虎麻プロジェクトにビジネスを学ぶ 2021.07.29

広大な現場を結ぶ

通信基地は、

いかにして生まれたか。

Smart Station

01 開発の契機

点検作業の省力化を目的とした
分電盤のIoT化

建設業界では、情報化が加速している。現場では、職人がスマートフォンやタブレットを持ち歩き、セキュリティに配慮されたアプリで図面や工程などを確認しながら作業を行うことが当たり前の光景になりつつある。図面を小脇に挟んだ監督が現場を走り回る姿はいまはない。みなさんが想像している監督の姿は、ひと昔前の姿かもしれない。図面は雨に濡れボロボロになるが、デジタル化された図面は持ち運び不要。常に手元で最新情報を確認できる。しかし虎ノ門・麻布台プロジェクト建設工事では、そんな文明の利器を使用できない可能性があった。なぜなら、A街区の多目的棟は高さが300mを超える規格外の超高層ビルであり、一定階以上は電波が届かないからだ。
ところで、毎日作業前に若手監督が行う仕事があるのをご存知だろうか?分電盤を点検し、漏電や過電流が発生していないかをチェックする。それが若手監督の仕事の一つだ。点検を怠ると大きな事故や遅延につながる可能性があるのだから、大切な仕事。しかし、確認には労力がかかる上、人為的ミスも発生する可能性がある。開発者の村松は、この分電盤をIoT化して電力量を遠隔で監視するシステムを開発し、人を介さずにチェックできるようにしたいと考えていた。村松自身、新人の頃に分電盤の点検を担当していた。
実はこのIoT化された分電盤が、通信基地として大きな役割を果たしていくことになる。ではどのように進化していったのか、具体的なプロセスを見ていきたい。

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02 ブレークスルー

情報収集・共有のための通信基地になる
というひらめき

分電盤のIoT化を進める中で村松は「各フロアに張り巡らされた分電盤から、供給電力を使って電波を飛ばせば、現場を悩ませていた通信の問題を解決する可能性があると感じました」と語る。
これがブレークスルーとなり、広大な現場の情報共有が一気に進むことになる。開発したスマート分電盤を場内に配置することで、切れ目のないネットワーク網を実現。これにより、さまざまなデジタルデバイスの使用やロボットの活用が可能になり、シミズの新たな挑戦である“デジタル施工”が大きく前進した。さらに5階に1台ずつ基地局として設置されたスマート分電盤は「スマートステーション」と名前を変え、モニター、スピーカー、360度カメラなど情報共有のためのさまざまな機能が付加され、コミュニケーションデバイスへと進化していったのである。余談だが、分電盤を覆う箱にも新たな息吹を感じるデザインが施されている。

03 何が変わったか

長距離の移動が不要になり、
正確な情報共有を実現

現在、スマートステーションは、毎日の作業指示書の閲覧や、タワークレーン・エレベーターの搬出入状況の確認、分散朝礼のガイド、Web会議などに利用されている。職人が図面を閲覧したい場合は、スマートステーションでWeb会議を行い、担当の現場監督が画面共有で図面を表示する。それにより、情報のセキュリティが確保されるとともに、互いの持ち場を離れることが少なくなるため、仕事のロスが少なくなる。
「照明の遠隔操作もできるので、1箇所だけ消し忘れてもう一度往復しなければならないという面倒もなくなりました」と鉄骨管理を担当する平野も語る。
今後は熱中症予防や墜落災害防止などのテーマを毎週決めて、スマートステーションのデジタルサイネージ機能によりコンテンツを配信することで、安全意識の向上にも貢献していく。さらに、360度カメラによって事務所にいながらにして現場の状況がリアルタイムに把握できることも、現場管理の効率化に大きく寄与している。またスマートステーションは、Web会議の機能も備えており、必要な時に必要な関係者と打ち合わせができる。
開発に携わった小竹によると「密をさけるために、全員が集まって朝礼を行うことはまず不可能です。そこで分割朝礼を行っていますが、スマートステーションのWeb会議機能を使っています。朝礼は作業内容だけではなく、危険箇所など注意事項を伝えることも大事。グループに分かれて朝礼を行うほうがより作業員への理解浸透も早い」。

04 推進のポイント

強い想いとアイデアを広げる
人がいること

「どれだけデジタルやIoTが進化しても、最終的には人と人との信頼関係。現場では若手社員が職人と話す機会が多いですが、『○○さんのためなら頑張ろう』という関係性を築くことが大事。その円滑なコミュニケーションを補完するのがデジタルの役割なんだと思います」と小竹。みなさんも誰かのために仕事の枠を超えて対応した経験があるのではないだろうか。
スマートステーションやスマート分電盤の開発は、建設現場の働き方を変えたいという理想を持った1社員の想いから始まった。この大規模建設現場だからこそ、従来とは違う作業効率や安全を考え、それを実現しなくてはいけない。手を挙げてその想いを上司に伝えた村松がいたからこそ、スタートした開発だ。そこに立場の異なるさまざまな人間のアイデアが付加され、広大な現場をつなぐ通信基地を実現することができた。どんなプロジェクトや課題解決においても、一人の強い想いと、アイデアを広げる人がいれば、イノベーションは起こせることを私たちに教えてくれる。

Profile

平野秀明

東京支店 虎ノ門・麻布台プロジェクトA街区建設所

工事長

入社年:2000年

主な業務:施工計画・施工管理

Profile

小竹知哉

東京支店 虎ノ門・麻布台プロジェクトA街区建設所

入社年:2013年

主な業務:施工計画・施工管理

Profile

村松慶紀

建築総本部 生産技術本部 ロボット・ICT開発センター 情報化施工グループ

入社年:2016年

主な業務:技術開発、現場支援