Case 14 Well- beingを実現するまちづくり

SETAGAYA Qs-GARDEN

Well-beingを実現するまちづくり

第一生命が世田谷区烏山に保有する約9haの土地を、地域の方々のQOL向上を目指すまちへとリモデルしました。
敷地内の、森・スポーツ施設・歴史的建造物といったかけがえのない資源を活用して、「多世代の住民が豊かに交流しながら健康的に暮らし続けられるまちづくり」を行いました。

計画地
: 東京都世田谷区
敷地面積
: 89,366.66㎡
段階
:竣工(2023年)
SETAGATA Qs-GARDEN タウンマネジメント SETAGATA Qs-GARDEN コミュニティ Shimz Design

森を守り、人をつなぐ「ふちどり」

敷地内には、第一生命が育んできた森がありました。

ランドスケープをまとめていく上で、
・人と森のポジティブな関係が生まれること
・住民の方や地域とのつながりを生むきっかけとなること
が重要だと考えました。
そのために森と道の境界線である縁(ふち)に着目。
もともとあった豊かな木々を守りながら、多世代が森の中での運動を通して交流するきっかけとなる、「ふちどり」と名付けた屋外ファニチャーを設けました。

ふちどりは、場所のキャラクターに合わせて性格を変えています。 キャラクターとは、「落葉樹の高木に囲まれている」といった環境の要因と、「テニスコートが近くにある」といった用途の要因の組み合わせです。

多様な場所の中で 快適に過ごせる場所を見つける

木々に囲まれた敷地の力を最大限に活かす

木々は風・太陽光を和らげ、そよ風や木漏れ日といった心地よさを生み出す力を持っています。

その木々だけではなく、地形や建物により、どのような屋外環境が創り出されるのか、環境シミュレーションにより把握し、計画に活用しました。

まず、既存の1400本の樹木の樹幹・樹高・樹種を調査し、モデル上に再現しました。

3Dモデル上に1400本の樹木を再現した

3Dモデル上に1400本の樹木を再現した

そして季節・時刻ごとに、風、日射の向きや強さ、温湿度といった気象条件を用い、木々の形状・状態を組み合わせた環境シミュレーションを行いました。例えば、冬(1月)の正午頃に、下図A地点は北側のテニスコートを通った風が抜け、落葉樹の葉が落ち、日が当たります。一方でB地点は蒼梧記念館を囲う木々によって風が弱まり、周囲の高木によって日射が遮られることが分かります。

風環境シミュレーション結果の抜粋

風環境シミュレーション結果の抜粋

日射量シミュレーション結果の抜粋

日射量シミュレーション結果の抜粋

同じ気温でも、風が抜ける場所では寒いと感じたり、日が当たる場所では暑いと感じます。また、同じ屋外環境下でも、座っている状態では快適だと感じる一方で、ランニングなど高強度の運動を行っていると暑いと感じるように、活動量によって快適性は変化します。これらのことを考慮したシミュレーションを行いました。

屋外快適性の指標としてUTCIとOUT- SET*を用いて環境評価を行いました。UTCIとは、都市計画分野での活用を目的として開発された屋外快適性の指標です。OUT- SET*とは、風・光等の環境要因と、活動量や着衣量の人的要因を統合して評価する指標です。屋内の快適性を表現するためのSET*という指標を応用して、平均放射温度(MRT・熱放射を平均化して温度表示したもの。)を用いることで屋外にも適用できるようになりました。

UTCI OUT-SET

UTCIは場所ごとの差があまりなく、キャラクターを把握しづらい結果となりました。また、OUT- SET*は、環境の影響が顕著に現れることに加え、活動量を変化させることができることもあり、屋外快適性の評価指標として採用しました。

7月平均の12時の屋外快適性(UTCI) 木の陰や風が抜ける場所も暑いという結果に。

7月平均の12時の屋外快適性(UTCI)
木の陰や風が抜ける場所も暑いという結果に。

7月平均の12時の屋外快適性(OUT- SET*) 木や道の周辺は快適なことが分かる。

7月平均の12時の屋外快適性(OUT- SET*)
木や道の周辺は快適なことが分かる。

例えば…
「ベンチでくつろぐ」は1metsの活動量となります。1metsの快適性分布は下のようになります。

1metsの快適性分布

「ランニング」や「武道」は9mets程度の活動量となります。9metsの快適性分布は下のようになります。

1metsの快適性分布

以上のように、四季や時間帯、アクティビティによって移り変わる快適性マップを分析すると、場所ごとのキャラクターがみえてきました。

大人にも子どもにも心地良くFITする ふちどりのカタチ

場所ごとの快適性キャラクターに、用途の要素を重ね合わせて、最適なアクティビティを想定しました。

場所のキャラクターに合わせたふちどりのコンセプト

アクティビティにフィットする形

森のふちに点在するふちどりは、人にフィットする形をしています。大人や子ども、車いすの人、自転車の人、木々を見上げる人、寝転ぶ人、アキレス腱を伸ばす人、開脚をする人…あらゆる人にフィットします。

アクティビティにフィットする形

例えば光風亭の北側のシンボルツリーの周りは、樹木の防風効果と木漏れ日のおかげで年間を通して比較的快適な場所です。道に面しては、子どもから大人までが腰掛けたい、道の反対外の光風亭に面しては、寝転びながら木々を見上げたい、そんなふるまいを想定して、心地良くFITするふちどりの形状を作成しました。

雨を流すシミュレーション

このようにしてデザインしたやわらかい曲面の形ですが、屋外に設置する場合、雨水の流れにくさが課題となりました。雨が溜まると、汚れの原因になります。

そこで、雨が溜まりやすい箇所をシミュレーションによって特定して、曲面の勾配を調整することで、日常的にメンテナンスをしなくても雨水で自然ときれいに保つことができる形にブラシュアップしました。

雨を流すシミュレーション

3D曲面を実現する

3Dモデルデータを利用して、工場で原寸大の型板を切り出し、型紙に沿って鉄筋を組みました。かごのように組まれた鉄筋のパーツは数mごとに分割をして現場に搬入。鉄筋の上にさらにメッシュをかぶせて、最後は左官職人さんの手でGRCモルタルを塗り仕上げました。形状の精度を求めるため、また、つるりとした表面を実現するために、3Dプリンターでの施工ではなく職人さんの手によって施工していただくことにしました。

施工の流れ

施工の流れ

ふちどりは同じ形のものは一つもなく、それぞれが個性を持った有機的な形をしています。素材は形状とは対照的に真っ白で、周囲の緑や人々のふるまいを引き立たせています。

実際にできたふちどりでは、腰掛けたり、登ったり、寝転んで木々を見上げたり、思い思いの過ごし方に使われています。日常生活の中で利用し続けられる多彩な居場所となっています。

意匠設計

内藤 純​​

意匠設計

南野 友子​​

コンピュテーショナルデザイン

竹内 萌​​

コンピュテーショナルデザイン​

當摩 桜

コンピュテーショナルデザイン

​山下 麟太郎

本プロジェクトには、多くの方に参加していただきました。多くの関係者の皆様との継続的な議論を通して、このまちへの思いを共有でき、まちのはじまりに携わらせていただきとても光栄でした。これからもQs-GARDENを応援するサポーターとして、このまちで世代を超えてつながりが生まれ、生き生きとしたQs- GARDENが受け継がれていくことを願っています。

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