第32回 「工事年鑑」

明治から昭和にかけて、当社はさまざまな建築作品集を刊行してきました。その一つに、工事実績を年ごとにまとめて刊行した「工事年鑑」があります。この作品集は、お客様ならびに設計者各位の「永く光栄を記念すると共に、将来の参考資料とも致し度い」という思いのもとに編集されました。

昭和期の施工実績を一覧できる記録資料

「工事年鑑」の一冊目となる
1935(昭和10)年版の表紙

「工事年鑑」は、1935(昭和10)年から1982(昭和57)年にかけて、29冊が刊行されました。刊行年によって装丁に多少の差はありますが、A4サイズの布装製本で、タイトルに金色や銀色の箔押しが施されています。
収録作品は、刊行年の前年に竣工した工事実績で、事務所や学校、工場、住宅などの建物用途ごとにまとめられています。建築だけでなく橋梁、鉄道、道路など土木の実績も収録されています。
1962(昭和37)年版以降は、巻末に工事実績一覧が掲載されるようになり、昭和期に当社が手掛けた実績を、一覧して見ることができる貴重な資料です。

1937(昭和12)年、日中戦争を機に、日本は戦時統制経済体制へと移行していきました。その影響もあって、「工事年鑑」の刊行は昭和16年版をもって一時中断されました。戦後、1956(昭和31)年に刊行を再開。復刊一冊目となる昭和31年版では、1945年から1955年に手掛けた326件の工事が紹介されています。また、スライディング・フォーム工法や清水式柱礎工法など、当社の実績を支える建設技術を“技術の頁”と題して、写真入りで紹介しています。

シミズの昭和史を物語る作品集

1894(明治27)年、日清戦争で日本が勝利を収めると、国内の企業は次々と朝鮮に進出していきました。また、1906(明治39)年には南満州鉄道株式会社が設立され、以降、朝鮮、台湾、満洲(現中国)での工事需要は急速に高まっていきました。

これを受けて当社は、1902(明治35)年に朝鮮京城出張所、1915(大正4)年に大連出張所と上海仮出張所、1926(大正15)年に台北出張所を開設し、アジア市場へと本格的に進出していきます。増加し続ける工事に対応すべく、出張所を後に支店へと昇格させ、各地で多くの工事を手掛けました。

戦前期に刊行された7冊の「工事年鑑」には、台北市樺山(かばやま)尋常小学校や日本赤十字哈爾濱(はるびん)病院など、朝鮮、台湾、満洲で手掛けた工事が多数収録されています。

高度経済成長期と重なる昭和30〜40年代に刊行された「工事年鑑」には、多くの事務所や工場、集合住宅などとともに、東海道新幹線や名神高速道路などの社会インフラ整備の実績も収録されています。昭和50年代に入ると、インドネシアやバングラデシュで手掛けた工事が収録されるようになり、当社が海外に本格的に進出していった様子をうかがい知ることができます。

昭和という時代に当社が何に取り組み、どのように事業を拡大させていったのか。「工事年鑑」は、その一端を語りかけてくる歴史資料なのです。

スライディング・フォーム工法を用いた味の素横浜工場サイロ
(現・J-オイルミルズ横浜工場サイロ)/1956(昭和31)年版

名神高速道路/1963(昭和38)年版