人と技術のいい関係2022.03.22

現場の未来は
もうすぐそこに。

生産技術本部
ロボット・ICT開発センター 主査

眞田 拓郎

生産技術本部
生産計画技術部 機械計画グループ

髙橋 康浩

Profile

人手不足の解消に向けて

建設現場では建設ロボットの導入が進みつつある。その背景には、現場の技能労働者の人手不足が挙げられる。高齢化による職人の建設業離れが進み、少子高齢化とも相まって、今も人材確保が困難な状況が続いている。こうした時代背景の中で、シミズは2018年に技術研究所内にロボット実験棟を整備し、最先端技術を搭載したロボットの自律制御に向けた実証を進めてきた。その成果の数々を虎ノ門・麻布台プロジェクトに投入する。鉄骨柱の溶接ロボット「Robo-Welder」、資材の水平搬送ロボット「Robo-Carrier」、そして現在ソニーグループ株式会社と共同実証実験を進めている巡回・監視ロボットなどだ。
溶接ロボットの開発を担当した生産技術本部の眞田は「溶接工事を計画通りに進めるのは難しい」と語る。溶接痕の盛り上がりのことを溶接ビードと呼ぶが、時々の条件によってビードの幅や高さ、形状は変わってくる。現場の状況に合わせて真っ直ぐにビードを引き、計画された厚みに仕上げるには高度な技術が必要で、溶接工は全国でも人数が限られる。しかも今回のA街区タワーにおける鉄骨柱の溶接はより一層難しいものだった。「日本最大級の超高層ビルを支える鉄骨柱は、最大板厚100mmと非常に厚く、何十層とビードを重ねなければならない」。非常に難しい作業だが、疲れを知らないロボットは繰返し作業を得意とする。この多層盛りの溶接作業をロボットで実現するために、溶接箇所の形状を正確に計測する技術が必要だった。

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メーカーと共同で開発

そこで眞田は、溶接箇所の断面形状を正確に計測できるレーザーセンサの技術開発に数年前から取り組んできた。「レーザーセンサでビード形状を毎パススキャンしながら適切な溶接経路を生成し、電圧・電流・速度を変えて最適なビード形状になるように溶接していきたい。その際にセンサデータから溶接経路を生成するソフトウェアが必要でした」。これまでにない取り組みで、専用のソフトウェアは存在しない。眞田は様々な展示会に顔を出し、ようやくあるメーカーに辿り着いた。レーザーセンサを使って自動車部品などの不良品検査をするソフトウェアメーカーに、多層盛りの溶接作業に応用できないかと話を持ちかけたのだ。「金属の表面で光が乱反射し形状を正しく認識できないことが、溶接ロボットにレーザーセンサを採用する上での一番の課題でした。ソフトウェア、ハードウェア両面からノイズを除去し、正確に溶接経路を生成できるように何回もバージョンアップを重ねていきました」と眞田は開発の経緯を振り返った。
一方、水平搬送ロボットの開発において、今回取り組んだテーマは搬送効率の向上だ。「他の現場でも搬送ロボットを導入してきました。省人化についてはある程度達成できたと思いますが、自動搬送は人が運転するフォークリフトに比べて作業時間が掛かるので、これだけの大規模な現場においてはさらなる効率化が課題だった」と生産技術本部の髙橋。そこで今回試みたのが2台同時搬送だった。一度に搬送できる量を倍にすることで搬送効率を向上させる。ロボットはクラウドと繋がっていて、クラウドが位置関係を把握して適切なルートを指示することによって2台同時搬送を実現する。しかしロボットがお互いに接近すると、非接触型の障害物センサによって感知され一時停止し、搬送効率がなかなか上がらなかった。「センサが反応しない距離感を安全上問題がない距離に設定するため、ロボットの実機の動きを見ながらセンサの調整を重ねました」と髙橋も開発の経緯を振り返る。

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現場の理解が成功の鍵

建設ロボットは、現場に受け入れられるか否かが成否の鍵を握る。「導入当初は職人さんも冷ややかな目で見ていました」と眞田。しかし、溶接ロボットの施工が少しずつ進んでいくと、見る目が変わっていったという。眞田は何度も現場に顔を出すうちに職人と仲良くなり、苦労しているとアドバイスをくれるようになった。「溶接においては特に、その時々の状況に臨機応変に対応する技術が必要です。そんな職人の技をできるだけ機械に取り入れていくことが、施工品質の向上につながります」。搬送ロボットについては、昼間に自動搬送の時間帯を設けるので、作業調整が必要になる。「作業調整には現場の理解が不可欠です。コミュニケーションを取りながら、効率的な自動搬送を実現したい」と髙橋。
「ロボットは現場作業の環境改善につながる」と二人は口を揃える。例えば、溶接ロボットが普及すれば、溶接工は真夏の炎天下に全身ツナギを着て、何百度という火の前に立たなくて済むようになる。搬送ロボットが資材を所定の位置に搬送すれば、作業員が荷物の搬送作業から解放される。溶接やフォークリフトの免許のない人でもタブレット端末一つで作業を進めることができるようになり、多様な人材を現場に登用できる。建設ロボットの開発は、建設業界の未来を担っている。

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業界を変えるチカラ

溶接ロボット、搬送ロボット以外にも、床材を施工する多機能ロボットや、耐火被膜の吹き付けロボット、さらには現場を監視する巡回ロボットなどが導入される予定だ。巡回ロボットは、ソニー R&Dセンターが開発中の移動ロボットで、工事の出来高管理や安全管理をロボットで代行できるか検証する。「建設業界は労務集約産業であり、ロボットが活躍できる余地はまだまだ残されています。難しいけれど、チャレンジのしがいあります」と髙橋。髙橋は大学で電気工学を専攻しシミズに新卒入社した畑違いの人材であり、眞田は製造業からの転職組。「半導体製造装置や自動車製造ラインに導入するロボットシステムの装置設計をしてきました。そんな経験を建設現場で活かしていきたい」と眞田。異業種のノウハウや専門家が建設現場を変え始めている。

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