大詰めを迎えた旧渋沢邸「中の家(なかんち)」主屋の耐震改修工事

~渋沢翁ゆかりの日本煉瓦が使用されたカマドや囲炉裏が出現~

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2023.02.24

清水建設(株)<社長 井上和幸>が埼玉県深谷市から受注し、昨年2月1日に着工した旧渋沢邸「中の家」(深谷市血洗島)主屋の構造補強及び改修工事の出来高が70%を超え、家屋内の各所で工事が大詰めを迎えています。また、施工過程で一時的に撤去した1階床下から、渋沢翁が設立した日本煉瓦製造(株)の煉瓦が組積されたカマドと囲炉裏の跡、渋沢翁の産湯に使われた井戸の礎石の一部、渋沢市郎(実妹婿)の墨名入りの束柱が発見され、史家の興味を魅いています。

中の家の主屋は、渋沢栄一翁の生誕地に建ち、翁の妹夫婦によって明治28年に上棟された木造家屋です。翁が帰郷した際に滞在した家屋として知られており、深谷市指定文化財(史跡)に指定されています。深谷市は2000年に渋沢国際学園から中の家を譲り受け、一般公開してきました。ただ、老朽化と耐震性の問題から外観の公開に限定していたことから、内部公開を目指して2019年7月に主屋構造補強及び改修工事の公募型プロポーザルを募集しました。

当社は、プロポーザル要項が求める主屋の耐震性能「Iw値1.0以上(震度6強の地震に対して倒壊、または崩壊する危険性が低い)」を満たすべく、基礎の補強、耐力壁の集中配置、小屋組・床組の補強の3点を核に、家屋の景観を維持する補強・改修計画を提案。その内容が深谷市から評価され、2020年1月に当該工事の設計・施工を受注。現在、追加工事として承認された瓦の葺き替え工事と併せて工事を進めています。

基礎の補強については、床材を一旦取り外し、家屋の荷重を仮設材で仮受けした後に、家屋の荷重を最も受ける大黒柱及び、沈下が認められる柱列の下部を掘削して帯状の鉄筋コンクリートの基礎を構築。また、柱が建つ木の土台の腐朽部を交換するとともに、土台を礎石に固定し頑丈な基礎を築きました。

耐力壁の集中配置と小屋組・床組の補強は、地震時の家屋の変形を抑制する措置です。耐力壁については、家屋の妻側を中心に土壁を撤去し、柱・梁の枠の中に構造用合板を嵌め込むことで、計約620m2の耐震壁を構築。その後合板を漆喰で仕上げ、従前と同じ景観を維持します。また、(さし)鴨居(がもい)上部にも垂壁の耐震壁を設けて剛性(固さ)を確保。床組については、2階の床板を梁にしっかり固定することで補強。これにより、集中配置した耐力壁への地震力の伝達が可能になります。屋根を支える小屋組は、鋼製ブレースで緊結して剛性を高めます。

なお、瓦の撤去・葺き替えの工事費は、深谷市が募った寄付金によって賄われており、新しい瓦の裏面には1万円以上の寄付者の氏名が記されています。1階床下から出現した囲炉裏、井戸の礎石、墨名入りの束柱については、現状を維持したままの状態で再び床板で上部を覆い、カマド跡は上部をガラス張りにして竣工後も見学できるようにします。

当社は引き続き、旧渋沢邸「中の家」主屋の文化財としての価値を守りながら構造補強及び改修工事を丁寧に進め、本年4月末の竣工・引き渡しを目指します。

以上

≪参 考≫

(さし)鴨居(がもい)

普通の鴨井に比べて成(高さ≒厚み)があるのが特徴。鴨居は造作材(非構造材)ですが、差鴨居は構造材と造作材を兼ねたもので、2階の柱や小屋束などを支えるために使われます。

旧渋沢邸「中の家」主屋の建物概要

名  称 旧渋沢邸「中の家」主屋
所 在 地 埼玉県深谷市血洗島247-1
建築面積 367.53m2
延床面積 539.17m2(1階 367.53m2、2階 171.64m2
地域地区 都市計画区域外
構   造 木造2階建て
特記事項 深谷市指定文化財(史跡)の構成物
参  考 「中の家」の歴史や建物構成については、深谷市発行のパンフレット参照

日本煉瓦製造(株)の煉瓦が組積されたカマドと囲炉裏の跡

日本煉瓦製造(株)の煉瓦が組積されたカマドと囲炉裏の跡

屋根瓦の吹き替え工事の様子

屋根瓦の吹き替え工事の様子

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