Case 11

温故創新の森 NOVARE
-“新”金輪継手-

次世代の創新を生む、新たなプラットフォーム─NOVARE─

江東区潮見に誕生した、オープンイノベーション拠点「NOVARE(ノヴァーレ)」。ラテン語で「創作する、新しくする」を意味するこの施設は、清水建設が国内外の知を結集し、新たなイノベーションを創出する場を目指しています。5つの施設が自立・連携し、大自然の中で「森」が生態系(Ecosystem)を形成するように、ものづくりの原点に立ち返ります。

計画地
: 東京都江東区潮見
敷地面積
: 32,233.97㎡
段階
:竣工(2023年)
温故創新の森 NOVARE

伝統的な継手を発展させた、木を感じる新しい空間に

当社は2023年11月に創業220年を迎えました。その長きにわたる歴史の中で培われた知識、技術、人財のDNAを受け継ぎ、新たなイノベーションに繋げることがNOVAREの使命です。

構成する5つの施設の一つが、NOVARE Hub(ノヴァーレハブ)。拠点の中心機能を果たし、施設全体をつなぐ幹となる場所です。常に変化し続けるプログラムに柔軟に対応可能なシステムや環境計画、新技術を導入し、イノベーションを推進させる新たな創造の場を実現します。

人の往来や滞在が多いNOVARE Hubをぬくもりのある空間にするため、3階ホールとオフィス上部は特徴的で大胆な木の梁を設置しました。伝統的な技術を発展させ、現代でしかなしえない建築に進化させたプロジェクトをご紹介します。

伝統技術の原理を応用した 「“新”金輪継手」の誕生

強固な金輪継手かなわつぎてを大規模建築に

木の梁の施工性を考慮するなかで挙がったのが、日本の伝統的な建築手法でもある金輪継手です。木材を固定する手法としてはもっとも強固な技術で、NOVARE中央にたたずむ二代清水喜助の建築作品「旧渋沢邸」で使われていることも理由の一つです。

金輪継手には2種類あり、今回は「あわせ金輪継手」と「回転金輪継手」の両方を使用してデザインを試みました。梁は3部材を合体して構成しており、頂点の部分を継ぐためにそれらを使用しています。

そして、継手部分はコンピュテーショナルデザインを利用し、伝統継手と融合したデザインを創出。伝統技術である金輪継手を大規模建築で使用するため、現代の技術で再構築し、“新”金輪継手を生み出しました。

上図の青い部分が「あわせ金輪継手」、赤い部分が「回転金輪継手」の特徴

コンピュテーショナルデザインで、構造的かつ意匠的に合理的な形状を追求

継手部分はコンピュテーショナルデザインを利用し、伝統継手と融合したデザインを創出しました。建物は桁行が90mあり、木梁の間隔は1mです。梁の頂点の位置がカーブしている特徴的なデザインとなっていますが、これは屋根を梁全体でバランスよく下から押し上げ、屋根の変形を抑えるためです。頂点に付いている継手は角度、位置、形状が全て異なってしまうため、モデルの生成、検証にはGrasshopperを使用しました。これは、二次元図面を作成する手間を大幅に削減するためと、三次元的な検討を合理的に行うためという両方の観点からです。

サインカーブで頂点が移動する複雑な伝統継手の形状を自動生成。
普段二次元で書いている図面を自動的に三次元にすることで、工数が減り、アイデアの幅が広がった

都市部の耐火建築物にも適用できる木質構造

木を活かす「木質ハイブリッド架構」

近年、構造体として需要のある木架構ですが、都市部の耐火建築物という制約のなかでは、どのように使用するかが一つのテーマとなります。その答えの一つとして、今回採用したのは「木質ハイブリッド架構」。鉄骨造の屋根を下から支えるように木梁を組み合わせたもので、耐火建築物にも適用できる木質構造です。木梁を使用することで鉄骨造の鋼材量を最小化することが可能。火災の際に木材が焼失して屋根が変形しても、自重に耐えられる構造となっています。

「鉄」と「木」を生かした構造的な検証

柱間スパンが大きいNOVARE Hubは、架構計画を全て鉄骨とした場合は、その断面サイズを大きくする必要があります。そこで鉄骨の梁の下部に木の梁を架け、上部の鉄骨のサイズを小さくしました。また、木梁の配置にも工夫を加えました。頂点を直線状に配置するとスパンの中央に変形が集中してしまいますが、頂点をうねった曲線状に配置することで、変形箇所の集中を避けることができ、変形量を抑えることを可能にしています。「鉄」と「木」の両方の特徴を生かした、合理的な架構計画です。

まずは鉄骨サイズを小さくするため、木の直線配置を計画。その後、変形量を小さくするために「木うねり配置」を追加

多軸加工ロボットによる 三次元曲面加工

回転金輪継手の多軸加工機によるデジタルファブリケーション

金輪継手の複雑な三次曲面を実現するため、木加工に使用したのがアーム式の多軸加工ロボットです。単一の軸しか持たない従来型とは異なり、三次元のさまざまな加工に対応する最新鋭のロボットであり、複雑かつ複数パターンの形状を多量に加工することが可能になります。今回の“新”金輪継手はこの多軸加工ロボットのメリットを最大限に活用し、さまざまな検討を経て生み出された3Dモデルデータを生かして再現されました。

木加工ロボット1号機。最大加工範囲は、高さ600 mm×奥行900 mm×長さ3000 mmにもなる

ロボットに削られて完成した回転金輪継手。右図のように寸分のくるいもなくピタッと合体

「デジタルデータをもとに創造物を制作する技術」デジタルファブリケーションは、大量生産ではなく、場所や条件に合ったオーダーメイドのものを作ることが可能です。生成AIとも親和性が高く、今後多くのシーンで使われていくと考えられます。

意匠設計

稲葉 秀行​

構造設計​

田中 初太郎​

木を感じる新しい空間を、伝統技術を活かして合理的にデザインする。

NOVARE Hubは居心地のいい空間とすべく、積極的に木材を活用していくことを考え、その中でも構造体として木材を利用する方法として木質ハイブリッド構造を採用しました。

頂部の継手に採用した金輪継手は、サインカーブ状に頂点が動き、形状がバラバラなためGrasshopperを活用しています。複雑形状、かつ、多品種のデザインを実現することが容易になったと実感しました。また、今回は設計で作図した3Dデータをもとに木材の加工まで行っており、設計から製作までの一貫したデジタルファブリケーションを実現しています。

労務削減や労働者不足の中、デザインをシュリンクさせず発展させるデジタルファブリケーションの可能性を感じたプロジェクトでした。

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