第36回 岩手銀行赤レンガ館

盛岡市内を流れる中津川のほとりに建つ国指定重要文化財「岩手銀行(旧盛岡銀行)旧本店本館」。約百年の間、銀行として営業を続けてきた歴史的建造物が、2016(平成28)年、当社の手による保存修理工事を終えて「岩手銀行赤レンガ館」に生まれ変わりました。現在は、地域交流施設、盛岡の産業・商業史の展示施設として活用されています。

保存修理工事後の外観

新築時建物概要

所在地 :
岩手県盛岡市
竣工 :
1911(明治44)年
設計 :
辰野・葛西建築事務所
施工 :
中澤善太郎ほか

現役銀行として初めての重要文化財指定

岩手銀行赤レンガ館は、1911(明治44)年、二代目の盛岡銀行本店として建設されました。
煉瓦造2階建て、威風堂々たる建物の設計を担当したのは、近代建築界の雄、辰野金吾と盛岡出身の建築家葛西萬司(まんじ)が主宰する辰野・葛西建築事務所。ドーム状の屋根をのせた塔屋を擁し、外壁の赤煉瓦に白色の花崗岩(かこうがん)を巡らせたデザインは、典型的な「辰野式」で、東北地方に残る唯一の辰野金吾作品です。
1、2階吹き抜けの開放感ある営業室と待合室には、豪華な装飾が施され、外観、内観とも各所に明治期の銀行建築の特徴を見ることができます。
昭和に入り、盛岡銀行が閉行した後は、岩手殖産銀行(後の岩手銀行)の本店として使用。1983(昭和58)年に当社施工の岩手銀行本店が完成してからは、中ノ橋支店として営業を続け、1994(平成6)年、現役の銀行で初めて、国の重要文化財に指定されました。

吹き抜けと華麗な装飾を取り戻したエントランスホール

旧営業室は多目的ホールとして市民に開放

保存修理工事で創建時の姿に復元

当社は、2010(平成22)年から、文化財保存活用のための耐震診断、調査工事に携わりました。
そのさなか、東日本大震災が発生。建物に大きな被害はありませんでしたが、文化財指定以前に増築された隣接棟との接続部に損傷が見つかりました。
そのため、岩手銀行は建て替える新店舗に銀行機能を移し、保存修理後に建物を広く一般に公開することを決定。2012(平成24)年の新店舗完成を受けて、銀行としての営業に幕を下ろし、本格的に保存修理工事が始まりました。
地震による被害のなかった外部は最小限の保全にとどめ、後世の増改築によって変わった姿を創建時に戻す方針で工事は進められました。
増床のために張られた2階部分の床材は撤去し、当初の吹き抜けを復原。同時に、手すり付きの廻廊(かいろう)やアーチ型の欄間(らんま)装飾、照明、カウンターの仕切り格子(スクリーン)といった美しい装飾を、古写真や図面をもとに復原しました。また、隣接棟との接続のために変更されていた開口部も、当時の間取りに戻されました。

2016(平成28)年、岩手銀行赤レンガ館として再オープンした当日は、雨にもかかわらず、県内外から多くの人が明治の名建築の復活を見に訪れました。

「川と銀行木のみどり、まちはしづかにたそがるゝ」

岩手を代表する詩人宮沢賢治の詩の中にも詠われた建物は、新たな命を吹き込まれ、これからも盛岡のシンボルとして大切に使われ続けていきます。