人と技術のいい関係2021.07.29

次世代のために今、
新しい挑戦

虎ノ門・麻布台プロジェクトA街区建設所長

井上 愼介

Profile

人と技術の
ベストミックスに挑む

東京タワーにほど近い虎ノ門・麻布台地区に、東京タワーとほぼ同じ高さとなる約330mの超高層ビルをはじめとするビル群を建設するという日本最大級の建設工事「虎ノ門・麻布台地区第一種市街地再開発事業(以下、虎ノ門・麻布台プロジェクト)」。建築4工区、土木1工区の計5工区に分かれており、うち清水建設はA街区とB-2街区、土木工区の3工区を担当している。A街区の建設所長としてこのビッグプロジェクトに挑んでいるのが井上愼介だ。誰も経験したことがない、かつてない規模の超高層ビルをつくる。人も技術も、まさにシミズの総合力を動員しなければならない。そのためにはチームが1つになり、同じ方向に向かって力を注ぐための目標が不可欠だった。
「社内の各部門から専門家を集め、シミズとしてどのようにこのプロジェクトに取り組むべきか検討。建設業や建設工事を取り巻く環境が刻々と変わる中、十数年先を見据え、今こそリアルな施工技術と最先端のデジタル技術の融合に本格的に取り組むべきだ、という決意を固めました」と井上は振り返る。
人とデジタル技術のベストミックスに挑む“デジタル施工”。言うは易しだが挑戦の連続だ。

日本一のデジタル技術を投入

今回取り組んだデジタル施工には3つの柱がある。1つめが“ロボットワーク”だ。すでに現場では、溶接ロボット「Robo-Welder」と自動搬送ロボット「Robo-Carrier」がその能力を如何なく発揮している。今後、床施工ロボット「Robo-Buddy」がOAフロアを施工し、4本足の巡回ロボットが現場を歩き回る姿も見られることになる。
「業界全体でも熟練工が数少なくなる中、この膨大な作業量を、いかに品質を確保しながら工程通りに進めていくかが課題。そこでロボットの力を借りて人間との協働を進め、作業効率と施工品質の両立を図っています」。
2つめが“マネジメント”だ。井上が常駐する現場事務所「Smart Control Center」にはたくさんのモニターが設置されており、現場のあらゆる点に設置されたカメラ映像やデータを常時モニタリングしている。マネジメントのデジタル化には余念がなく、入退場や健康状態などの作業員管理から、車両の入退場管理、地下水位や山留等の現場の安全管理、品質や出来高等の施工管理、各所に設置した監視カメラから送信されてくる映像データの分析などをデジタル技術で効率化している。
「今も1,000名を超える作業員が働いていますが、最大で5,000名が現場に入ります。これまでは人が確認しながら作業を進めてきましたが、これだけ大きな現場になると難しい。映像やデータであらゆる点をモニタリングしながら、作業安全と進捗状況を管理しています」。
そして3つめが“ファブリケーション”。設計者が作成した2次元、3次元の設計データをBIMデータに展開して、見積から発注、施工に至る各種業務を効率化している。例えば、鉄骨の見積・発注、複雑な形状をした部位の収まりや施工方法の検討、デジタル承認、3次元曲面部材の3Dプリンティングなど、様々な業務にBIMデータを展開している。
「日本一とも言える場に、日本一のデジタル技術を注ぎ込み、ここでできたことと改善すべき点を次の現場にも活かしていきたい」と展望を語る。

溶接ロボット Robo-Welder

顔認証の入場システム

Smart Control Centerでモニタをチェックする井上所長

未来への試金石

「人がやってきたことをロボットに置き換えて、急にすべてがうまく進むわけではない。正直、人の手や知恵でやるほうが簡単なこともある。ただ、ここで歩みを止めてしまえば、さらなる成長はない」。まさにその通りだ。チャレンジすることが未来につながることを現場のみんなに理解してもらう。「その背中を押して実践させるのが私の役目」と井上。
デジタル化が進み、現場環境はどんどん様変わりしていく。50年後の建設現場では、ロボットと人が協働しているのが当たり前になっているかもしれない。一方で変えてはならないものもある。良いものをつくってお客さまにお引き渡しするという熱い気持ち。これだけは大事にしていかなければならない。
「これだけ大きな規模の建設プロジェクトを竣工した時の感動は二度と味わえない。いろんな想いや出来事を大切に、次の世代へとバトンをつないでいって欲しい」。200年を超えるシミズの歴史が300年400年と続いていくためには、人の成長が欠かせないのだ。
人とデジタルが補完しあう未来の建設現場の礎となるために。井上は必ずやこのプロジェクトを成功へと導くであろう。

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