パソコンによる音の伝搬解析に波動理論を適用

~発想の転換により、スパコンレベルの解析をパソコンで実現~

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2014.12.02

清水建設(株)<社長 宮本洋一>はこのほど、スーパーコンピュータの使用が不可欠とされていた波動理論に基づく音の伝搬解析をパソコンで処理できる「3次元波動シミュレーションシステム」を開発・実用化しました。このシステムにより、本来の音の伝搬特性を反映した高精度な解析を手軽に行えるので、より効果的・経済的な騒音対策等の立案が可能になります。一連の技術開発に当たっては、首都大学東京・大久保寛准教授から技術指導を受けました。

これまで、パソコンを用いて騒音等の伝搬を予測する場合、エネルギー理論に基づく解析手法が採られてきました。エネルギー理論とは、本来波紋を描きながら伝搬する音を、音源から四方八方に直線的に伝搬するエネルギーに例える手法です。この理論の欠点は、音の波動性に起因する干渉や共鳴、音源を取り巻く複雑な地形や構造物等が音の伝搬に与える影響を再現できないことです。このため、波動性を模擬した解析手法を併用して予測誤差の解消に努めますが、安全側に立った対策の立案が余儀なくされます。もちろん、スーパーコンピュータを用いれば波動理論に基づく解析が可能ですが、費用や準備期間等の面から実用的ではありません。

こうした課題を解決したのが3次元波動シミュレーションシステムです。開発にあたっては、波動理論解析を簡素化し、データ処理量を抑制することが最大の課題になり、高精度な解析を行う領域と精度を求めない解析を行う領域を音の伝搬に合わせてシフトさせる手法の開発に取り組みました。この結果、高精度な解析を行う細かい計算メッシュが音の伝搬に追随していく、つまり音の伝搬に合わせて計算メッシュの大きさ(細・粗=精度)を自動調整する手法の開発に成功し、パソコンによる波動理論解析を実現しました。

この手法により、音が伝搬している領域に限って計算メッシュを細分化する一方、音が通過した、或いは到達していない領域の計算メッシュを粗分化することで、計算に必要なメモリーと時間をともに1/5程度に軽減・短縮できました。メッシュの細・粗設定は任意ですが、目安として周波数300Hz程度までの騒音を扱う場合は、高精度な解析領域では10cm程度、その他の領域では30cm程度に設定します。対象面積によって異なりますが、解析に要する時間は半日程度です。

シミュレーションの手順は、初めに生産施設の騒音源周辺の地形や構造物、騒音対策を反映した3次元モデルを構築した後、騒音源の情報を入力すると、システムが騒音の伝搬状況を解析・予測します。音の伝搬特性を忠実に反映した高精度な解析が行えること、騒音の経時伝搬状況をアニメーション表示でき騒音対策の効果が一目瞭然になることから、過不足のない最適な対策を立案できます。

通常、音の伝搬解析は、劇場の音響設計や生産施設の騒音対策、集合住宅の交通騒音対策等を立案する場合に行います。中でも、生産施設の騒音対策は200~300m四方の広範囲に及び、騒音の伝搬解析には膨大なデータ処理が必要になることから、最も波動理論の適用が難しいとされていました。

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