手術室空調システム「クリーンコンポ デュアルエアー®

従来の空調⽅式は、⼿術を受ける患者の状況や手術工程に合わせた空調を⾏うことを前提に、天井中央部に設けられた⼀カ所の吹出⼝から、執⼑医や患者のいる術野エリア(手術台や器械台をカバーする室内中央エリア)に向けて空調空気を吹くのが主流でした。クリーンコンポデュアルエアーは、垂直下降流と⽔平旋回流の2⽅向気流を組み合わせ⼿術室内の空気を隅々まで循環させることで、⼿術を受ける患者だけではなく、手術室で働くすべての医療スタッフに対して快適な温熱環境を提供します。また、⽔平旋回流が空気のよどみを解消することによって、室内の清浄度向上にも効果を発揮します。

垂直下降流と水平旋回流によるクリーンコンポ デュアルエアー(イメージ)
垂直下降流と水平旋回流によるクリーンコンポ デュアルエアー(イメージ)

クリーンコンポデュアルエアーの概要

天井中央部に設けられた吹出⼝から吹く従来の空調⽅式では室内の空気が一部滞流し、また麻酔科医や外回り看護師などがいる周囲エリアでは上下で温度差が⽣じ⾜元が冷えるなど、空調の改善を求める声が上がっていました。

本開発では、空気の流れに着⽬。温熱環境の要求条件が異なる術野エリア※1と周囲エリア※2の空調において、異なる2系統のシステムを用いることで、1室に2つの温度帯を作ることに成功しました。

  1. 術野エリア:本来術野は手術部位を差すが、ここでは手術台や器械台をカバーする室内中央エリアを差す
  2. 周囲エリア:手術台から少し離れた麻酔科医や技師、外回り看護師などの作業エリアを差す
従来システムによる空調気流
従来システムによる空調気流
新開発システムによる空調気流
新開発システムによる空調気流

術野エリアは従来と同じく下降気流によって温度と清浄度を保ちますが、周囲エリアは術野エリアの環境を乱すことなく、また、気流による不快感(ドラフト)を感じさせないようにするため、天井付近の隅⾓部壁⾯の対⾓に設けられた吹出⼝によって⽔平⽅向に旋回する空気の流れを作り出し、快適性を確保します。室内空気全体を余すことなく動かすことで⼿術室全体の清浄度を⾼めることができ、換気効率も向上しました。

さらに空調を術野エリアと周囲エリアで別系統にすることで、それぞれのエリアでの個別温度設定が可能となりました。設定温度変更への追従性も向上したことで⼿術内容や⼿術⼯程に合わせた柔軟な温度管理が可能となり、⼿術室環境の⾼機能化を図ることができます。

新開発システムの概念図
新開発システムの概念図

シミュレーションとモックアップ手術室による性能検証

まず、2⽅向気流の吹出パターンを検討するため、気流解析シミュレーションを⾏いました。次に、空調設備や照明設備を実装した実物⼤モックアップ手術室を構築し、⼿術中の温度の変化や空気の流れを可視化することで、⽔平旋回流の有効性を明らかにしました。また、実際の手術を想定した模擬⼿術を行い、⼈の動きで発塵がある状態においても清浄度が維持できることを実証しました。

さらにクリーンコンポデュアルエアーを採用した病院の協⼒を得て、実際に⼿術をしている状況下での環境測定を⾏い、温熱・清浄環境が改善されていることを確認しています。

気流解析シミュレーション

⼿術室における室内温度分布を気流解析シミュレーションで検証した結果、天井からの吹き下ろしのみによる従来システムでは、周囲エリアに温度層が形成されることが分かりました。天井からの冷気は術野エリアと床付近を通って壁面下部の吸込口に向かいます。周囲の空気の流れは緩やかなためあまり混ざらず、暖かく軽い空気は上に、冷たく重い空気は下に移動します。これにより、一部に熱や粒子の滞流域ができていました。また吹出口端部で周囲の熱や粒子を巻き込み、空調空気や清浄空気の断面が逆三角形になる縮流という現象が起こっていました。本システムでは⽔平旋回流で術野エリアに影響を与えることなく周囲エリアを攪拌することで、熱や粒子の滞流や縮流が解消され、安定した温熱環境の形成と清浄度の向上を同時に実現できることを確認しました。

従来システムの温度分布
従来システムの温度分布
新開発システムの温度分布
新開発システムの温度分布

モックアップ手術室実験

標準的な広さのモックアップ⼿術室を構築し、空調制御による室内環境の変化について検証しました。術野エリアと周囲エリアで設定温度を変え、ポイントごとの室温の時系列変化を計測し、シミュレーション通りの空間となっていることを確認しました。

術野エリアの垂直下降流は乱れることなく真っすぐ手術台に届いています。下降流の吹出温度と術野エリア居住域(床から床上約1.8m程度、人の足元から頭の高さまでの領域)の温度差は1℃程度、術野エリアと周囲エリアでは2℃の温度差がついた環境となり、目標通りの温熱環境が形成されています。従来周囲エリアの居住域で約3℃あった温度差は1℃以内と大きく改善され、快適性が向上しました。

モックアップ実験室内に熱電対を設置し、連続測定を実施
モックアップ実験室内に熱電対を設置し、連続測定を実施
モックアップ実験室内に熱電対を設置し、連続測定を実施
モックアップ手術室での温度分布の測定結果
モックアップ手術室での温度分布の測定結果

気流の流れはスモークテスター(実験⽤の⽩煙)を使って可視化しました。術野エリアにおける天井からの下降流は、手術台に向かって真っすぐ吹き下ろしていることが分かります。下降流の吹出⾵速は0.3m/s程度で術野エリア全体をカバーすることができます。これにより、術野の清浄度と温度を維持することができます。また⽔平旋回流は、部屋の広さに応じた吹出風速で吹くことで術野の下降流を乱すことなくその周囲の空気を攪拌しながら、⼤きく旋回することを確認しています。

さらに、⼿術室内をスタッフや機材が動く現実の手術を模擬した状況における温度や清浄度の計測を⾏いました。実験的に熱や粒子を発生させた場合だけでなく、実際の人の動きによる発熱や発塵がある場合においても、快適な温熱環境を形成し、クラス10000(ISOクラス7)※3の清浄度環境を満⾜することができました。

※3 クラス10000:体積単位1cf(1辺約30cmの⽴⽅体)あたり、粒径0.5μm以上の粒子数が10000個以下

術野エリア吹出⼝の気流を可視化(垂直下降流)
術野エリア吹出⼝の気流を可視化(垂直下降流)
周囲エリア吹出⼝の気流を可視化(⽔平旋回流)
周囲エリア吹出⼝の気流を可視化(⽔平旋回流)

実手術室の空調性能を検証

クリーンコンポデュアルエアーを採用した⼿術室において、実運用段階の性能を検証しました。手術室内各所に温度計や微粒子計測器を一定期間設置させていただき、実際に手術を行っている状況下での空気環境を測定しました。

術野エリアはセンサー設置が困難であるため、術野用カメラにセンサー類を設置して術野エリアの代表点として測定
術野エリアはセンサー設置が困難であるため、術野用カメラにセンサー類を設置して術野エリアの代表点として測定

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