ビル全体を制振装置化し地震時の揺れを半減するシステム「BILMUS(ビルマス)」
BILMUSは、超高層ビルの上層階と下層階を構造的に独立させ、免震建築に用いる積層ゴムとオイルダンパーで連結しています。地震時に上層階と下層階が互いの揺れを打ち消す方向に動きます。これにより、ビル自体が制振装置の役割を果たすため、従来と比べ制振装置の台数を大幅に削減でき、意匠設計の自由度が飛躍的に高くなります。また、本システムは建物の構造や用途を問わず適用することが可能です。
「BILMUS」の概要
制振には、建物の適所にオイルダンパーなどの制振装置を付けて揺れを吸収させる方法と、建物頭頂部に載せたマスダンパーなどの錘を建物と反対方向に動かして揺れを打ち消す方法があり、超高層建物などでは両方取り入れることもあります。
オイルダンパーなどで超高層ビルを制振する場合、多数の装置が必要となり、建築計画の自由度にも影響を与えます。また、マスダンパーは超高層ビルで揺れ幅が最も大きい頭頂部の動きを抑制する合理的な方法ですが、錘の重量がビルへの負荷にもなるため、載せられる錘の重量=制振効果に限界があります。
そこで、ビル本体を錘として活用する、より効率的な制振システムとして開発したのがBILMUSです。
上層階の重量がビル全体の10~50%になる位置に連結部を設けます。上層階を錘として利用することで、一般的なマスダンパーと比べて10~50倍の重量比となるため、より大きな制振効果を発揮し、中小地震から大地震、暴風に至るさまざまな外力に対応しながら建物全体の揺れを抑えます。加えて、上層階の居住性に影響を及ぼす応答加速度※を大幅に低減することが可能です。
連結部は、上層階と下層階の揺れの周期が打ち消し合うよう、積層ゴムとオイルダンパーの量を調整して構成します。
応答加速度:地震が起きた時の構造物の揺れ(応答)の強さを加速度で表したもの
メリット
1.上層階の揺れが最大で従来の半分以下
BILMUSを採用した建物では、地震時の上層階の揺れが最大で従来の半分以下になります。そのため、居室内の家具、什器の転倒や内外装の損傷も低減され、居住性能だけでなく、安全性も向上します。
2.フロアの有効面積拡大や設計自由度の向上
ビル自体を制振装置化することで、これまでフロアごとに配置していた制振ダンパーの台数を大幅に削減することが可能。今まで制振ダンパーを設置していた場所を有効利用し、レジリエンスや居住性、設計の自由度などを向上させつつ、建物全体のコストを従来と同程度に抑える経済性を実現できます。
BILMUSを実現する開発技術
BILMUSの連結部は、積層ゴムやオイルダンパーで構成された柔らかい層となっているため、年に数回発生するような強風に対しても変形します。地上から最上階まで連結部を貫通して昇降するエレベータは、連結部の変形を検知すると安全装置が働き、運行を停止してしまうため、建物利用者の利便性を損なわないよう、強風時にエレベータを停止させないような工夫をする必要がありました。
耐風ロック機構「ウィンドロック」
地震時には作用せず、強風時においてのみ連結部の変形を固定できる耐風ロック装置「ウィンドロック」を新たに開発しました。建物屋上に取り付けられた風速計や、連結部の変位計が一定の数値以上となる強風を感知すると、連結部に設けられた油圧ジャッキが自動的に伸長し、摩擦板を押し付けます。
連結部の水平方向への変形を防止することで貫通するエレベータの稼働を維持する一方、強風時においても地震発生時にはロックを瞬時に解除し連結部を機能させます。
安全装置「eクッション」
設計で用いたレベル3(ex.2500年に一度起こると考えられる地震)を超えるような想定外の大地震により、連結部の過大変形を防止するために開発したのが、安全装置「eクッション」です。eクッションは、物理的なストッパーとして上層階の構造体から伸び出た立下り柱(H型鋼)に設置します。揺れによる衝突の衝撃を和らげつつ、連結部の変形を抑制します。