歴史的建造物

八百万(やおよろず)の神々が集まる地で行う駅舎の保存修理

重要文化財 旧大社駅本屋(ほんや)保存修理工事
社寺建築 八百万の神々が集まる地で行う駅舎の保存修理 重要文化財 旧大社駅本屋保存修理工事

歴史的建造物 八百万(やおよろず)の神々が集まる地で行う駅舎の保存修理 重要文化財 旧大社駅本屋(ほんや)保存修理工事

出雲大社で有名な島根県出雲市で、日本国内に三棟しかない国の重要文化財である旧駅舎の保存修理を行っています。

出雲大社参詣の玄関口

旧暦10月には八百万の神々が集まり、縁結びのご利益で有名な出雲大社。多くの観光客が訪れる当地で、現在、国の重要文化財である旧大社駅舎の保存修理を行っています。
山陰本線の出雲地方への延伸に伴い、1912(明治45)年、支線として、出雲今市駅(現在の出雲市駅)と大社駅間を結ぶ大社線が開通し、大社駅も運用を開始しました。大正期に入ると、山陰本線のさらなる延伸などにより、乗降客が大幅に増加。初代の駅舎に替わる二代目として1924(大正13)年に新たに建設されたのが、今回、保存修理を行っている旧大社駅本屋です。
出雲大社参詣の玄関口として、山陰本線の支線の中でも有数の乗客数の多さを誇っていた大社線ですが、参詣手段の多様化などにより利用客が減少。1990(平成2)年3月に廃線となり、大社駅も駅舎としての使命を終えました。
1995(平成7)年、大社町(現在の出雲市)が駅舎を含めた駅跡地を購入し、一般公開を開始。1997(平成9)年には、駅跡地全体が県の指定文化財となりました。2004(平成16)年、廃線後もほぼ建築当初の姿のまま良好に保存され、かつ鉄道隆盛期の地方駅舎の姿をよくとどめている数少ない遺構であるとして、国の重要文化財に指定されました。ちなみに、現在、国の重要文化財の指定を受けた駅舎は、旧大社駅本屋のほか、東京駅丸の内本屋、門司港駅(旧門司駅)本屋の三棟しかありません。
旧大社駅本屋は、前回の屋根のふき替え修理から約40年が経過し、屋根などの破損が顕著になってきたことから、今回、保存修理を行うこととなり、併せて、耐震対策を講じることになりました。

トラス構造の屋根組み

洋小屋の屋根組み
洋小屋の屋根組み

本建物の特徴は、木造の屋根を支える骨組みが日本伝統の束(つか)と梁で支える和小屋ではなく、三角形のトラス構造(キングポストトラス)を用いた洋小屋であることです。この方式を採用することで、小さな断面寸法で梁の長スパン化が可能となり、約10m×20mの大空間の待合室を実現しています。

トラス構造の形状の一つ。山形のトラスに垂直の束材が入ったもの

東京支店社寺建築・住宅部 中村国充(左)と広島支店松江営業所 中野剛
東京支店社寺建築・住宅部 中村国充(左)と広島支店松江営業所 中野剛

原理原則を学ぶ

今回工事を担当しているのは、工事長の中村国充と中野剛です。中村は現在、東京支店社寺建築・住宅部の所属ですが、以前は、広島支店に在籍していました。出雲大社や数寄屋造建物の保存修理のほか、神社仏閣や文化財を手掛けてきた経験を持つベテランです。一方、中野は、これまで、病院や事務所ビルなど、主に新築工事に携わってきました。偶然にも、二人は同窓の先輩、後輩の関係で、以前にも、同じ現場で働いたことがあったのです。
文化財の保存修理を行う際は、現寸の図面を作成して、都度、納まりなどを検討しながら進めます。中村は、初めて文化財の保存修理に携わる中野に、現寸図の下絵を描くように指示しました。中野は、「現地で解体しながら、すべての部材の寸法を測り、それを基に作図していきます。新築工事ではまずやらないことなので相当苦労しましたが、この手の工事の原理原則が理解できました」と語ります。中村の意図通り、中野は文化財特有の工事のやり方にも慣れ、現在は、問題なく工事を進めています。

ベニヤ板に描かれた現寸図
ベニヤ板に描かれた現寸図
取り外された瓦は室内で整然と保管されている
取り外された瓦は室内で整然と保管されている

地元からも注目

中野は、「入社以来、主に建物の新築工事を担当し、工事に関する一通りのことは経験してきたし、自分でできると思っていました。でも今回は、未経験のことばかりです。次々と新しい経験ができることにとてもワクワクしています。ここで得られた知見を生かし、また文化財を扱ってみたいですね」と語ります。
現在まで、3回の現場見学会が開催されており、また、地元紙に工事に関する記事が掲載されるなど地元住民からも注目を集めています。竣工は2025(令和7)年12月。今後も当社は文化財の保存修理に貢献していきます。

素屋根内部
素屋根内部

工事概要

所在地
島根県出雲市大社町北荒木441-3
発注者
出雲市
設計・監理
公益財団法人文化財建造物保存技術協会
工期
2020.12~2025.12
構造・規模

木造1F

建築面積 441m2

延床面積 391m2

記載している情報は、2024年1月31日現在のものです。
ご覧になった時点で内容が変更になっている可能性がございますので、あらかじめご了承ください。

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