文京区に広大な敷地を誇る東京大学本郷キャンパス。数ある歴史的建造物の中で、安田講堂と並ぶ中心的存在に「東京大学総合図書館」があります。当社が手掛けた改修工事によって、歴史的価値の保持と未来指向の機能の両立が実現しました。
東京大学本郷キャンパスに最初の図書館が完成したのは1892(明治25)年。設計は文部省建築掛、施工を当社が担当しました。東西に長く伸びた十字型のれんが造3階建ての建物は、東側に75万冊を超す蔵書を納めた書庫、西側に300人収容可能な閲覧室がありました。当時の閲覧室の様子は、夏目漱石の小説『三四郎』の中にも描かれています。
その図書館を1923(大正12)年9月、関東大震災が襲います。基礎部分とわずかばかりの蔵書が残っただけで、文字通り灰燼に帰しました。再建には国内外から多くの支援が寄せられ、震災から5年後の1928(昭和3)年、内田祥三(※1)設計監督の下、現在の総合図書館本館が完成しました(施工は大林組)。
当社は、2014(平成26)年に再び図書館の施工に携わります。「新図書館計画」として進められた、①新館建設工事、②本館の耐震性向上および内部全面改修から成る大規模改修工事、です。
先に着工した新館は、キャンパス全体の景観を変えずに新設したいというニーズの下、本館前の広場の地下に建設されました。土木施工に用いるニューマチックケーソン工法(※2)を採用し、地下46mを掘削。300万冊収蔵可能な自動化書庫を設置し、地下1階に交流の場となるライブラリープラザを設けた「別館」として完成しました。
続く本館改修では、外観は現状保持を基本とし、劣化が激しい部分を既存に合わせて更新。建具の一部を創建時の意匠に戻しました。内部は、過去の改修で失われたトップライトを復元。重いしっくい天井は撤去して耐震化を施し、石こうの装飾部材は裏側から補強して再設置するなど、現代の技術と職人の手で再生させました。
新図書館計画は、建物の歴史的価値を保持したまま、新しい知の拠点として整備したことが評価され、2022年度のBCS賞やBELCA賞に輝きました。