メタバース空間に施工中建物を再現し、遠隔地からの諸検査を実現

清水建設（株）＜社長 井上和幸＞はこのほど、（一財）日本建築センター＜理事長 橋本公博、以下BCJ＞の指導ならびに、（株）積木製作の協力を得て、施工中の建物をリアルに再現した仮想空間の中に入ることで、遠隔地にいながら建物の諸検査を実施できるメタバース検査システムを開発しました。このシステムは、当該建物の3次元スキャンモデルと設計BIM（3次元）データを結合させる「メタバース」と両者の整合を確認できるチェックツール「xRチェッカー」から構成されます。将来的には、このシステムを一般公開し、日本全体の建築生産の効率化に寄与していく考えです。

毎年、全国で60万棟近くの建物が建築確認を受けて着工し、完成までの間に建築確認を受けた図面との整合を確認する諸検査が繰返し実施されます。設計者による工事監理、行政の建築主事などによる中間・完了検査などがその代表格で、多くの場合、複数の担当者が現地に赴き、図面を片手に目視や簡易計測機器による整合確認、工程写真や各種検査報告書の書類検査等を行います。ただ、検査のための移動には膨大な時間が費やされており、完了検査の移動だけでも全国で100万時間以上に達します。

当社は2019年6月から、建築生産の効率化を目的に、BIMデータを活用した建築確認申請や諸検査に取り組んでいます。すでに、AR（拡張現実）技術により、遠隔地からタブレットの画面越しに諸検査を実施できるシステムを開発済みで、BCJから相応の評価を得ていますが、視野の制約をなくし臨場感を増すことが課題になっていました。メタバース検査は、こうした課題を一挙に解決しており、遠隔検査の普及に弾みをつける試金石になる可能性を秘めています。

このシステムを構成する「メタバース」は、クラウド上にある建築確認を受けたBIM（3次元）データと施工中建物の空間をスキャンした3次元点群データを結合し、メタバースを構成するものです。VRゴーグルを着用することで、自分の分身のアバターと化してメタバースに入ることができ、そこには何ら制約のないリアルな視野が開けます。コントローラー操作により、アバターは当該建物内や建物周囲の任意の場所へ瞬時に移動し、例えば鳥瞰など現実にはない任意の視点から諸検査を実施できます。また、別の場所からアバターとして仮想空間に入っている関係者との音声会話、クラウドからダウンロードした工程写真や各種検査報告書などの書類データの確認が可能です。さらには、「xRチェッカー」の機能により、BIMデータと点群データとの整合を即座に自動計測し、設定した許容値を超えた差分を色分け表示できます。

こうした機能により、居場所を問わず施工中建物の諸検査に対応できるため、建築生産の効率化に寄与できるとともに、検査の効率化・高度化も進みます。すでに、実際の建物を対象にシステムの検証を実施しており、改善点も認められるものの、日本建築センターから「実用に供し得る」という評価を得ています。

国土交通省が各都道府県の建築行政主務部長宛に発行した2022年5月9日付通知「デジタル技術を活用した建築基準法に基づく完了検査の立ち合いの遠隔実施について」を踏まえ、今後、建築確認申請はもとより、建築確認に伴う諸検査や施工中の工事監理のプロセスにおいてもBIMの活用が急速に進むことが想定されます。当社はデジタルゼネコンとして、BIMのデータ活用により、日本全体の建築生産の効率化に寄与する考えです。