社寺建築

楼門の再建で阿蘇神社の復興完結 重要文化財 阿蘇神社楼門保存修理工事

社寺建築 楼門の再建で阿蘇神社の復興完結 重要文化財 阿蘇神社楼門保存修理工事

社寺建築 楼門の再建で阿蘇神社の復興完結 重要文化財 阿蘇神社楼門保存修理工事

楼門の再建で阿蘇神社の復興完結

阿蘇地域のシンボルとなっている阿蘇神社。2016年4月の熊本地震で、日本三大楼門の一つとされる楼門は全倒壊、三の神殿は損壊、一の神殿、二の神殿、神幸門みゆきもん還御門かんぎょもんは部分損壊しました。当社は修復工事の最後に残された楼門の再建に携わり、このたびの竣工で阿蘇神社の復興が完結しました。

細かな破片にも気を配る

熊本県阿蘇地域に位置する阿蘇神社は、2000年以上の歴史がある古社で、全国に約500の分社を有しています。日本三大楼門の一つに挙げられている楼門は、江戸時代末期の1850(嘉永3)年に造営されたもので、入母屋造、唐破風、二階建ての風格のある造りになっています。
2016年4月、熊本地震国重要文化財6棟が甚大な被害を受け、その災害復旧事業を当社が請け負うこととなりました。同年10月から2019年3月までの1期工事で、6棟のうち損壊した三の神殿、部分損壊した一の神殿、二の神殿、神幸門みゆきもん還御門かんぎょもんの5棟を復旧。全倒壊した楼門は、この間、文化財建造物保存技術協会の監理の下、解体、調査、記録、保存を行いました。

2016年4月の熊本地震で被災した阿蘇神社全景。()内は造営年
2016年4月の熊本地震で被災した阿蘇神社全景。()内は造営年

解体にあたっては、まず初めに、倒壊した楼門を覆う高さ9.8m、幅22.5m、奥行25.3mの素屋根を建設し、上層の屋根部より順に作業開始。部材がどのように重なり合っているのか、全体像が把握できない中で始まった解体は、荷重バランスが崩れて二次災害が起こるリスクが伴う中で行われました。楼門には、現在では手に入らない良質な材料が使用されていたこともあり、重要文化財としての価値を損なわないように、安全を確保した上で慎重に部材を撤去。細かな破片にまで気を配りながら作業を実施しました。

72%に達した部材の再利用率

楼門から回収した部材は約11,000点。一つ一つに収集場所と連番を記入した木札を取り付けて境内に新設した保存小屋に移管し、全部材の損傷状況について調査しました。重要文化財のため、可能な限り解体した部材を使って復原する必要がありますが、極力再利用することを前提に、再利用できる部材、部分的に補修を要する部材、代替が必要な部材に分類し、構造重量材以外の修繕を開始しました。
部材は、長期間湿っていたことで腐朽菌が入り腐ってしまったり、シロアリなどの影響で部材がスカスカになってしまったりしたケースに加え、倒壊時に折れる、他の部材が食い込むなどの破損も多く見られました。そのため、はがれそうな箇所を接着剤で付ける、破損部分をなるべく小さく取り除いて別の木材で埋める、新規木材と既存木材との補強接続をするなど、破損状態に合った最適な補修方法を決定し、部材補修と代替部材の製作を実施しました。根気強い作業のおかげで、部材の再利用率は72%に達しました。

破損した部材。再利用前提の修復が求められた
破損した部材。再利用前提の修復が求められた
約11,000点の部材を格納する保存小屋
約11,000点の部材を格納する保存小屋

伝統と技術をバランスさせる

楼門の再建は、2019年4月から2023年12月までの二期工事で行いました。最初に行った基礎工事では、地面を井桁状に掘削して埋めたH鋼の上に耐震補強用の鉄骨を4本建て、楼門の基礎となる耐圧版コンクリートを打設。この鉄骨を木と接続することで耐震性能を上げる作戦です。その後、施工ヤードを覆う高さ24.1m、幅22.5m、奥行き25.3mの素屋根を架設し、内部で大きな柱や隅木などの構造重量材の修復を行いました。古材と新材をアラミドロッドという樹脂で補強接続したり、接続後に鉄板を巻いたりして、修繕補強を実施しました。
2021年2月の立柱祭の後、いよいよ楼門本体の建方工事が開始。どの部材をどの位置に設置すべきかを注意深く見極めながら、従来の部材の間を縫って耐震鉄骨を新たに組み入れ、互いに接続するという作業を繰り返します。

今回、2期工事を担当した工事長は寺坂勝利です。
「復旧工事の最難関は、従来の部材による骨組みを忠実に復原するだけでなく、外観を変えることなく、震度7の地震に耐えられるように耐震鉄骨を骨組みの中に新たに納めることでした。従来の部材をある程度組み上げた段階で、鉄骨を仮置きして最適な形状と設置場所を探るのですが、鉄骨は元々なかったものなので従来の部材との干渉が生じます。楼門の文化財としての価値を棄損しないように、文化財建造物保存技術協議会と協議を重ね、部材の加工を最小限に留める鉄骨形状を決定、設計するのにかなりの時間を要しました」と語ります。伝統と技術をバランスさせなくてはならない、重要文化財の復旧工事ならではの難しさがうかがわれます。

2期工事を担当した工事長は寺坂勝利
2期工事を担当した工事長は寺坂勝利

今回、2期工事を担当した工事長は寺坂勝利です。
「復旧工事の最難関は、従来の部材による骨組みを忠実に復原するだけでなく、外観を変えることなく、震度7の地震に耐えられるように耐震鉄骨を骨組みの中に新たに納めることでした。従来の部材をある程度組み上げた段階で、鉄骨を仮置きして最適な形状と設置場所を探るのですが、鉄骨は元々なかったものなので従来の部材との干渉が生じます。楼門の文化財としての価値を棄損しないように、文化財建造物保存技術協議会と協議を重ね、部材の加工を最小限に留める鉄骨形状を決定、設計するのにかなりの時間を要しました」と語ります。伝統と技術をバランスさせなくてはならない、重要文化財の復旧工事ならではの難しさがうかがわれます。

実物大の楼門が描かれた素屋根内部で工事を行った
実物大の楼門が描かれた素屋根内部で工事を行った
可能な限り既存材を使って新材と補強接続した木柱
可能な限り既存材を使って新材と補強接続した木柱
木と干渉しない形状の鉄骨を製作、組み入れた
木と干渉しない形状の鉄骨を製作、組み入れた
耐震鉄骨の納まりの様子
耐震鉄骨の納まりの様子

やりがいのある仕事だった

2022年9月、無事に上棟祭を迎えた後、屋根の銅板を1枚1枚丁寧に設置し始め、2023年3月に屋根の銅板ぶきが終了しました。7月に素屋根の解体を終え、楼門廻りの土間コンクリートの施工、掲示板の修復などを実施。楼門の再建の終了で阿蘇神社の復興が完結し、12月7日に竣工式が行われました。
「楼門の全倒壊で、地元の人たちから神社が身代わりになってくれたという声を多く聞きました。工事期間中は、毎日、朝礼後に神社を朝拝し、おはらいを受けてから作業を開始したことが思い出に残っています。数々の難局に直面しましたが無事に乗り越えて竣工を迎え、とてもやりがいのある仕事に携われたことに感謝しています」と寺坂は語ります。楼門には、これからもずっと地域を見守り続けてほしいという寺坂の思いが結実した日となりました。

屋根の銅板ぶき作業が終了
屋根の銅板ぶき作業が終了

ピカピカだった銅板ぶきの屋根の色が既に変わり始め、ずっと前からそこにあったかのように周囲の風景に馴染んで見える楼門。竣工式当日、流れる楼門復旧のテレビニュースで、コメントを求められた参拝客の目に光るものを見た気がしました。当社はこれからも技術の伝承を続け、後世の子どもたちに誇れるしごとを通して社会に貢献していきます。

竣工した阿蘇神社全景
竣工した阿蘇神社全景

工事概要

所在地
熊本県阿蘇市一の宮町宮地3083-1
発注者
宗教法人 阿蘇神社
設計・監理
文化財建造物保存技術協会
工期
2019.4~2023.12
構造・規模

木造2F

建築面積 81m2

延床面積 130m2

記載している情報は、2024年3月11日現在のものです。
ご覧になった時点で内容が変更になっている可能性がございますので、あらかじめご了承ください。

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