都市開発がもたらす街の人流変化をシミュレーション

~計画の初期段階からまちづくりの効果を検証~

  • 建築

2025.09.01

清水建設(株)<社長 新村達也>はこのほど、地域と協働でまちづくり推進を目指す事業者やまちづくり団体、行政との協業を目的に、都市開発が人流に与える影響を複数街区に亘りエリアレベルで評価するシステム「エリアABS(Area Activity Based Simulation)」を(株)ベクトル総研と共同開発しました。都市開発による来訪者数や歩行者の行動範囲、滞在時間といった回遊行動の変化をエリアレベルで見える化できるので、開発計画案の妥当性や効果検証に役立ち、関係者の早期の合意形成が可能になります。すでに、システムの信頼性については、交通行動分析を専門とする東京理科大学 創域理工学部 社会基盤工学科の栁沼秀樹准教授から高い評価を得ています。

開発計画が交通や人流にもたらす影響の事前評価は、利便性の高いまちづくりに欠かせない重要な要素です。計画の初期段階から実態に即した評価をスピーディ、かつ繰り返し実施すれば、確実に利便性が向上し、関係者の合意形成も早期化します。ただ、これまでは計画が固まる最終段階で専門家に評価を委託していたことから、改善できる余地が限られ、しかも月単位の期間を要していました。こうした課題のソリューションが「エリアABS」です。

開発にあたっては、移動を発生させる活動(アクティビティ)を基準に人流予測を行うアクティビティ型交通行動モデルを採用。このモデルは国土交通省が自治体レベルの人流分析に採用しているものです。今回は、エリアレベルの評価、つまりヒトの行動をきめ細かに評価するためのパラメータを新たに設定しました。例えば、自治体レベルの評価に用いられた幹線道路や主要な路線網は歩道や地下道、公園内の通り抜け、デッキ動線などの歩行者用道路に替え、評価対象エリアにおける人流傾向の把握には従来のアンケート調査に替えビッグデータを活用します。さらには、各街区に立地する建物の用途、総延床面積を求めて評価対象エリアの空間モデルを作成し、簡易モデルながら複数街区に跨るエリアの特性を評価に反映できるようにしています。

評価対象エリアの空間モデルの作成やパラメータ設定には2~3ヵ月を要しますが、計画着手時に一度作成すれば、開発計画の設定を変えながらオンタイムの人流評価が可能です。この評価より、大規模施設の開業、広場やデッキ・地下道などの整備、集客イベントなどによる、エリア内の各施設への来訪者数や滞在時間、歩行者の活動エリアの広がり、歩行者数などを可視化し、人流面から開発計画案の妥当性や効果検証を支援します。

当社は今後、「エリアABS」をまちづくり計画支援サービス「マチミル」の新たなメニューとして活用し、地域と協働でまちづくり推進を目指す事業者やまちづくり団体、行政によるまちづくりを支援します。

≪参 考≫

(株)ベクトル総研

所 在 地 東京都渋谷区桜丘町1-2 渋谷サクラステージセントラルビル9F
社  長 末松孝司氏
設  立 2000年2月2日
資 本 金 1千万円
事業内容 人やモノ、情報の流動(平常時や災害時の安全性と効率性)に関する解析・システム開発・コンサルティング・調査

開発上の役割分担

当社が空間モデル検討や評価可視化手法検討、(株)ベクトル総研がシミュレーションアルゴリズム検討をそれぞれ担当。

ビッグデータ

携帯電話のGPS位置情報を基に、一人一人の経路と目的・手段を再現し拡大推計した人流データ。

アクティビティ型交通行動モデル

個人個人の移動を再現するための行動選択ロジック。国交省が回遊行動シミュレーションの手法として推奨しているもので、近年、都市圏における人の移動を分析するためのシミュレーションモデルとして開発・研究などが進む。これでは困難であった滞在時間や属性の違いを踏まえた分析が可能。

「エリアABS」分析の仕組み・イメージ

エリア全体の回遊行動
名街区における効果

「空間モデル」と「個人モデル」から構築されるアクティビティ型交通行動モデルに基づいたシミュレーションを行う。「空間モデル」は駅やバス停などのアクセスポイント、滞在地点の用途や面積、それらを繋ぐ道路や通路など、「個人モデル」は個人属性、発生人数、エリアへの交通手段、エリア内での活動目的などを意味する。また、個人の回遊行動に影響を与える目的施設選択、経路選択、滞留時間選択、回遊継続選択などを推定する計算アルゴリズムを組み合わせシミュレーションシステムを構築。携帯GPSによる位置情報を基にした人流データなどを基に、対象地区の傾向を把握しモデル内のパラメータを調整する。

まちづくり計画支援サービス「マチミル」の全体像

まちづくり計画支援サービス「マチミル」の全体像

以上

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