日常探査が可能な切羽前方探査システム「S-BEAT」を開発

~トンネル掘削振動を利用し、地山性状変化点の三次元分布を予測~

  • 土木

2016.08.23

清水建設(株)<社長 井上和幸>はこのほど、山岳トンネル施工のさらなる生産性向上を目的に、トンネル掘削振動の反射波を利用して、掘削作業を中断することなく、切羽前方50~100m先までの地山状況を三次元的に探査するシステム「S-BEAT(Shimizu Hydraulic-Breaker Exploration Ahead of Tunnel Face)」を開発しました。複数のトンネル現場で実施したシステムの試験適用において、優れた探査機能を発揮し、システムの有効性が確認されています。

S-BEATは、自社開発の切羽前方探査手法を改良・高機能化したものです。従来手法の探査機能は、切羽の直進方向における地山性状の変化点を推定するものでしたが、S-BEATでは、上下・左右方向の変化点位置を含めて探査することができ、トンネル周りの三次元的な地山性状の予測が可能です。また、本システムの特徴は、掘削作業に使用する資機材を探査に利用するため導入が容易で、日常的に使用できることです。本システムによる探査を切羽の進行に合わせて繰り返すことで、予測精度の向上を図ることができます。

山岳トンネル工事を安全かつ効率的に進めていくためには、切羽前方の地山性状を事前に把握し、状況に応じた適切な施工計画を立案する必要があります。確実な地山探査の手法は、先進調査ボーリング等により地山の性状を直接確認することですが、掘削作業の中断を伴い、費用も高額なため、頻繁に実施することはできません。そこで、S-BEATを活用して切羽前方の地山状況を日常的にモニタリングし、詳細調査が必要な劣化部を検知した場合に限り、ボーリング調査を実施することで、掘削工程に与える影響と探査費用を最小限に抑えることができます。

S-BEATの探査原理は、地山を伝播する振動が岩盤性状の変化点で反射する現象を利用し、トンネル内で観測した振動データから地山内の反射面の位置を推定する反射法弾性波探査を応用したものです。本システムでは、油圧ブレーカーの掘削振動を起振源、トンネル側壁に一定間隔で打ち込まれた複数の既設ロックボルト頭部を受振点とすることで、データ計測の簡素化を図りました。システムの設置作業は、受振センサーをロックボルト頭部に装着し、受振データを記録・保管するデータロガー、データ解析ソフトを組み込んだパソコンにケーブル接続するだけで完了します。システム設置から計測、撤収までに要する時間は30分未満で、掘削作業に並行して準備を行い、工事を中断せずにデータ取得を行うことが可能です。

計測終了後、各受振点で検知した打撃振動データから、発振点から直接伝播した直接波と、地山の反射点から戻ってきた反射波を抽出。各受振点への到達時間差から導かれる打撃振動の伝播速度を基に、発振点から受振点に至る反射波の伝播距離を算出します。ここで、反射波の反射点は、発振点と受振点を焦点とする楕円体(等走時楕円)の面上にあると考えられるため、受振点ごとに等走時楕円を描き、これらを重ね合わせることで、共通反射点を割り出します。この共通反射点の推定結果と、切羽に近い受振点に配置した3成分(トンネル軸・直交・上下方向)受振センサーの波形データから推定した反射波の到来方向を総合的に評価し、反射点の三次元分布を予測します。

当社はこのシステムの他に、ロックボルト挿入孔の削坑エネルギーデータと切羽の地山性状データから切羽前方の地山性状を予測する「山岳トンネル三次元前方予測・探査システム」も開発・実用化しています。これらの探査手法を施工条件に応じて使い分け、山岳トンネル工事の施工品質、安全性の向上に努めていく考えです。

以上

≪参 考≫

S-BEATによる前方探査のイメージ

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