BILMUS（ビルマス）が超高層ビルの構造を革新

清水建設（株）＜社長　井上和幸＞はこのほど、大小の地震に対して絶大な制振効果を発揮し、超高層ビルのレジリエンス向上と経済設計という二律背反の課題を一挙に解決する制振システム「BILMUS」を開発、実用化第一弾として「芝浦プロジェクト」S棟に採用されました。このシステムの特長は、ビル自体が制振装置として機能すること、建物の構造・用途を問わず適用できることです。　

国内で制振構造が普及する契機になったのは1995年に発生した阪神・淡路大震災です。この四半世紀の間に多様な制振装置が開発されていますが、依然、超高層ビルの制振には多数の装置を要します。また、ビルの使い勝手を勘案すると装置設置スペースがコア周囲の柱・梁フレーム内に限られるため、自ずと制振効果も限られてきます。BILMUSはこうした常識を打ち破り、超高層ビルに構造革新をもたらします。

BILMUSの計画上の特徴は、超高層ビルの上層階と下層階を構造的に独立させ、双方を免震建築に用いる積層ゴムとオイルダンパーで連結する構造形式を採ることです。地震時には、連結部を介し、上層階と下層階が互いの揺れを打ち消す方向に揺動し、ビル自体が制振装置と化します。上層階の重量がビル全体の10～50％になる位置に連結部を設け、積層ゴムにより上層階の周期を調整することで絶大な制振効果を発揮します。この結果、地震時には上層階の揺れ(加速度)が最大で従来の制振構造の半分以下になり、家具・什器の転倒や内外装の損傷が低減され、超高層ビルのレジリエンスが飛躍的に向上します。また、従来タイプの制振装置の台数を大幅に削減できるので、意匠設計の自由度も高まります。

連結部には、積層ゴムとオイルダンパーに加え、強風時の耐風ロック機構「ウィンドロック」、連結部の過大変形を防止する安全装置「eクッション」を設置します。ウィンドロックは季節風などの強風時に作動して積層ゴムの変形、つまり連結部の水平変形を抑止し、連結部を貫通するエレベータの稼働を維持する一方、強風時でも地震発生時にはロックを瞬時に解除し連結部を機能させます。eクッションは、大地震時に建物の構造安全性を確保する役割を果たします。連結部の設置コストは、制振効果による建物の構造体や制振ダンパーの数量減により相殺可能です。

「芝浦プロジェクト」は、野村不動産（株）と東日本旅客鉄道（株）を事業主体とする大規模複合開発です。うち、当社が施工中のS棟は、地上43階、高さ約235mの超高層で、用途・構造は1階～34階が鉄骨造のオフィス・商業施設、35階以上が鉄骨造（コアウォールは鉄筋コンクリート造）のホテルです。BILMUSが採用に至ったのは、構造・意匠両面にもたらすメリットを事業者に評価いただいた結果です。

計画では、地上170mとなるオフィスとホテルの用途切換位置に連結部を設け、積層ゴム38基、オイルダンパー62台、ウィンドロック12機、eクッション8台を設置します。上層階となるホテル部は約34,200tで、建物重量の約15％に相当します。従来の制振構造で設計した当初プランと比較すると、下層階のオフィス部では優れた制振効果を確保したうえで、制振装置の設置台数を200台超、鉄骨数量を1,500t超削減し、開放的な眺望と有効面積の拡大を実現します。上層階のホテル部では地震や強風に見舞われても、ラグジュアリークラスのホテルに相応しい居住性が確保されます。

当社は今後、BILMUSを超高層ビルの設計施工案件の提案に織り込むことで、受注競力を高めるとともに、レジリエンスが高い超高層ビルを経済的に提供していく考えです。