人と技術のいい関係2022.04.21

技術が受け継がれた
330m。

左)
虎ノ門・麻布台プロジェクト
A街区 工事長

正岡 尚也

右)
虎ノ門・麻布台プロジェクト
A街区

佐藤 礼樹

超高層ビルの骨組みをつくる鉄骨建方。途轍もない重さの鉄骨をクレーンで吊り上げるダイナミックな作業のため、緻密な計算と綿密な計画が要求される。中でも今回は東京タワーと並ぶ約330mのタワービル。シミズとして未知の領域でどのようなチャレンジを行ったのか、A街区建設所工事長の正岡と佐藤に聞いた。

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―今回のプロジェクトがこれまでの現場と大きく異なる点を教えてください。

正岡:これまで4つの超高層ビルで鉄骨建方を担当してきましたが、クレーンの揚程が200mを超えた経験はなく、時間的なロス、天候による影響がどのぐらい発生するのかについて、これまでの経験値を総動員する必要がありました。また物量的にこれだけの高さになると柱も太くなり、鉄骨の板厚は最大100mmで、溶接の長さは1フロアで7万mを超え、必要な溶接工は1日最大100人、鉄骨取付数量は1日平均250t。その圧倒的な物量がこれまでの現場との大きな違いです。

佐藤:本当にすごい物量ですよね。私は今回が初めての鉄骨工事担当になり、建方の2か月前から計画に参加しましたが、最初の頃は何を計画すれば良いのか、職長と何を打ち合わせすれば良いのか分からないような状態でした。鉄骨重量は最も重い柱で32tもあり、タワークレーンの揚重性能や吊り治具の検討も、これまでの案件とはスケールが違いました。

―鉄骨建方の計画において特に考慮されたことは何でしたか?

佐藤:1フロアを4等分に区割りし、対角の工区で同時に鉄骨建方を進める計画とすることで、鉄骨の重量により一方に傾いたりねじれたりしないよう工夫しました。これは、正岡工事長の長年の経験に基づくアドバイスによるものです。6機あるタワークレーンのうち2機を1工区の建方に使用しますが、1Fのヤードで鉄骨の荷下ろしに使用するクローラークレーンを効率良く連動させながら、いかにタワークレーンを止めずに作業できるかが重要です。搬入車両が減ってくる夕方に、翌日の鉄骨を搬入し、朝イチから吊り上げられるようにしておくことで、時間のロスを減らしました。

正岡:タワークレーンもそうですが、工程に大きく影響するのは、実は下回りの作業。大量の鉄骨を運搬する車両の入場順と時間配分、他工事の搬入車両動線との区分けなど、綿密な計画が必要になります。現場内は普通の道路よりも混んでいるので、分単位で計画しておかないと搬入できなくなります。

佐藤:建入れ精度(柱の垂直度)をミリ単位で保つため、柱が溶接に引っ張られることを考慮して、事前に柱を倒す方向と、何mm倒すかを計画しました。鉄骨は自重でも変化していくので、建方が進むにつれて蓄積されたデータや傾向を考察し、鉄骨業者とも密に連携しながら、少しずつ改良していきました。

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―最も難しかったのはどのような部分ですか?

正岡:やはり200mを超える揚程なので、強風による工事中止でどのぐらいの時間的ロスが発生するのか、見極めるのは難しいポイントでした。天候に左右される一方で、鉄骨は地方や海外でも製造しているので、1週間前に出荷を止めないと運搬や保管に莫大なコストが掛かってしまいます。

佐藤:1日最大100人の溶接工が必要でしたが、今日明日でその人数を集めることは不可能です。しかも今回は通常よりも高強度かつ狭開先の鉄骨を採用していて、より熟練した溶接技能が求められます。溶接工をどのように確保するかが大きな課題でした。

正岡:超高層の鉄骨建方はサイクル工程なので、各工区の数量、労務の平準化を常に意識しながら、施工手順やルール、基準を決めてそれを徹底することが重要です。中でも53階の構造切替階は関係者の共有を徹底しました。

佐藤:そうですね。53階から54階の構造切り替え階では、オフィス階と住宅階の柱の位置が大きく異なるため、ほぼ全てのスパンにブレースが付き、柱の本数も増えます。その施工方法の検討や、精度の管理方法については、綿密な打ち合わせが必要でした。

―その難題をどのように乗り越えましたか?

正岡:強風対策については建物の西側から吊り始め、途中は南側に振り、建物で風を受けながら吊り上げるようにしています。52階のオフィス階までは1フロア4日サイクルで進行し、54階以上の住宅階はロス分を含めて5日サイクルに、春先は強風を想定し、6日で進行しました。

佐藤:溶接技能者については、清水建設独自の溶接資格を保有している技能者にのみ、高強度かつ狭開先の溶接作業に当てるようにしました。この資格は、通常の溶接技能以上の技能が求められるため、1年前から本社技術部と打ち合わせを行いながら当現場主催の試験を実施し、資格保有者を増やしていきました。また、この資格は清水建設のどの現場でも技能を証明できる資格のため、他現場主催の試験に合格した溶接技能者も集められるように協力業者と調整を重ね、結果として、資格保有者を多く確保することができました。また、今回取り組んだ新たな試みの一つに「ロボット溶接」があります。ロボットの溶接により安定した品質と施工スピードを維持することができ、溶接工不足を補うことができました。一部、特殊な鉄骨形状の溶接では課題が残っていますが、大きな成果を上げたと思います。

正岡:円滑な工事を実現するために、建方開始の2か月前に関係者を集めて、建方の手順、配置、工程、車両台数などの資料を配布。関係者一人ひとりが作業内容について徐々に理解を深めていきました。また安全に作業を進めるため、各工事の注意事項を都度周知し、無理をしない意識を浸透させました。

佐藤:構造切替階は柱を吊りながら梁を取り付けていくタワークレーン2台吊りや、油圧ジャッキによる仮設柱で鉄骨のレベルを調整するなど、多様な方法で施工を行いました。こうした複雑な施工方法を説明するのにBIMが役立ちました。3次元の視点で、分かりやすく関係者と共有することができました。

正岡:建設現場は大体100mを超えると電話がつながらなくなりますが、今回は建物内に設置された電波ターミナルのおかげで、情報伝達もスムーズに行えました。コミュニケーションツールは高層階の鉄骨建方管理には必要不可欠だと感じました。

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―今回のプロジェクト経験は、今後どのように役立っていくと思いますか?

正岡:今回の経験は、超高層ビルや溶接数量が多い建物で活かせるのではないかと思います。長年積み重ねてきたものづくりの精神と、ロボットをはじめとするデジタル技術が融合し、新しい可能性が見出せたと感じています。

佐藤:今後鉄骨工事に携わる際に役立つと思いますし、正岡工事長から出された課題を1つひとつクリアしていく中で、シミズの技術者として欠かせない基本的な知識や技術、仕事への向き合い方やモノの考え方など、多くを学ぶことができたと思います。これは私の財産となりました。

東京タワーに肩を並べた超高層ビル。330mはただの数字ではなく、積み重ねてきた知識や技術を若手に継承し、新たなデジタル技術も試した、未来を切り拓く330mだ。人と技術のいい関係が、建設の明るい未来を築いていく。

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現場から見たプロジェクト

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一般的な超高層では考えられないほど、大きくて重い構造切替階の鉄骨の施工方法、また、その中にあるゴンドラ鉄骨が施工的に最も計画が大変でした。建方の範囲、取付の順番などを入念に打ち合わせし、鉄骨の先行搬入や搬入順、荷姿まで前もって指定し、その内容を職人の全員に把握させることを心掛けました。

金子架設工業(株)
職長 坂田竜也さん

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大型鉄骨柱は溶接工2人が対面で溶接し、仕上げに2~4日かかりますが、ロボット溶接での対面溶接は非常に効率が良く、人員削減につながっています。改善点は多数ありますが生産性や品質の面でも期待が持てます。今後は、ロボットと人を適切に組み合わせて溶接していくことが必要だと思います。

日本ファブテック(株)
鉄構事業本部 鉄構工事部 工事課
原田芳一さん

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Profile

正岡 尚也

虎ノ門・麻布台プロジェクト A街区

工事長

入社年:1995年

主な業務:施工計画・施工管理

Profile

佐藤 礼樹

虎ノ門・麻布台プロジェクト A街区

入社年:2016年

主な業務:施工計画・施工管理