病院の高層化に対応した火災時避難安全システムを開発・実用化

~国内初、非常用エレベーターを入院患者の避難誘導に利用~

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2014.04.07

清水建設(株)<社長 宮本洋一>はこのほど、都心部における病院の高層化に対応した安全・確実な火災時避難を実現することを目的に、国内で初めて非常用エレベーターを避難誘導に使用する「高層病棟避難安全システム」を開発・実用化しました。本システムは、順天堂ならびに早稲田大学との共同研究を経て実用化したもので、適用第一号は順天堂医院(仮称)B棟高層棟(文京区本郷)です。

都心部に位置する大規模病院で相次いでいる施設のリニューアルでは、各種機能の集約と土地の高度利用を図るため、病棟を高層化する傾向にあります。一方、建物の階数や用途にかかわらず、これまで火災時の避難は階段使用が原則で、病院の場合、自力で避難できない患者のためにバルコニーへの一時退避を併用した設計がなされていました。ただ、高層化が進むとバルコニーへの避難自体が危険を伴ううえ、はしご車による救助も難しくなるので、新たな避難システムの開発が求められていました。

新開発のシステムは、建物のフロアを複数のブロックに分割する水平防火区画、患者を煙から守る加圧防排煙設備、火災を早期に検知し、自動で防火区画の閉鎖や防排煙設備の起動を行う自社開発の火災フェイズ管理型防災システム(フェイズシステム)で構成されます。水平防火区画によって分割された各ブロックには、非常用エレベーターを設置します。

火災時には、フェイズシステムが出火を自動検知すると、防火区画の扉を閉鎖してフロアを2つに分割。続いて加圧防排煙設備を起動します。出火区画では煙を排出(排煙)、非出火区画では廊下に新鮮な空気を供給・加圧することで、区画間に圧力差を設けて煙の侵入を防止し、非出火区画を安全な一時避難エリアにします。看護師らは、防火設備の起動等を行う必要がなくなるため、いち早く入院患者を一時避難エリア側へ水平避難させたり、非常用エレベーターを介して地上階や緊急治療が可能な階へ避難させることが可能になります。消防隊は出火区画側の非常用エレベーターを使って火災発生階に向かうことができます。

順天堂医院(仮称)B棟高層棟の場合、各フロア1,360m2で、21室・42病床を設けています。火災発生時には、出火側区画で3万2千m3/hを排煙し、非出火区画側の廊下に1万8千m3/hを給気することで、非出火区画の約175m2を火煙の影響の少ない一時避難エリアにします。設計にあたっては、当社独自の避難安全性評価(避難シミュレーション)を適用し、歩行困難な患者に対するスタッフの介助等運用実態に即した検証を行い、一時避難エリアに安全に避難できることを確認しました。

なお、非常用エレベーターの火災初期における避難誘導使用、つまり消防活動以外の使用は、今回のB棟高層棟が認可の第一号で、東京消防庁が昨年10月に制定した新指導基準「高層建築物における歩行困難者等に係る避難安全対策」に基づく措置です。

以上

≪参 考≫

1.火災フェイズ管理型防災システム

当社がパナソニックと共同で開発・実用化した防火設備制御の司令塔。建物毎に総務大臣の認定を受けて適用するもので、計5棟への実績がある。火災の進展(フェイズ)を認識して各種の制御を行うことが特長。

2.避難安全性評価

当社で開発した介助行動をモデル化した避難シミュレーションにより評価する。患者の救護属性(担送・護送・独歩)別の病床配置や看護師の人数、他の階からの応援要員等の条件を与え、火災の進展を考慮しながら、介助避難に要する時間を予測し、結果を意匠設計や設備設計、避難誘導計画に反映する。

3.非常用エレベーター

火災時に消防隊が消火作業および救出作業に使用するもの。建築基準法により、高さ31m超の建築物に設置が義務づけられている。

4.順天堂医院(仮称)B棟高層棟の工事概要

  • 工事名称順天堂大学キャンパス・ホスピタル再編事業
    (仮称)B棟建設工事
  • 所在地文京区本郷2丁目201-1,-2,-3,-16,-17,-18
  • 発 注学校法人順天堂
  • 設計施工清水建設
  • 規模建築面積2,786m2、延床面積45,089m2地下3階、地上21階(高さ99.72m)
  • 工期(第 I 期)平成24年2月~平成25年12月

5.システムの概要図、B棟の平面図と外観写真

(仮称)B棟高層棟の病棟平面図
外観写真

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