京都の観光名所・円山公園の一角に、レストランやカフェとして使われている、ひときわ美しい洋館「長楽館」があります。
清水満之助店の施工により1909(明治42)年に竣工したこの建物は、100年以上の歴史を刻んだ今も、華やかな社交場であった往時と変わらぬ優美な佇まいを残しています。
長楽館の現在の外観
長楽館は、明治時代にたばこ事業で成功を収めた実業家・村井吉兵衛の京都別邸として建てられました。設計は米国人技師のJ.M.ガーディナー(※)。完成までに6年もの歳月を要しました。
3階建ての建物の外観はルネッサンス様式を基調にしていますが、内部に目を転じれば、部屋ごとに異なる見事な意匠を見ることができます。
1階に客室・食堂・球戯室・書斎・サンルーム、2階に貴婦人室・客室・美術室、3階には書院造り風の和室などを配置。中でも、1階客間の暖炉まわりや天井にあしらわれた植物文様のレリーフなど、ルイ15世風(ロココ)様式を基調とした装飾は大変美しく、見応えがあります。
長楽館の特徴は、完成当時から使われ続けている家具にもあります。各部屋の意匠に合わせて輸入された家具の美しいフォルムと意匠はまさに芸術品です。
長楽館は、これらの家具を含めて、1986(昭和61)年に京都市指定有形文化財に登録されました。
迎賓館として使用されていた往時の長楽館には、皇族をはじめ、伊藤博文、井上馨、大隈重信、山県有朋といった時の政治家から、フェアバンクス米副大統領や米財閥のロックフェラー氏などの海外の要人まで、名立たる賓客が訪れていました。
長楽館の名は、完成直後に滞在した伊藤博文が、窓からの眺望に感動し、命名・揮毫(きごう)したものと伝えられています。その名の通り、この明治後期の和洋折衷の住宅建築は、人々が“長く楽しめる”貴重な文化遺産として、一世紀を経た今も当時の文化・芸術の香りを大切に守り続けています。
竣工時の内観(3階日本間)
竣工時の内観(2階広間)