第40回 シミズが手掛けた歴史的建造物 佐原三菱館(旧 川崎銀行佐原支店)

国の重要伝統的建造物群保存地区(※1)に選定され、古い町並みが残る町、千葉県香取市の佐原。中でもひときわ目を引くれんが造の洋風建築が佐原三菱館です。大正期の貴重な建物を次の世代へとつなぐため、2021(令和3)年、当社の手による保存修理工事が進んでいます。

  1. 重要伝統的建造物群保存地区
    伝統的建造物群保存地区の中でも「意匠が優秀」などの基準で、特に価値あるものとして定める地区

千葉県内で最初の仕事

佐原三菱館 外観

佐原三菱館は、川崎銀行の佐原出張所として建設されました。1914(大正3)年12月竣工。当社が千葉県内で手掛けた最初の仕事です。

外観は、ルネッサンス様式をベースに、赤れんがと白色の花崗岩(かこうがん)を組み合わせ、角にドーム型の屋根を載せた「辰野式」(※2)。内部は2階に回廊をめぐらせた吹き抜けで、木製のカウンターが営業室と待合室を仕切っていました。窓や扉には、巻上式シャッターを設置し、防火対策を徹底。1923(大正12)年に関東大震災が発生しましたが、幸いなことにこの建物は被害を免れ、1943(昭和18)年に三菱銀行へと名前を変えてからも銀行店舗として使用され続けました。

  1. 辰野式
    明治建築界の巨匠として知られる辰野金吾が得意としたデザイン

市民に愛される建物を次世代へ

1989(平成元)年、老朽化が進んだことから、解体、新店舗建設の検討がスタート。この時、市民の皆さんから、「赤れんが銀行」の名で親しんできた建物を保存したいという声が寄せられました。

三菱銀行(当時)はその熱意に応え、建物を市に寄贈。市の観光、交流施設「佐原三菱館」として存続が決まりました。これを機に、佐原の町並み保存運動は活性化。建物の県有形文化財への指定、関東地方初の重要伝統的建造物保存地区選定として実を結んでいます。

町のランドマークとして愛されてきた佐原三菱館ですが、東日本大震災を受け、耐震対策の必要に迫られます。文化財の保存工事では初となる、設計競技から施工者が技術協力を行うECI方式で発注された事業に、当社は創建時の材料、工法を使い、意匠を極力保存する耐震工法を提案。これが高く評価され、保存修理工事の受注に至りました。

耐震対策は意匠に配慮して、れんが壁内部および回廊床上、天井裏に構造補強を実施。写真や設計図面、同年代の建物などを綿密に調査し、創建時の外内観復元にも取り組んでいます。工事完了予定は2022(令和4)年。百年以上の時を超え、名建築がよみがえる日が待ち望まれます。

新築記念絵葉書にみる創建時の内観(小堀屋商店所蔵)

建物概要

所在地 :
香取市佐原イ1903-1
構 造 :
れんが造 2F
延床面積 :
77m2