虎麻プロジェクトにビジネスを学ぶ 2022.05.16

人と人との化学反応がDXの鍵。

DXの鍵。

揚重モニタリングシステム

01 プロジェクト課題

計画と実績の差を見える化したい

日本企業がこぞって取り組むDX。建設現場においても生産性向上や働き方改革を実現するために、さまざまな取り組みが進められている。この虎ノ門・麻布台プロジェクトにおいても様々なデジタル技術を導入しており、その1つが、揚重モニタリングシステムだ。揚重とは資機材をクレーンやエレベーターなどで垂直方向に搬送する作業を指す。超高層ビルの施工では、クレーンによる資機材の揚重時間の管理や、エレベータによる作業員の効率的な搬送は、工期に関わる重要な管理ポイントだ。だからこそ、揚重の実態を見える化することには価値があり、シミズは10年前から揚重モニタリングシステムを改良し続けてきた。
「300mを超える超高層ビルの施工は、日本国内では未知の領域。当初の計画と実績の差を把握することは、重要な管理項目でした。加えてこれだけのビッグプロジェクトになると、アナログでの管理には限界があります。そこで今回の現場には新たなモニタリングシステムを導入することになりました」と生産技術本部 主査の中村。

topicks記事画像1 topicks記事画像1
topicks記事画像2 topicks記事画像2

02 ブレークスルー

現場との打ち合わせの中から光を見つける

タワークレーン2社とエレベーター3社の稼働データを揚重モニタリングシステムで収集することから開発をスタート。中村がサポートしながら、生産技術本部の若手技術者である林が中心となり進めてきた。林はまずクレーンとエレベーターからどんなデータが取れるのかを検討し、位置情報、揚重資材情報、風速情報、作業員人数等のデータを収集するIoT機器を開発。しかしデータ収集装置を設置後も、想定通りにデータが取れないという問題に直面し、その都度クレーンに登ってシステム調整をした。「マストの高さは約50m。1日に4回登った際にはヘトヘトになりました。でも、クレーンからの見晴らしは絶景で、いつもワクワクしながら登っていました」と笑顔を見せる。こうして苦労のうえ収集したビッグデータをどのように活用するのか。その先にもっと大きな頂が待っていた。
「膨大なデータをさまざまな角度から分析できるのは素晴らしい。でも今欲しいのは、現場で何が起きているのか一目で分かる仕掛けだ」。A街区の所長 井上の言葉が、林たちを大いに悩ませた。現場に何度も足を運び、打ち合わせを重ねる。その中で6台のクレーンの稼働データを並べて見せたところ、「揚重作業のイメージがわく、この機能を拡張できないか?」というヒントをもらい、光が見え始める。これがきっかけとなり、揚重モニタリングシステムの開発は大きく動き始める。

topicks記事画像3 topicks記事画像3
topicks記事画像4 topicks記事画像4

03 仕事の流儀

成熟したシステムと若い感性が融合

「現場の動きを一目で分かるようにするには?」「もっと現場が使いやすい見せ方は?」。2人は井上や現業メンバー、計画メンバーにヒアリングを続け、次世代モニタリングシステムは、少しずつ形になっていった。デザインにもこだわった。「私が好きなアメコミの世界観を参考にパワーポイントで未来を感じるような動きをつくり、業者に説明しました」と林。ゲームエンジンを活用し、従来は難しかった多くの情報を瞬時に演算し、先進的なビジュアライゼーションを実現。6台のタワークレーンの動きを忠実に再現した。表示内容も現場から得たアドバイスを取捨選択し、メリハリのある画面に。
従来の揚重モニタリングシステムは、中村と各現場の工事長が10年をかけてノウハウを蓄積してきた成熟したシステムだった。ここに林のデジタルに関する最新の知見や若い感性が融合した。「現場と機械の両方について熟知している中村主査から、システム構築のすべての段階で的確なアドバイスをいただきました」と林が言えば、「適用する技術の選定やシステムのデザインにおいて欠かせない役割を担っていた」と中村が返す。ベテランと若手のいい関係がここにある。モニタリングの結果は、Smart Control Centerの大画面に表示され、揚重工程の調整や問題の早期発見に役立っている。

topicks記事画像5 topicks記事画像5
topicks記事画像6 topicks記事画像6
topicks記事画像7 topicks記事画像7
topicks記事画像8 topicks記事画像8

04 まとめ

後世に継承される施工データ

建設という仕事は経験工学とも言われる。揚重計画の立案は、各現場の工事長の経験に頼る部分が大きい。今回のように経験がない高さ、規模の施工を計画する際には、デジタルデータは計画の意思決定の助けになる。井上はA街区タワーの計画時に、タワークレーンの導入台数を入念に検討した。4台にすべきか、6台にすべきか。その際参考にしたのは超高層施工の経験値に基づく考え方だった。稼働後に収集した実績を見ると、やはり4台では足りず、井上が出した結論の6台が正しかった。こうした経験値を伝承することは容易ではないが、デジタルの施工データは後世に継承することができる。より多くの施工データを蓄積することがシミズの財産になり、次の超高層ビルの施工計画にフィードバックされていくのだ。「ここまでデータに興味を持って真摯に意見をくださる現場は多くありません。真剣に正直な意見をいただけたことはありがたかった」と林。まさに開発者と現場の融合、いや彼らの化学反応が1つのDXを結実する鍵を握っていたに違いない。

topicks記事画像9 topicks記事画像9

Profile

中村 寛

生産技術本部 生産計画技術部

入社年:1999年

主な業務:計画支援 技術開発 企画立案

Profile

林 拓宏

生産技術本部 生産計画技術部

入社年:2017年

主な業務:計画支援 技術開発