歴史的建造物

伝統建築技術を次世代へ 世界遺産 韮山(にらやま)反射炉保存修理工事

歴史的建造物 伝統建築技術を次世代へ 世界遺産 韮山(にらやま)反射炉保存修理工事

歴史的建造物 伝統建築技術を次世代へ 世界遺産 韮山(にらやま)反射炉保存修理工事

約1年かけて進めてきた世界遺産「韮山反射炉」の保存修理工事が、2021年10月に終了。連双式と呼ばれる2基の反射炉の美しいフォルムが全容を現しました。

国内で唯一現存する大砲製造が行われた反射炉

静岡県伊豆の国市に位置する韮山反射炉は、西洋式大型大砲の鋳造工場として1857(安政4)年11月に完成、64(元治元)年まで稼働していました。大砲の製造が実際に行われた反射炉としては、国内で唯一現存しているものです。
1922(大正11)年 史跡指定、2007年 経済産業省により近代化産業遺産に認定、15年 第39回ユネスコ世界遺産委員会において「明治日本の産業革命遺産」の構成資産として世界遺産に登録されました。
石炭などを燃料として発生させた熱や炎を炉内の天井で反射させ一点に集中させることにより、鋳物鉄を溶かすことが可能な千数百度の高熱を実現する仕組みから、“反射炉”と呼ばれました。

32年ぶりの保存修理工事

今回の保存修理工事は、2015年7月の世界遺産登録後としては初めてで、前回の1989年の大規模保存修理工事以来、実に32年ぶりとなります。
この32年の間に、反射炉煙突部のレンガや石材、鋼材の塗装などが目視で確認できるほど劣化したことから、2018年に伊豆の国市が保存修理工事の実施を決定。その後、文化財建造物保存技術協会が基本設計、実施設計を担当して、シミズが昨年8月に工事を受注しました。

工事中の反射炉
工事中の反射炉

気の遠くなる作業

保存修理工事は、まず調査から始まります。どのように補修するか決めるために、1万個以上もあるレンガを確認しなければなりません。まずは、目視ですべてのレンガを一つ一つ確認。その後、傷んでいるものについては劣化具合の測定を行います。報告用に写真撮影も行うため、一つのレンガを複数回見なければならないのです。

保存修理工事を担当した静岡営業所の樋口尚志は「最初は慣れなくて、1時間に100個くらいしか進みませんでした。本当に終わるのかと、気が遠くなりました。でも徐々に早くなるんですね。最後は、レンガの表情と言ったらおかしいですが、見ただけである程度判断できるようになりました」と語ります。

詳細な調査の結果、表出しているレンガの数は1万4,457個、そのうち補修が必要なものは1,298個であることが判明。「中段の煙突と煙突の間は35㎝くらいしかないんです。狭いし、見にくいし、体は動かせないしで、調査に通常の3倍くらい時間がかかりました。本当にきつかったです」。

名古屋支店静岡営業所 樋口尚志
名古屋支店静岡営業所 樋口尚志

調査終了後、比較的劣化が少ない部位850カ所についてはモルタルとしっくいで表面を補修。劣化が進んでいる部位240カ所については補修レンガを表面に貼り付け固定。著しく劣化している部位208カ所については、全部、あるいは一部を新しいレンガに置き換えました。

補修後のレンガ表面
補修後のレンガ表面
劣化したレンガ表面
劣化したレンガ表面
煙突出口。足場がなければ撮影できない貴重な写真
煙突出口。足場がなければ撮影できない貴重な写真
調査に苦労した煙突の間。幅は35cmしかない
調査に苦労した煙突の間。幅は35cmしかない

文化遺産の保存修理に寄与

樋口は、足場を組んだ当初に現場に来場した、社内で伝統技術継承者として認定されているベテラン工事長から掛けてもらった言葉が忘れられないと言います。
「この手の工事は経験者が社内にごくわずかで、一人になりがちだ。どこに相談すればよいか分からず、どうやって工事を進めるか悩むことも多いだろう。でも、君を一人にはさせないから」。
令和の大嘗宮造営や出雲大社の保存修理を担当してきた、プロ中のプロからのこの言葉。樋口は、「何かあったら、この工事長に声を掛ければ何とかしてくれる、と気が楽になりました。この言葉があったからこそ、ここまでこぎ着けることができました」と振り返ります。
1年の時を経てリフレッシュされ、姿を現した韮山反射炉。シミズは引き続き、原点とも言うべき伝統建築技術を次世代に着実に継承していくとともに、培ってきたノウハウを生かし、文化遺産の保存修理に寄与していきます。

文化遺産の保存修理に寄与

記載している情報は、2021年12月22日現在のものです。
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