災害拠点病院 人吉医療センターの水害タイムライン防災計画を共同策定

〜令和2年7月豪雨を想定した防災訓練で、有効性を検証へ〜

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2022.05.06

独立行政法人地域医療機能推進機構 人吉医療センター
国立大学法人京都大学
清水建設株式会社

独立行政法人地域医療機能推進機構 人吉医療センター<病院長 木村正美>、国立大学法人京都大学防災研究所<教授 角哲也>、清水建設株式会社<社長 井上和幸>の3者は共同で、医療現場と工学の知見を連携させ、令和2年7月豪雨時に球磨川の氾濫で浸水被害を受けた人吉医療センターの水害タイムライン防災計画をこのほど策定、本日、大規模な防災訓練を実施し、防災計画の有効性を検証します。

地球温暖化の進展により水害が激甚化・広域化する中、令和2年7月豪雨(おおよそ400年に1度レベル)では、人吉医療センターも浸水被害に直面。災害時に急増する救急医療には何とか対応できたものの、1階への浸水対応などにより医療現場は錯綜していました。そこで、人吉医療センターは、豪雨の教訓を踏まえ、水害時にも災害拠点病院としての機能を維持しつつ、スムースに水害対応業務を展開することを目的に、防災計画の見直しを進めてきました。

一方、京都大学防災研究所が実施した浸水被害予測調査では、全国372カ所の感染症指定医療機関のうち、100~200年に1度レベルの大豪雨でも1/4超が浸水被害を受けるという結果が出ています。感染症指定医療機関に限らず、全国には水害への備えが必要な医療機関が数多くあることが想定されるため、京都大学防災研究所と清水建設は昨年6月から、医療施設に相応しい防災計画の在り方について共同研究を進めてきました。その一環で、浸水被害を受けた人吉医療センターに対してタイムライン防災計画の共同検討を提案したところ、3者による共同検討が実現したものです。

タイムラインとは、国土交通省が風水害への備えとして推奨している防災計画で、災害の発生を前提に、災害時に発生する状況を予め想定した上で、いつ、誰が、何をするか、に着目して、防災行動とその実施主体を時系列で整理したものです。

今回のタイムライン策定にあたっては、はじめに清水建設が病院の建築・設備の実態に基づき水害リスクを評価。それをベースに3者で必要な水害対応業務と実施判断基準(トリガー)、および担当者間の連携方法を整理し、7段階の災害ステージに合わせて時系列的に水害対応業務を順次実行する計画を策定しました。具体的には、水害時に医療センターの各部署が実施する水害対策業務(職員招集、止水板設置、患者対応など)の想定所要時間から水害ステージ毎に必要なリードタイムを設定し、タイムラインに反映していきました。最も重要な実施判断には、公開気象情報に加えて、京都大学が内閣府SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)の一環として開発してきた「全国版RRIモデル」でリアルタイムに解析する予測値を活用します。

本日の防災訓練は、人吉医療センターが中心になり、令和2年7月豪雨レベルの大豪雨が発生しセンター周辺が約70cm程度浸水するという想定で行います。センターの全組織、約150名が参加してタイムライン防災を体験予定です。今後、人吉医療センターは訓練の評価結果をタイムライン防災計画に反映し、より実践的な計画を策定します。また、京都大学は内閣府SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)の一環としてRRIモデルの社会実装に向けたシステムの実証と改良を推進、清水建設は今回の水害タイムライン防災計画の標準化を進め、全国で医療機関を対象に防災計画の立案支援を展開します。

以上

≪参 考≫

人吉医療センター

施 設 名 独立行政法人地域医療機能推進機構 人吉医療センター
院  長 木村正美
所 在 地 熊本県人吉市老神町35番地 電話0966-22-2191
病 床 数 252床(一般248、感染4)
診療指定 地域医療支援病院、災害拠点病院、地域がん診療連携拠点病院、医師臨床研修指定病院、熊本DMAT指定病院、第二種感染症医療指定病院

RRIモデル

RRIは、Rainfall:降雨、Runoff:流出、Inundation:氾濫を意味する。低平地での大規模な氾濫を迅速に予測するための手法であり、流域に降った雨が河川に集まる現象、洪水が河川を流下する現象、河川を流れる水が氾濫原に溢れる現象を流域一体で予測する。「全国版RRIモデル」は、内閣府主導のSIP(戦略的国家イノベーションブログラム)において開発され、日本全国の支流を含めた河川水位予測が可能。

令和2年7月豪雨時の球磨川水害の特徴

短時間の豪雨に伴う急激な河川水位の上昇と、球磨川本川のみならず、支川からの氾濫も同時に発生していること。人吉医療センターからのヒアリングにより、本川の水位上昇に伴い、いわゆるバックウォーターによって支川の胸川が氾濫したことが直接的な浸水原因であることが明らかになっている。このような水害ハザードを的確に予測し、より早く・空振りの少ない水害対策業務の実施判断に結び付けるために、公開気象情報に加え、「全国版RRIモデル」のデータを活用する。

医療施設における水害タイムライン防災計画の必要性

近年、大型台風の接近に備えて、国、都道府県、市町村などの行政部局に加えて、鉄道事業者などが水害タイムラインを策定した事例が報告されているが、医療施設の水害タイムラインを検討した事例報告はまだ少ない。一方、各地で水害が多発する前に建てられた医療施設では、電気・医療ガスなどの設備や診断・診療に必須の機器が地下や1~2階に集中していることが多く、浸水により医療機能の喪失を含む甚大な被害が生じかねない状況にある。このため、水害対応の改修工事とともに水害タイムラインの検討が求められている。ただし、安易なタイムラインは、災害時に急増する救急医療の妨げになるばかりか、重篤患者の生命を脅かす事態を招くことにもなりかねないため、適切なタイムラインの策定には専門家の知見が必要。

医療施設のタイムライン策定の流れ

STEPⅠ 正確な建物・設備の浸水リスク把握

  • 浸水深により喪失する医療施設の機能を整理

STEPⅡ 水害タイムラインの策定

  • 医療施設内の業務連携相関図(コネクティングシート=清水建設開発)により災害対応業務を整理

STEPⅢ 防災行動のトリガー設定

  • 過去の水害からトリガーとなる災害情報を絞り込み、判断ミスを回避できるシンプルで客観的な基準を設定
  • 適切な実施判断に、リアルタイムの河川水位に加え、4時間先までの高精度な浸水予測が可能な京都大学開発の「全国RRIモデル」を活用

STEPⅣ 訓練の実施とフィードバック

  • 水害タイムライン検証のための災害訓練を実施、防災計画にフィードバック

今回設定した7段階の災害ステージに合わせたトリガー

今回設定した7段階の災害ステージに合わせたトリガー

策定した水害タイムライン防災計画の一部

策定した水害タイムライン防災計画の一部

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