医療継続計画支援システムを開発

~防災訓練で有効性を検証~

  • 建築

2023.03.02

清水建設(株)<社長 井上和幸>はこのほど、熊本大学病院災害医療教育研究センター<センター長・笠岡俊志教授>の指導ならびに、独立行政法人地域医療機能推進機構 人吉医療センター<病院長 木村正美>の協力の下、医療機関における災害時の医療救護活動の高度化と効率化を目的に、デジタル化技術により災害医療に必要な情報を収集・可視化し、提供するシステム「MCP(Medical Continuity Plan)支援システム」を開発しました。このシステムは、タイムライン防災が有効な水害に対して特に威力を発揮します。

日本国内は自然災害に遭遇するリスクが高く、さまざまな用途の施設において、地震はもとより、頻発する風水害へ備えた業務継続計画が求められています。とりわけ、業務継続の重要性が最も高いのが災害拠点病院であり、多くの医療機関が業務継続計画を整備しています。ただ、災害時には急増する救急患者への対応が求められるため、計画の実践は容易ではありません。人吉医療センターも令和2年7月豪雨に際しては、大きな浸水被害を受けながらも医療対応に追われ、現場が錯綜しました。

MCP支援システムの開発に当たっては、人吉医療センターは令和2年7月豪雨の教訓を踏まえ立案した実践的な業務継続計画の提供、本システムの有効性を検証する機会の提供及び評価、熊本大学病院は災害医療の先導的立場からシステムの汎用性を高めるために必要なさまざまな医療機関における災害対応事例の提供をそれぞれ担当。当社は医療現場と研究者の知見を反映したシステム開発及び、人吉医療センターの業務継続計画を反映したシステムのカスタマイズを担当しました。

システムの最大の特長は、災害対策本部の最大の役割となる「限られたリソースを適切に配分するための迅速かつ的確な判断」の支援に資する情報をリアルタイムに収集・可視化し、提供することです。可視化する情報は、防災計画に基づく防災活動とそれぞれの進捗状況、救急患者への医療提供といった災害時に変動する業務量、病院スタッフの安否確認・参集情報、救急患者数と災害医療に従事するスタッフ数、医療機器の使用可能台数、医療資材(診療材料や薬など)の充足度など、医療提供に必要な基盤情報です。これらの情報を対策本部のダッシュボードやスタッフが携帯するタブレットを介して提供します。もちろん連絡・報告・クロノロジーなどの機能も備えています。

一方、災害医療の確実な実践を支援する機能も充実させています。システムは各スタッフが担うタスクを災害の程度(水害ステージ)に合わせてスタッフ所有のスマートフォンを介して通知。スタッフがタスク完了報告を返信すると、完了したタスクはダッシュボードの画面上でグレーアウトするので、未完了のタスクを瞬時に把握できます。また、救急患者の人数や災害医療に従事するスタッフの名前と人数をダッシュボードやタブレットに表示します。この画面を見れば、重症、軽症などの重症度別の対応エリアに所在する患者数に対するスタッフ配置数の適否を判断できます。災害医療に必須の医療機器の使用可能台数も表示可能です。

このシステムの有効性については、人吉医療センターが昨年10月に実施した防災訓練を通じて検証済みです。例えば、各防災活動の展開状況をリアルタイムに把握でき適切な指示ができる、急増する患者に対する医師や看護師の配置判断に有効、各部署・スタッフが適切・確実に必要事項を報告できる、といった評価をしています。3者は今後、システムの高度化を図るとともに、清水建設は来年度から他の医療機関に向けてシステムを提供する予定です。

以上

≪参 考≫

MCP支援システムのダッシュボード(タスク管理画面)

MCP支援システムのダッシュボード(タスク管理画面)

MCP支援システムのダッシュボード(患者施設情報画面)

MCP支援システムのダッシュボード(患者施設情報画面)

MCP支援システムのダッシュボード(救急患者対応画面)

MCP支援システムのダッシュボード(救急患者対応画面)

人吉医療センターが昨年10月に実施した防災訓練の様子

人吉医療センターが昨年10月に実施した防災訓練の様子
MCPシステムのダッシュボードから災害対策本部の意思決定に必要な情報を参照する本部員

令和2年7月豪雨

2020年7月3日から7月31日にかけて、日本付近に停滞した前線の影響で、暖かく湿った空気が継続して流れ込み、各地で大雨となり、人的被害や物的被害が発生した。気象庁は、顕著な災害をもたらしたこの一連の大雨について、災害の経験や教訓を後世に伝承することなどを目的として「令和2年7月豪雨」と名称を定めた。
(以上、気象庁ホームページより)

タイムライン防災

災害の発生を前提に災害時に発生する状況を予め想定し共有した上で、「いつ」、「誰が」、「何をするか」に着目して、防災行動とその実施主体を時系列で整理した計画。

クロノロジー

災害時緊急時の状況あるいは活動の内容を時系列に沿って記録・整理した情報あるいはその手法。

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