「1855年安政江戸地震」の震源と揺れを推定

~歴史資料上、最大被害の首都直下地震の震度分布を再現~

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2016.08.25

清水建設(株)<社長 井上和幸>はこのほど、近年の地震観測記録に基づき、歴史資料が残る首都直下地震の中で最大被害をもたらした「1855年安政江戸地震」の震源モデルと地震動を推定し、千葉県北西部のフィリピン海プレート内の深さ60km付近に震源を設定することで、歴史資料に基づく震度分布を再現できることを確認しました。また、この震源モデルから推定される首都圏での地震動には、建物に大きな影響を与える周期1~2秒の揺れが卓越する特性があることが分かりました。当社は今後、この研究成果を都心部での超高層建物等の耐震設計に反映していく考えです。

地震調査研究推進本部では、繰り返し発生してきたマグニチュード7クラスの首都直下地震の今後30年間の発生確率を70%と推定しています。1855年に発生した安政江戸地震は、マグニチュード7前後、都心部での最大震度6強、江戸市中(東京都心部)での死者数が1万人程度と推定される、歴史資料上、最大被害の首都直下地震です。その震動特性を解明することは、東京での地震対策の立案や首都圏の超高層建物等の設計用地震動を策定する上で重要です。ただ、安政江戸地震については震源やメカニズムに諸説があり、震度が同心円状に分布しない異常震域や、広域の震度分布を同時に再現する震源モデルはこれまで提案されていませんでした。

今回の研究では、中小地震の観測記録を用いて大地震の強震動を予測する「経験的グリーン関数法」に基づき、安政江戸地震の震度分布に整合する震源モデルと強震動の推定を行いました。大きな断層面全体が破壊して生じる大地震の地震波は、断層破壊の伝播(進行)に応じて順に発生する中小地震の地震波を重ね合わせたものとして評価することができます。経験的グリーン関数法では、想定した大地震の震源断層上で実際に観測された中小地震の地震波を基に、大断層を分割した要素断層の破壊によって生じる地震波を算出し、これらを断層破壊の伝播経路を考慮して順に足し合わせることで、大地震の強震動を推定します。また、本研究では、断層の不均一性を考慮し、破壊しにくい反面、破壊すると強い地震波を生み出す強震動生成域を想定断層面に設定することで、推定精度の向上を図りました。

具体的には、まず、東京湾北部・中部、千葉県西部・北西部で発生した中規模地震の震度分布を分析。その結果、2005年7月23日に発生した千葉県北西部地震(Mw5.9)の震度分布が、異常震域を示す安政江戸地震の震度分布と類似していることが判明しました。そこで、この地震の震源断層を包含する大断層面を安政江戸地震の震源断層と想定し、2カ所の強震動生成域を含む震源モデルを設定。続いて、震源位置と強震動生成域の設定条件を変えながら、千葉県北西部地震の観測波を利用した経験的グリーン関数法に基づく強震動予測と震度分析を繰り返し、安政江戸地震の震度分布を再現する最適震源モデルを見出しました。

この最適震源モデルでは、震源断層を、千葉県北西部のフィリピン海プレート内の東南東方向に64度傾斜した逆断層(長さ36km・幅27km)とし、震源位置を断層中央部・南寄りの深さ60km付近に設定しています。また、本モデルによる首都圏での推定地震動には、速度波形に周期1~2秒のパルス波が卓越する特徴がみられます。周期1~2秒のパルス波は中低層の建物に与える影響が大きく、また、首都圏の半数の超高層建物の固有周期は1.5~2.5秒程度であるため、推定地震動は安政江戸地震の再来を想定した地震対策の検討に有効と考えられます。

なお、本研究は、科学研究費補助金事業「巨大地震の長周期地震動による超高層住宅の生活継続プランの構築に関する系統的研究」(研究代表者:川瀬博京都大学教授)の一部を構成するものです。今後、本研究の成果を研究分担者にも提供し、超高層住宅の生活継続プランの研究に利用してもらう予定です。

以上

≪参 考≫

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