亀裂から出る高水圧の湧水を抑制する技術を開発

  • 土木

2016.12.09

国立研究開発法人日本原子力研究開発機構
清水建設株式会社

【発表のポイント】

  • 瑞浪超深地層研究所の坑道掘削時に、地下深部における高水圧の湧水を抑制することを目的として、セメント溶液などを岩盤に注入するグラウチング1)~3)の技術開発を進めてきた。
  • 深度500mまでの研究坑道を掘削する間に、様々な材料(普通ポルトランドセメント4)あるいは超微粒子セメント5)を水に溶かした材料や、セメントより浸透性に優れた溶液型材料である活性シリカコロイド6)を用いてグラウチングを試行した。
  • 深度500m水平坑道(水深400m相当の高水圧下)の比較的湧水が多い区間(坑道延長約16m)で坑道掘削前後にグラウチング(プレグラウチング2)及びポストグラウチング3)を行い、グラウチングを実施しない場合の予測値に対して、湧水量を約100分の1まで低減できた。
  • 同区間のうち、湧水箇所が多い区間(約4m)にポストグラウチングを追加実施し、スウェーデンで示されている地層処分場の処分坑道における湧水箇所に対する目安(湧水箇所に対して1箇所当りの湧水量1L/分未満)を満足できる技術であることを確認した。
  • ポストグラウチングでは、活性シリカコロイドの使用と複合動的注入7)が効果的であった。
  • この技術開発成果は、日本における地層処分場の維持コストの低減や人工バリアの施工精度の向上に寄与する重要な成果の一つと考えられる。

国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(理事長 児玉敏雄)東濃地科学センター 施設建設課 見掛信一郎主任研究員、池田幸喜課長、研究計画調整グループ 松井裕哉グループリーダー及び清水建設株式会社土木技術本部バックエンド技術部 辻正邦主任らは、岐阜県瑞浪市にある瑞浪超深地層研究所において、研究坑道掘削時の湧水抑制のため、プレグラウチング及びポストグラウチングを実施しました(研究坑道掘削工事施工者:清水・鹿島・前田JV)。その際、湧水量の予測にグラウチング効果を考慮できる理論式を用いることにより、目標の湧水抑制を達成するために必要な岩盤の透水性の低下割合や注入範囲を設定しました。さらに、岩盤の透水性に合せてグラウチングに用いる材料の使い分けにより、高水圧下において湧水抑制の目標を達成できるグラウチング技術を開発しました。

深度500m水平坑道では、プレグラウチングを実施し坑道を掘削した後、比較的湧水量が多い区間(坑道延長約16m)において、さらなる湧水抑制技術の試行としてその外側にポストグラウチングを実施しました。その結果、同区間の湧水量は、グラウチングを実施しない場合の予測に対して約100分の1まで低減できました。さらに、同区間のうち湧水箇所が多い区間(坑道延長約4m)に追加実施したポストグラウチングにより、5箇所あった1L/分以上の湧水箇所すべてを1L/分未満にでき、スウェーデンで示されている地層処分場の処分坑道における湧水箇所に対する目安を満足できる技術(ポストグラウチングにより1箇所当りの湧水量を1L/分未満に低減)であることを確認しました。

この技術は、亀裂性岩盤に適用できる汎用的なものであり、地層処分場における維持コストの低減や人工バリアの施工精度の向上に寄与する重要な技術となるとともに、一般的な土木技術においても湧水抑制に対する要求品質が非常に高い場合に適用できる技術と考えられます。

【本件に関する問い合わせ先】

国立研究開発法人日本原子力研究開発機構
バックエンド研究開発部門
東濃地科学センター
(研究内容について)
施設建設課長池田幸喜
TEL:0572-66-2244FAX:0572-66-2245
(報道対応について)
総務・共生課長飯島克彦
TEL:0572-66-2244FAX:0572-68-7717

補足説明資料

【用語解説】

1)グラウチング(参考図1)
亀裂性岩盤を対象とした場合は、岩盤の亀裂(水の通りみち)にセメントなどの溶液を注入することで水を流れにくくし、坑道へ流入する水(湧水)を抑制する。
2)プレグラウチング(参考図2)
坑道掘削に先立ち実施するグラウチング。
3)ポストグラウチング(参考図2)
坑道掘削の後に実施するグラウチング。
参考図1 : グラウチングの概念図
坑道掘削に先立ち実施するグラウチング
(プレグラウチング)
坑道掘削後に実施するグラウチング
(ポストグラウチング)
参考図2 : プレグラウチングとポストグラウチングの概念図
4)普通ポルトランドセメント
土木・建築工事において使用されている、もっとも一般的なセメント。
5)超微粒子セメント
普通ポルトランドセメントを微粒子になるように粉砕したセメント。超微粒子セメントの最大粒子径は、普通ポルトランドセメントの約10分の1(普通ポルトランドセメントの最大粒子径:約100μm(1μm:1×10-6メートル)、超微粒子セメントの最大粒子径:約10μm)。
6)活性シリカコロイド(参考図3)
水ガラス(セメントより浸透性に優れた従来から使用されている溶液型材料)からアルカリを除去するとともに、シリカの粒径を大きくすることで耐久性を向上させたコロイド溶液。国内では砂質地盤の補強などで実績がある材料。活性シリカコロイドの最大粒子径は、超微粒子セメントの約1,000分の1(活性シリカコロイドの最大粒子径:約10~20nm(1nm:1×10-9メートル)。
参考図3 : 活性シリカコロイドを用いた溶液型材料の概要
7)複合動的注入工法(参考図4)
注入ポンプに設置した動的周波数設定器により、脈動により注入材料の到達範囲を広げる効果のある長波と分散効果のある短波を組み合せた複合波を伝播させる工法(清水建設(株)・ライト工業(株)の特許保有技術)。この複合波により、通常の定圧による注入工法や短波または長波のみによる動的注入工法よりも高い浸透効果が発揮されることが実証されている。
参考図4 : 複合動的注入工法における複合波の概念図

【技術開発の背景と目的】

一般的な道路トンネルなどの地下構造物を建設する時には、施工の安全確保などの観点から構造物周囲の岩盤の透水性を低下させ空洞内への地下水流入量を抑制する対策(以下、湧水抑制対策と呼びます)として、グラウチングがしばしば行われます。高レベル放射性廃棄物の地層処分場は深度300mより深い所に建設することが法律上定められていますが、通常の地下土木構造物の建設は比較的浅い深度を対象としていることから、地下深部における高い水圧の状態下において十分な湧水抑制対策が行える技術の確立は、今後の地層処分事業の実施において重要な技術開発課題の一つとされていました。

このため、東濃地科学センターでは、図1に示すように、瑞浪超深地層研究所の研究坑道掘削時に(研究坑道掘削工事施工者:清水・鹿島・前田JV)、深度500mまでの範囲で工事の安全確保とともに坑道内への湧水を抑制するため、亀裂性岩盤である花崗岩を対象とした湧水抑制対策技術の開発を実施してきました。

図1 : 瑞浪超深地層研究所の研究坑道レイアウト及びグラウチングの実績

【技術開発の成果】

瑞浪超深地層研究所における研究坑道掘削では、坑道掘削前に実施した先行ボーリング調査により換気立坑掘削時に多量の湧水の発生が懸念され、深度200mから深度500mまでの研究坑道を掘削する間に、湧水抑制対策としてグラウチングを実施してきました(図1)。その際、湧水量の予測にグラウチングの効果を考慮できる理論式を用いることにより、目標の湧水抑制を達成するために必要な岩盤の透水性の低下割合や注入範囲を設定しました。さらに、岩盤の透水性に合わせてグラウチングに用いる様々な材料(普通ポルトランドセメントあるいは超微粒子セメントを水に溶かした材料や、セメントより浸透性に優れた溶液型グラウト材料である活性シリカコロイド)の使い分けにより、深度500mまでの高水圧下(水深400m相当)において、湧水抑制の目標を達成できるプレグラウチング技術を開発しました。

理論式を用いて湧水抑制の目標を設定し、注入範囲ならびに材料を設計してグラウチングを実施した結果、概ね予測に合った効果が得られたことから、目標設定から設計、施工に至る一連の手法は簡便であり有用性が高いことを提示することができました。これらの成果は、様々な地下空洞の施工への適用が可能であり、成果を広く反映できると考えられます。

深度500m研究アクセス南坑道では、プレグラウチングを実施して坑道を掘削した後(平成23~26年坑道掘削)、比較的湧水量が多い区間(約16m)において、さらなる湧水抑制技術の試行として、その外側の範囲を対象としてポストグラウチングを実施(平成26年実施)しました(図2、3)。その結果、対象区間の湧水量は、グラウチングを実施しない場合の予測値(1,380m3/日)に対して、プレグラウチング実施後は約30分の1(50m3/日)となりました。その後実施したポストグラウチングにより、50m3/日から15m3/日となり、グラウチングを実施しない場合に対して、湧水量を約100分の1まで低減できました(図4)。

さらに、特に上記区間のうち湧水箇所が多い区間(坑道延長約4m)に追加実施したポストグラウチングにより(平成28年実施)、5箇所あった1L/分(≒1.4m3/日)以上の湧水箇所すべてを1L/分未満に低減することができ(図3)、スウェーデンで示されている地層処分場の処分坑道における湧水箇所に対する目安*を満足できる技術(ポストグラウチングにより1箇所当りの湧水量を1L/分未満に低減)であることを確認しました。

また、ポストグラウチングでは、活性シリカコロイドの使用と複合動的注入(周波数の異なる脈動波を組み合せた工法)の適用が効果的であることが確認できました。

  • *出典:Brantberger, M. and Janson, T.(2009):Underground Design Forsmark, Layout D2 Grouting, R-08-114, SKB, 91p.

【今後の期待】

この技術開発の成果は、地層処分事業においても亀裂性岩盤を対象とした場合は適用可能なものであり、湧水に伴う排水処理費を削減することから維持コストの低減に寄与でき、人工バリア施工時の作業環境をドライにすることから施工精度の向上に寄与できるなど、今後事業を進める上で大きな役割を果たすことが期待されます。

また、地層処分技術に限らず一般的な土木技術においても湧水抑制に対する要求品質が非常に高い場合に展開できる技術です。すなわち、本技術は坑道への湧水抑制だけでなく、湧水にともなう地下水の変動を抑制することが可能であることから、坑道周辺の地下水位の低下を抑制したい場合などに展開できると考えられます。

図2 : 深度500m研究アクセス南坑道のプレグラウチング実施範囲概念図
図3 : 深度500m研究アクセス南坑道を対象に実施した
プレグラウチング及びポストグラウチングの概念図
図4 : 深度500m研究アクセス南坑道で実施したプレグラウチング及びプレグラウチング後
ポストグラウチングを実施した場合の湧水抑制効果

【外部への成果発表情報(直近3か年:平成26(2014)年~平成28(2016)年)】

Tsuji, M., Kobayashi, S., Sato, T., Mikake, S. and Matsui, H. (2016)
Post-grouting with colloidal silica at great depth of the Mizunami Underground Research Laboratory, Japan, 8th Nordic grouting symposium, pp.171-185.
辻正邦、小林伸司、佐藤稔紀、見掛信一郎(2016)
瑞浪超深地層研究所における大深度のポストグラウチング技術-新技術を導入した設計、施工実績、湧水抑制効果の評価について-、第44回岩盤力学シンポジウム講演集、pp.359-364.
辻正邦(2016)
大深度地下における湧水抑制のための岩盤グラウト技術、土木クウォータリー、清水建設株式会社、Vol.190, pp.51-74.
辻正邦、小林伸司、延藤遵、杉山博一(2015)
大深度の岩盤止水を目的とした活性シリカコロイドの適用、基礎工Vol.43, No.10,pp.28-33.
見掛信一郎、佐藤稔紀、池田幸喜、渡辺和彦、小林伸司、辻正邦、草野隆司、栗田和昭(2015)
瑞浪超深地層研究所深度500mにおけるポストグラウチング技術(その1)-湧水抑制対策の概要-、土木学会第70回年次学術講演会、Ⅵ-665、pp.1329-1330.
小林伸司、辻正邦、見掛信一郎、佐藤稔紀、栗田和昭、江口慶多(2015)
究所深度500m におけるポストグラウチング技術(その2)-止水性向上を目的とした新技術を採用した設計および湧水量予測-、土木学会第70回年次学術講演会、Ⅵ-665、pp.1331-1332.
栗田和昭、草野隆司、辻正邦、小林伸司、見掛信一郎、佐藤 稔紀(2015)
瑞浪超深地層研究所深度500m におけるポストグラウチング技術(その3)-ポストグラウチング仕様、注入実績概要、新しい技術の施工性-、土木学会第70回年次学術講演会、Ⅵ-665、pp.1333-1334.
辻正邦、小林伸司、見掛信一郎、佐藤稔紀、江口慶多、栗田和昭(2015)
瑞浪超深地層研究所深度500m におけるポストグラウチング技術(その4)-新しい技術の有効性評価-、土木学会第70回年次学術講演会、Ⅵ-665、pp.1335-1336.
辻正邦、小林伸司、佐藤稔紀、見掛信一郎(2015)
瑞浪超深地層研究所における大深度下でのグラウト設計と施工実績および改良効果の評価、第43回岩盤力学シンポジウム講演集、pp.7-12.
Tsuji, M., Kobayashi, S., Sato, T. and Mikake, S.(2015)
Grouting for reducing groundwater inflow into a gallery at 500m depth of the Mizunami Underground Research Laboratory, Japan, Proceedings of the workshop Grouting EUROCK 2015, pp.35-41.
見掛信一郎、西垣誠、佐藤稔紀(2014)
グラウチングの注入範囲設定に関する浸透力を考慮した評価理論の構築、土木学会論文集C(地圏工学)、70(1)、pp.33-43.
Tsuji, M., Funehag, J., Kobayashi, S., Sato, T. and Mikake, S.(2014)
Comparison of grouting with silica sol in the A¨spo¨ Hard Rock Laboratory in Sweden and Mizunami Underground Research Laboratory in Japan, Proceedings of 2014 ISRM International Symposium- 8th Asia Rock Mechanics Symposium, pp.1237-1246.
Sato, T., Mikake, S., Kobayashi, S. and Tsuji, M. (2014)
Status of Grouting to Reduce Groundwater Inflow into Deep Shafts and Galleries in the Mizunami Underground Research Laboratory, Japan, Proceedings of 2014 ISRM International Symposium- 8th Asia Rock Mechanics Symposium, pp.1248-1257.

以上

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