Interview
VRの可能性を引き出す「VR-Commons」
東海大学様が描く“場を共有する”未来とは?
東海大学 副学長
濱本 和彦様
東海大学 濱本先生は、長年にわたりVR研究の第一線で活躍されています。医療情報分野からVRへと専門を広げ、現在は医療用バーチャルシミュレータや英語学習などの教育コンテンツ開発、そしてバーチャル環境における人の認知と行動の研究という2つの大きなテーマに取り組んでいます。
今回は、先生が理想とするVRの形に近いと語る「VR-Commons」を導入した経緯や狙い、その特徴、そして実際に活用してみての感想や今後の展望について詳しく伺いました。
- 先生の研究内容について教えてください。
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もともとは医療情報分野を専門としており、がんの温熱療法やエコー(超音波)画像処理の研究に取り組んでいました。その後、東海大学 工学部 通信工学科の助手に着任し、1995年に研究室を持つことになりました。2001年には、大学の学科再編があり、VR分野を担当することになりました。そこから現在に至るまで、一貫してVRに関する研究を続けています。
現在の研究のテーマは、大きく2つあります。1つ目は医療用バーチャルシミュレータや英語学習などの教育コンテンツの開発です。2つ目は、バーチャル環境における人の認知と行動の研究です。バーチャル環境で人がどのように情報を認知し、どのように行動するのかを分析し、現実に近い認知・行動を実現するための条件や設計要件を探っています。
- 授業ではどのような内容を担当されていますか?
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主に画像処理とVRの講義を担当しています。
VRの授業では、VRの歴史や概念、要求される要素技術等を講義した後、立体視や触覚、モーションキャプチャなどの要素技術を実習形式で扱っています。具体的には『Leap Motion』を用いた手指のキャプチャや、触覚デバイス、TECHTILE toolkitよる振動触覚などを体験する実習を行っております。
単に仕組みを学ぶのではなく、バーチャル環境における認知や行動が現実とどのように異なるのかを、実際に装置に触れながら体験的に理解してもらうことを重視しています。
- VR-Commonsを導入された経緯を教えてください。
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『VR-Commons』を導入した理由は、私が考えるVRの理想形に近いシステムだと感じたためです。現在のVRは、ヘッドマウントディスプレイを装着し、バーチャル空間に自身のアバターを配置して体験する形式が主流となっています。ただ私は、VRに対する最適なインタフェースは自分の五感や身体を使うことだと思っています。
歴史を振り返ると、コンピューターが扱う情報は、数字、文字、画像、動画、そして空間へと発展してきました。例えば文字を使うためにキーボードが生まれて、絵を描くためにペンタブというインタフェースが生まれました。空間情報を扱うのであれば、そのインタフェースは本来、人間の五感と身体そのものであるべきです。つまり、リアルな空間にVR環境を作り、参加者が入って五感と行動で体験する。それが本質的なVR体験ではないかと考えています。
VR-Commonsの体験イメージ 人間が五感や行動でコンピューターと情報のやり取りができるとしたら、VRは究極のヒューマンインタフェースです。
さらに、その空間同士をネットワークで接続できれば、遠隔地にいても“場”を共有することができます。VR-Commonsは、空間としてのVR環境を持ち、かつ拠点間通信が可能な点で、その理想に近いと感じ、導入を決めました。
- 湘南キャンパスに導入した狙いは何ですか?
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湘南キャンパスでは、当初から拠点間通信を前提に導入を検討していました。将来的にVRの標準になるのは、空間同士をつなぐ仕組みだと考えています。遠隔地にいる人と、単に映像を共有するだけではなく、同じ「雰囲気や空気感」を共有することができるかどうか。それを検証したいという思いがありました。
理想としては、キャンパス内のラーニングコモンズなどに複数のVR-Commonsが設置され、常時接続されている状態です。空間同士が常に接続されれば、新しい学習やコミュニケーションの形が生まれると期待しています。
- 湘南キャンパスのVR-Commonsの特徴について教えてください。
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湘南キャンパスでは17号館と19号館の2箇所に導入しています。
17号館に設置したVR-Commonsでは、没入感を重視しました。正面・床面・右面をそれぞれ約5,400mm×3,000mm×3,000mmとすることで、実際にその場に入り込んだような没入感を得られるサイズにこだわりました。
東海大学 湘南キャンパス17号館のVR-Commons また、横に長い3面スクリーン構成とすることで、十分な視野を確保しながら、多人数が同時に体験できる設計としています。設置する部屋は、中の様子を外のギャラリーが見学できるような開放性も持たせています。さらに、360度カメラの4K映像をリアルタイムで表示できる環境を整えました。大学施設であるため、学生の教育利用はもちろん、広報や見学対応などの用途も見据えた設計としています。
- 実際に使ってみていかがですか?
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まず使い勝手に関しては、UIが直感的で分かりやすく、ジェスチャー操作も便利ですね。
またVR-Commonsの活用により、プレゼンテーションの質が向上しました。これまでは2次元の資料や動画が中心でしたが、3Dコンテンツを用いて多角的に見せることができるようになりました。理解度の向上にもつながっていると感じています。
さらに、現在特に関心を持っているのが、「場の空気感や雰囲気をどこまで共有できるか」という点です。例えばオンライン会議では顔は見えていても、空間そのものは共有されていません。一方で、VR-Commonsの中に複数人が入り、全身が見える状態で身振り手振りを交えながらコミュニケーションを取ると、その場の空気感や雰囲気も伝わり易くなります。
現在は、学生とともに、この空気感の伝達に関する研究にも取り組んでいます。拠点間通信を前提としたVR環境において、どの程度リアルに近いコミュニケーションが成立するのかを検証していきたいと考えています。
- 今後、VR-Commonsをどのように発展させていきたいですか?
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現在は、VR-Commons間の通信やコンテンツの共有が中心ですが、今後は“環境そのものの共有”を実現したいと考えています。つまり、片方が現実環境、片方がVR-Commonsで、現実環境をVR-Commonsで共用する形です。
例えば、病院の手術室をそのままVR-Commonsに映し出し、手術が行われている空間自体を共有する。医学生が執刀医の手元を立体的に確認できるようにしたり、状況に応じて関係者がその様子を共有できるようにしたりと、教育や説明のあり方は大きく広がる可能性があります。
また、危険を伴う現場作業においても、実際に現地へ行かなければ分からない環境を事前に体験できれば、リスクの低減や判断精度の向上につながると考えています。 現場の空間や状況をそのまま共有し、事前に理解しておくことには大きな意義があります。
現在はVR-Commons同士の通信が中心ですが、空間や環境そのものを共有できるようになれば、より実践的で社会的価値の高い仕組みへと発展していくのではないかと考えています。






