務めていた大島は、本店の建築に当たり、唐津出身でもある近代建築の巨匠・辰野金吾に建物の設計を依頼。これを受けた辰野は、自身は監修の立場に回り、愛弟子である清水満之助店の田中実(※)に設計を託しました。
当時、入店わずか4年目の田中は、英国のクイーンアン様式を模した「辰野式」デザインを採用し、地下1階・地上2階建ての壮麗な洋館をつくり上げます。その外観は、赤煉瓦調のタイルと白い石のコントラストが美しい外壁と、青緑色の天然スレート葺きの屋根の上に立つ王冠のような尖塔とドームが特徴的です。
建物内部に目を転じると、1階に銀行カウンターを介して吹き抜けロビーと小さな執務室、その上階部分に応接室、会議室などが配され、内装には、貴賓室の天井や大理石製マントルピースに代表される品のある凝った意匠が施されています。その見事な仕上がりから、設計はもとより施工の細部にまで厳しかったと言われる辰野の下、若き田中が細心の注意を払いながら一心に取り組んだ様子がうかがえます。

1階の銀行フロア

2階の応接室

  • 田中実(1885~1949)
    1908(明治41)年東京帝国大学工科大学(現・東京大学)建築学科卒。同年清水満之助店に入店、1920(大正9)年~1927(昭和2)年六代技師長に就任。1927(昭和2)年清水組退社後、翌1928(昭和3)年に葛西万司と葛西・田中建築事務所を開設。主な作品に、大同生命保険九州支店(福岡市/1912(明治45)年)、森村銀行本店(東京市日本橋区/1914(大正3)年)、国分商店(東京市日本橋区/1915(大正4)年)、白木屋呉服店大阪支店(大阪市/1921(大正10)年)、藤山工業図書館(東京市芝区/1921(大正10)年)など。

新たな命を吹き込み再生

2008(平成20)年6月、約100年の歳月を経て傷みが激しくなっていた建物の保存整備工事が始まり、2010(平成22)年3月に無事竣工を迎えています。
工事に先立ち、わずかに残されていた当時の図面や写真を基に詳細な調査分析を実施。竣工後の建物には、外装はもとより、照明器具や金物、カーテン、絨毯に至るまで、創建当時の姿が復原されました。工事を担当した九州支店の関係者は、「当時の姿をより忠実に再現するため、今となっては入手するのも難しい部材などを求めて各地を奔走した」と言います。
この作品にかけた田中の思いを受け継ぎ、当社の手で丁寧に新たな命が吹き込まれた建物の一般公開が、2011(平成23)年3月26日から始まっています。
明治期の近代建築が次々と姿を消していく中、唐津のランドマークとして、また、当社の歴史を飾る貴重なモニュメントとして存在し続ける旧唐津銀行本店。その第二の舞台が、スタートしたところです。

竣工当時の姿に復原された現在の様子