コンクリート表層に塗布した含浸剤でCO2吸収を促進

~鉄筋の耐食性も向上し、CO2固定化とコンクリート長寿命化を両立~

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2022.05.30

国立大学法人北海道大学
清水建設株式会社

国立大学法人北海道大学<総長 寳金清博>と清水建設株式会社<社長 井上和幸>はこのほど、環境配慮型コンクリートの研究開発の一環として、既設のコンクリート構造物を利用して大気からのCO2吸収を促進するCO2固定化技術「DAC(Direct Air Capture)コート」を開発しました。この技術は、表層に塗布した含浸剤を介してコンクリート構造物に大気中のCO2を吸収・固定化させるもので、CO2吸収量を含浸剤塗布前の1.5倍以上に増大させることができます。含浸剤の主材となるアミン化合物は、CO2の吸収性能に加え、防食性能も有しているため、コンクリートの中性化に起因する鉄筋の腐食を抑制し、鉄筋コンクリートの長寿命化に寄与します。

温室効果ガスの排出を2050年までに実質ゼロにする目標を掲げた政府のカーボンニュートラル宣言を受け、建設業界では、主要建材であるコンクリート由来のCO2排出削減に向けた技術開発が加速しています。そうした取り組みの多くは、製造時に多量のCO2排出を伴うセメントの使用量削減や、原材料へのCO2固定化など、生産段階における対策に主眼が置かれており、対象は新築構造物に限られます。一方、今回の技術開発では、供用段階の既設構造物のCO2吸収体としてのポテンシャルに着目し、CO2吸収性能の高いアミン化合物をコンクリート内部に含浸させることで、大気中のCO2の固定化を促進させることを企図しました。

本技術開発は、従来の鉄筋コンクリートに代わる次世代材料「ロジックス構造材」の開発に向けた両者の産学共同研究の一環でもあります。開発にあたっては、無数の材料からDACによるコンクリートへのCO2固定化に適した材料を分子レベルで探索し、コンクリート内での物質拡散を評価するシミュレーション技術を活用して長期的な反応過程を可視化しました。

本技術の核となる含浸剤の主材は、発電所や工場の排ガスからのCO2分離・回収に利用されている塩基性化合物・アミンの一種で、鉄筋コンクリートに高い防食性を付与する性能も備えます。一般的に、コンクリートにCO2を固定化すると、部材の中性化を招き、鉄筋が腐食するリスクが生じます。今回の開発技術では、アミン化合物の防食作用により鉄筋の腐食速度を1/50に抑制することで、コンクリートの寿命を損なうことなくCO2の固定化を促進することが可能になります。また、塩分に対する耐性も向上することが確認できており、鉄筋コンクリート構造物の長寿命化も実現できます。

日本国内におけるコンクリート構造物のストックは約300億トンと推計されています。これらの露出部全体に本技術を適用した場合のCO2吸収ポテンシャルは3億トン以上に達します。また、構造物の解体後に残るコンクリートガラへのCO2固定化技術としての活用も期待できます。北海道大学と清水建設は、2026年頃の実用化をターゲットに、材料メーカーとも連携しながら、ラボでの性能評価、実大規模での性能実証、施工法の標準化やカーボンクレジット化の検討等を進めていく考えです。

以上

≪参 考≫

「DACコート」概念図

「DACコート」概念図

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