伝統木造建築物の火災リスクを低減

~AIやIoT技術を活用した新たな防災システムを開発~

  • 建築

2022.08.29

清水建設(株)<社長 井上和幸>はこのほど、文化的価値の高い伝統木造建築物などの火災リスクを低減する新たな防災システム「慈雨じう」を開発しました。本システムの特徴は、カメラ画像から火災を認識するAIや消火装置を制御するIoTにより、火災を初期段階で発見し、火災発生エリアに集中的に放水することで、早期消火を実現することです。適用の初弾は、江東区潮見に建設中の自社施設「(仮称)潮見イノベーションセンター」内に再築する旧渋沢邸となります。

近年、海外ではノートルダム大聖堂、国内では首里城など、木材を使用した伝統的な重要建築物の火災事例が散見されています。これらを契機に、国内では文化庁が中心になり、国宝・重要文化財(建造物)の防火対策ガイドラインや世界遺産・国宝等における防火対策5か年計画を2019年に策定。この計画に基づき、2024年までの5年間で関連建造物の防火対策を強化します。

これまでの防災システムの多くは、物体の燃焼時に発生する炎からの放射エネルギーと光のちらつきを炎センサーで検知し、放水銃などの消火装置を作動させていました。しかし、こうしたシステムでは、炎の大きさが一定程度大きくならないとセンサーが反応しないため、火災発生を早期に発見できないことが課題になっていました。また、消火時には、敷地内の消火装置を一斉に稼働させる仕組みになっているため、一度に大量の水を消費してしまい鎮火しないうちに消火用水が不足するリスク、さらには一点に集中して着水する放水銃の水圧による建物の損壊リスクの低減が課題となっていました。

そこで当社は、監視カメラ画像をAI処理して検知精度を向上させ、建物の屋外火災を早期に発見できる新たなシステム「慈雨」を開発しました。このシステムはカメラ画像から得られる炎や煙の視覚的情報をAIによる自動判別機能により分析することで、わずかな炎であっても検知可能で、早期消火により火災被害を最小限に留めます。また、AIが人の不審な動作を見極めて検知・発報することで放火を未然に防ぐとともに、IoTにより出火部位に限定して消火装置を稼働させることで、限られた消火用水で効果的に消火します。さらには、本システム用に開発した扇形の放水ノズルから、屋根部や軒下壁面に向けて扇状かつ水平に放水することで、一点集中ではなく広い範囲に着水するため出火部位への確実な着水ならびに、水圧による建物の損壊防止が可能になります。

旧渋沢邸では、死角ができないよう、邸宅を囲むように監視カメラを約15台、扇形の放水ノズルを60台設置。庭内に設ける観賞用の池の直下に150m3ほどの消火用貯水タンクを埋設して水源を確保する計画としています。

当社は今後、本システムを積極的に活用していくことで、文化的価値の高い伝統建築をはじめとした木造建築物の維持・保全に寄与していく考えです。

以上

≪参 考≫

「慈雨」のイメージ

「慈雨」のイメージ

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