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映像AIでビル運営はどう変わる?
EDGEMATRIXと清水建設が進めるスマートビルの実装

人手不足や省人化への対応、建物の省エネ化、防災・セキュリティ強化などを背景に、スマートビルへの注目が高まっています。その中で、映像AIを活用し、建物そのものをより快適かつ効率的に運営しようという取り組みが進み始めています。

こうした中、映像エッジAIプラットフォームを展開する株式会社EDGEMATRIXは、清水建設と連携し、建物OSと映像AIを組み合わせた新たなスマートビルの実装を進めています。

同社の特徴は、単なる「AIカメラ」ではなく、映像から得られる情報を活用して、建物設備や運営そのものを制御・最適化する点にあります。現在は、エレベーターの自動呼び出しや人流解析、防災・セキュリティ用途など、実際のビルでの活用も始まっています。

今回は、EDGEMATRIX代表の太田氏に、事業の背景やエッジAIにこだわる理由、清水建設との協業、そして映像AIが切り拓くスマートビルの未来についてお話を伺いました。

株式会社EDGEMATRIX
代表取締役社長

太田 洋氏

映像AIにフォーカスした背景について教えてください。

私はもともと、Cloudianという会社でオブジェクトストレージ事業に携わっていました。大量のデータを保存するストレージ基盤を提供していたのですが、「今後、AI学習用の映像データが爆発的に増える」と考えたことが、AI事業を始めたきっかけです。

例えば自動運転では、雨の日や夜間など、さまざまな状況の映像データを大量に学習させる必要があります。映像はテキストなどに比べて圧倒的にデータ量が大きく、今後ますます重要になると感じていたのです。

そこで新規事業としてAI分野に取り組み始め、最終的にEDGEMATRIXとしてスピンオフしました。

当初は、広告領域などで実証実験を行っていました。例えば、道路沿いのデジタルサイネージで、高級車が通ったらゴルフ広告を表示する、といったターゲティング広告の実験です。

その中で、カメラ映像から非常に多くの情報が取得できることが見えてきました。人流や行動、混雑状況など、映像から読み取れる情報量は非常に大きく、そこから映像AIにフォーカスしていきました。

エッジAIにこだわる理由とは?

当初は、すべての映像をクラウドへ送ることも考えていました。しかし実際に検証してみると、通信回線の問題が大きかったのです。

映像はデータ量が非常に大きいため、すべてをクラウドに送るのは現実的ではありません。そこで、現場側で映像処理を行う「エッジ分散処理」の考え方にたどり着きました。

また、現場でリアルタイムに判断しなければいけないケースも多くあります。例えば顔認証でゲートを開ける場合、クラウド側で処理を待っていると遅延が発生します。そのため、エッジ側で即時に処理することが重要です。

さらに、クラウド市場はグローバル企業が強い領域です。日本でビジネスを立ち上げて勝機を見出すためには現場思考が重要で、グローバル企業よりも勝機を見出しやすいと考えエッジにフォーカスしました。

現場ごとに異なる環境に対応しながら、高い認識率と信頼性を担保していく。そうした現場思考が、当社のエッジAIのベースになっています。

Edge AI Station EX7(左)、Edge AI Station EX3/EX5(右)

清水建設との出会いと協業の背景について教えてください

きっかけは、私が行った講演でした。映像AIによる交通量解析やターゲティング広告などについて話していたところ、清水建設エンジニアリング事業本部情報ソリューション事業部の林事業部長が熱心に話を聞いてくださって、その後、個別にもお話する機会がありました。その中で「ビルもソフトウェアで定義される時代になる」という話になり、意気投合したのです。

車がソフトウェアによって制御される方向に進んでいるように、ビルもまた、ソフトウェアによって制御・最適化される存在になっていくという考え方です。

清水建設は建物OS「DX-Core」を推進していますが、そこに我々の映像AIを組み合わせることで、建物をより高度に制御できるようになります。

例えば、人がエレベーターへ向かう動きをAIが検知し、事前にエレベーターを呼び出す仕組みも、すでに実際のビルで稼働しています。

映像から得られる情報を活用し、建物の快適性や利便性、セキュリティ、防災性能などを高めていく。それが清水建設との協業の大きな狙いです。

EDGEMATRIXの強みはどこにありますか?

当社の特徴は、単にAIアプリケーションを開発するだけではなく、それを「どう現場へ展開するか」まで含めて設計している点です。

例えば、ソフトウェアの認識率が向上した際には、リモートからアップデートを行えるようにしています。保守のために毎回現場へ行く必要があると、人件費がかさみ、大規模展開の難易度も上がるためです。

また、インフラ領域では24時間365日止まらないことが重要です。高速道路、鉄道、河川、駐車場などの屋外環境では、防水・防塵や高温環境への耐性も求められます。

そのため当社では、ハードウェアからソフトウェア、クラウド連携まで含めたエンドツーエンドのシステムとして提供しています。

さらに、特定メーカーのカメラに依存しない柔軟性も特徴です。お客様の既存設備や建物OS、工場システムなどと連携しながら、最適な形で組み合わせることができます。

単なる「AIカメラ」ではなく、社会インフラとして長期運用できることを重視しています。

現在はどのようなニーズが増えていますか?

現在は、社会インフラに近い領域からの相談が多い状況です。高速道路や河川、駐車場、鉄道といった屋外イ

特に屋外は環境条件が厳しく、夜間のヘッドライトによるハレーションや、温度・湿度変化などによって認識率が変わります。そのため、現場環境に合わせた調整や設置設計が非常に重要になります。

また、お客様は認識率や費用対効果を非常に重視されています。AI導入の相談では、「人が行っていた監視業務を置き換えられないか」というコスト削減ニーズが多く、24時間365日稼働できる点に期待を持たれるケースが多い状況です。

一方で、インフラ系のお客様は慎重な傾向も強く、PoCを数年間継続するケースもあります。段階的に実証実験を重ねながら、最終的に本導入へ進めていく流れが多いですね。

今後、映像AIは建物をどう変えていくのでしょうか?

今後は、単なる監視ではなく、建物運営そのものへ映像AIが入り込むでしょう。例えば、防災やセキュリティでは、不審者や侵入者、転倒、急病人、火災などを早期検知できるようになります。

また、人流データを活用することで、空調や照明を自動制御し、省エネにもつなげられます。会議室やスペース利用状況を可視化し、アセットマネジメントへ活用することも可能です。

さらに今後は、生成AIとの組み合わせも重要になります。従来の識別型AIは、「犬」「猫」といった分類が得意でした。一方で生成AIを使えば、「何か危なそう」「通常と違う」といった曖昧な異常検知にも対応できるようになります。

例えば、不審物や不審行動のように定義が難しいケースでも、生成AIを活用することで、より柔軟な判断が可能になると考えています。

ただし一方で、映像AIにはプライバシーの問題も伴います。海外ではカメラが広範囲に設置されている国もありますが、日本や欧州では慎重な議論が必要です。だからこそ、プライバシーに配慮しながら、必要な価値をどう提供していくかが重要になると考えています。

建物OSと映像AIが組み合わさることで、建物は単なる箱ではなく、状況を理解し、自律的に最適化される存在へ変わっていく。その実装を清水建設との協業によって推進し、建物の省エネ化、防災・セキュリティ強化を実現することで、社会全体のアセットの価値向上を目指していきたいです。