- 建物OS
ロボット導入だけでは変わらない。
ビルポと清水建設が挑む“運用から変える”スマートビルの実現
人手不足やコスト上昇を背景に、ビル管理の現場ではロボットやDXの導入が進んでいます。しかし、「ロボットを導入したのに思ったほど効果が出ない」「ロボット導入に加え、人による運用も残ったことで、結果的にコストが膨らんでしまった」という声も少なくありません。
清掃や警備、設備管理といった領域では、慢性的な人材不足に加え、労務コストの上昇も続いています。省人化や効率化の手段としてロボットやデジタル技術への期待は高まっていますが、実際の現場では“導入しただけ”で終わってしまうケースも多く見られます。
こうした課題に対し、ロボット単体ではなく、建物全体の運用設計から見直すアプローチで注目されているのが、株式会社ビルポです。同社は「RaaS(Robotics as a Service)」とビルOSを組み合わせた統合ソリューションにより、スマートビルの実装を推進しています。
今回は、ビルポ代表の稲垣氏に、サービスの特徴や開発背景、清水建設との協業の狙い、そしてスマートビルの未来についてお話を伺いました。
株式会社ビルポ
代表取締役CEO
稲垣 太一氏
ビルポのサービス概要と開発背景について教えてください。
当社は、MSI(Master System Integration)事業として、スマートビルディングの設計から運用までを一貫して手がけています。
単にロボットを導入するのではなく、人・設備・ロボットといった複数の要素を統合し、建物全体の運用を最適化することが特徴です。ロボットを製品として販売するのではなく、RaaSとして提供し、導入後の運用やシステム連携まで含めた形で支援しています。
また、ビルOSと連携するアプリケーション開発や、ビルメンテナンス会社へのコンサルティングも行い、現場起点での改善を支援しています。単なる機器導入ではなく、「どう運用すれば成果につながるのか」まで踏み込むことが重要だと考えてきました。
この事業の背景には、私自身がビルメンテナンスの現場に深く関わってきた経験があります。前職での知見をもとに、「現場で本当に機能する仕組み」を追求しています。
社会全体としてロボットの導入が進んでいますが、導入したものの使いこなせない、想定通りに機能しない、結果としてコストが増えてしまうといった状況に課題意識を感じてきました。
現場に近い場所にいたからこそ、リアルな課題意識が生まれ、運用全体を設計する現在のアプローチに至りました。
ビルポの強みはどこにありますか?
最大の強みは、オペレーションまで踏み込んで運用フローの構築をしている点です。
ロボットやシステムをプロダクトアウト的なアプローチで提供する企業も少なくありませんが、当社はマーケットイン的な考えを重視し、運用の最適化やコスト削減を見据えた構築を行います。
ビル管理の現場は、普段意識されにくい領域です。施設の美しさには目が向いても、それを維持する業務に関心を持つ人は多くありません。その結果、業務の最適化が進みにくい構造があります。
実際に、ロボットの導入が目的化してしまい、運用設計が伴わないまま終わってしまうケースもよく耳にします。例えば、床材に適さないロボットを導入してしまい、見た目には問題がなくても建物へ負荷をかけてしまうといった事例もあります。
こうした背景には、「ビル管理業務そのものへの関心の低さ」があります。業務を分解し、最適化する視点がなければ、本来の効果は発揮されません。
当社は、手段を目的化するのではなく、「何を実現したいのか」というゴールから逆算して設計します。見えにくい業務を可視化し、データに基づいて改善することで、はじめて実効性のある課題解決ができると考えています。
お客様のニーズと導入目的について教えてください。
現在の主なニーズはコスト削減と人手不足への対応です。
清掃や設備管理の領域では人件費が上昇し続けており、従来の運用が成り立ちにくくなっています。一方で、ロボットを導入するとその分の費用も追加で発生するため、全体としてコストが増えてしまうケースもあります。
こうした課題に対し、当社は運用設計まで含めて見直すことで、全体最適を実現します。外注費や人件費の削減につながるケースも多く、結果として持続可能な運用体制の構築に寄与します。
また、ロボット導入の難しさが広く認識されるようになり、より実運用に踏み込んだ新規のご相談も増えています。例えば、建物内で複数のロボットが稼働する場合には、動線の衝突を防ぐ制御や、エレベーターとの連携など、建物全体での管理が不可欠です。
こうしたニーズに応えるためには、ロボット単体ではなく、ビルOSと連携した統合的な制御が求められます。
活用事例と導入時の課題について教えてください。
清水建設本社ビルでの実証では、17台の清掃ロボットを導入し、従来の運用との比較検証を行いました。
現時点ではエレベーターや入退室システムなどとの連携を行わない、いわゆる単体稼働のロボットによる検証でしたが、約30%のコスト削減が可能であることが分かりました。これは単に人をロボットに置き換えた結果ではなく、業務の進め方そのものを再設計したことによる効果です。ロボットの導入がコスト削減に直結するデータを得ることができました。
一方で、現場の運用や雇用への影響など、単純な置き換えでは解決できない課題も明らかになりました。
導入にあたっては、オーナー、管理会社、現場それぞれで懸念が異なります。管理会社は売上減少や現場の反発、現場は業務変化への不安、オーナーは運用の安定性を気にします。
このように利害が複雑に絡むため、単純な費用対効果だけでは導入は進みません。現場を含めた合意形成や段階的な導入が重要になります。
どのような建物に向いていますか?
最も適しているのは病院です。次いで商業施設、都心部のタワーオフィスなどが挙げられます。
これらの施設では複数のロボットが同時に稼働し、複雑な動線設計や待機の制御が重要になります。特にエレベーターを使った階をまたぐ運用では、建物側のシステムとの連携が不可欠です。
一定規模以上で、複数のロボットが連携する環境ほど、ビルOSとの統合の効果が高まります。建物全体をひとつのシステムとして捉えることで、はじめて効率的な運用が実現します。
現在は、こうした大規模施設への導入を見据え、清水建設とともに病院案件などへの共同提案も進めている段階です。
今後の展望と清水建設との協業について教えてください。
現在は導入案件を増やしながら、実運用の中で仕組みを磨いている段階です。今後はロボットとビルOSの連携をさらに進め、運用の標準化を目指していきます。
また、海外展開も視野に入れ、グローバルでの展開も進めていく予定です。
将来的には、建物の価値は「立地」や「面積」に加え、「運用データ」によって評価される時代になると考えています。適切に運用され、データが蓄積された建物ほど価値が高まるという新しい評価軸が生まれていくはずです。
清水建設との協業においては、両社ともにMSIとしての役割を担いながら、それぞれの強みを補完し合う関係にあります。弊社はビルメンテナンス起点でオペレーション設計に強みを持つ一方、清水建設は大規模施設における建物・設備側の制御、たとえばエレベーターや入退室システムとの連携といった領域に強みを持っています。
今後は清水建設が推進する建物OS「DX-Core」と連携し、エレベーターや入退室システムなどと統合することで、ロボットを前提とした建物運用へと進化させていく予定です。遅くとも2027年までには、こうした統合運用の実装を進めていくことを目指しています。
このように、両社の強みを掛け合わせることで、単なる機器導入にとどまらない“運用から変える”スマートビルの実現が可能になります。大規模施設における新たな標準モデルとして、今後の展開が期待されています。
スマートビルは単なる技術導入ではなく、運用そのものを変革する取り組みです。この協業は、その実現に向けた重要な一歩になると考えています。






