虎麻プロジェクトにビジネスを学ぶ 2022.07.19

その先の

未来につながるIT活用。

作業員のマネジメント

01 プロジェクト課題

多くの作業員の
ベクトルを一つに

A街区で1日あたり最大5,000人、B-2街区で最大2,000人の作業員が入場する。これだけの人数をどのように管理し、安全や品質を確保しているのだろうか。現場が始まると、安全に関しては全工程安全管理計画表が策定される。その計画表に基づき特別安全協議会、安全大会などの月次行事や毎日の安全工程打ち合わせの中で、安全管理の方針や具体的な注意事項を伝え、全作業員に周知・展開していく。
A街区工事長の柴野は「A街区は東京タワーと並ぶ超高層タワーですが、足元には低層棟があり、その下には地下エリアがあります。工種は多岐に渡り、一つの現業グループでは括れません。それぞれのグループで日々の作業内容は異なり、注意すべきポイントも違います。それをいかにタイムリーかつ的確に指示できるかが重要です」と課題を語る。B-2街区工事長の三嶋は「これだけの規模になると、初めての業者もたくさんいます。我々の安全管理や品質に対する考え方をどのように伝え、ベクトルを合わせていくかが課題でした。鉄筋工だけでも複数の業者がいるので、業者ごとに精度の差が出てしまうと出来栄えにも関わってくる。そういう差を極力なくすよう努めなければいけません」。土木工区工事長の額見は「土木工区は再開発エリアの外周に点在しており、再開発組合が直接行う工事と東京メトロ管轄の工事に分かれます。管理者によって安全管理の仕方も変わってくるので均質化を図ることが課題でした」と語る。すべての管理者や作業員のベクトルを合わせること。それが3つの街区で共通かつ最大の課題だった。

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02 ブレークスルー

コロナ対応が導いた働き方改革

大規模な工事を複数の街区で同時に進め、たくさんの作業員が同じ方向を向いて作業するには、業務の効率化やタイムリーな情報共有が欠かせない。そこで鍵を握るのがITツールだ。シミズはこれまでも、たくさんのITツールを現場で活用してきた。その集大成とも言えるソリューションが本プロジェクトに投入されている。では作業員の朝の様子からIT活用シーンを見ていこう。
朝の出勤時は、入退場ゲートで顔認証を行う。「これまで作業員はQRコードで入場する方法が一般的でしたが、コロナ禍で体温測定が必要になり、この大人数では大行列ができてしまいます。そこで検温も兼ねた顔認証システムを導入しました」と柴野。事前に登録された作業員の顔を識別し、かつ発熱している場合はゲートが開かないシステムで、コロナ禍での健康管理にも役立っている。作業員はその後、仮設エレベーターに乗り、持ち場に着いてから朝礼に参加する。ここで役立っているのが各所に設置された「Shimz Smart Station」だ。現場をオンライン会議で結び、分割朝礼を実施している。「これだけの大人数が一箇所に集まる朝礼は現実的ではありません。それぞれのグループで作業内容や注意事項も異なるので、朝礼は分割した方が良い。また、朝礼後にエレベーター待ちをすることなく、すぐに作業に取り掛かれるのも分割朝礼のメリットです」と柴野。
土木工区は交通量の少ない夜間に車線規制し工事を行っている。日勤夜勤の二交代制になっており、引き継ぎが欠かせない。「夜勤は朝5時に仕事が終わるのですが、日勤が朝8時に現場に来るまで、引き継ぎのために待たなければいけません。ここでオンライン会議を活用することで、自宅からでも参加できるようになりました」と額見。コロナ禍で当たり前になったオンライン会議は、現場の働き方を変えている。

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03 仕事の流儀

人を補うデバイスをフルに活用

日中の作業指示は、ビジネスチャットの「WowTalk」をフル活用。現場の作業員を含めてグループチャットを組み、タイムリーかつ的確な情報共有を実現している。土木工区ではウェアラブルカメラや骨伝導のコミュニケーションデバイスも併せて使用。「土木工事は都市の地下を掘る工事であり、非常に狭いエリアで作業をしています。現場に行かず作業員さんに指示を出せますし、骨伝導のデバイスを使うことで周囲の音を聞きながら会話することもできます」と額見。
この季節の工事現場はとても暑く、熱中症のリスクがある。そこで夏季限定で運用しているのが、スマートウォッチによるバイタル管理だ。着用者の心拍と活動量、気温・湿度を計測し、高リスク作業員にアラート通知するもの。「現場内でのみバイタルが測れる仕組みで、外では時計として使用できるBluetooth付きのスマートウォッチを採用しています」と柴野。Bluetooth付きの中継機タイプは作業所内であれば、地下であっても電波が届きやすいというメリットがあるという。
その日の作業が終わると、ビジネスアプリ「ワークサイト」で工事日誌を作成。工事日誌だけではなく、作業安全指示も一元管理できるWebツールを活用している。このようなデジタルツールを工事現場で有効に活用するには、「Shimz Smart Station」等によるWiFi網の構築も不可欠となる。
また、現場の至る所に設置されたクラウド録画カメラ「Safie」を介して、現場の状況を確認している。「車両の出入り口や、タワークレーンの先端などに設置され、現場の状況がどこからでも確認できるようになっています。夜間の地震や突然の大雨などの有事にも素早く現場を確認することができます」と三嶋。360度カメラなども導入し、機械監視で人の目が行き届かない場所をチェックし、品質管理や安全管理に役立てている。

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04 まとめ

ITツールの活用を
一過性で終わらせない

A街区副所長の相田は「この大規模現場の数年間には、あらゆる情報が集まってきます。例えばクレーンの揚重データや仮設エレベーターの運行データなど、ビッグデータをしっかりと蓄積し、会社として次のプロジェクトにつなげていく仕組みがいま求められています」と語る。建築は単品生産の現地生産。プロジェクトが終わると集合体は解散してしまう。ITツールの活用を一過性のもので終わらせることなく、そこで収集したデータを次につなげていくことが重要だ。
「私が入社してから30年以上経ちますが、人の目だけで安全管理・品質管理を行っていた当時から法律や基準は根本的に変わっていません。ITツールがあるから労働災害や品質トラブルをなくせるわけではなく、人がどのように指示を出し、ITを活用していくかが重要。AIがどれだけ進化しても人間に取って代われないのと同じで、最後は人の感性だと思います」と相田は締めくくる。「新しいツールやデータ」と「変わらない建築技術」を融合し、次の世代にバトンをつないでいく。

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Profile

相田 和也

虎ノ門・麻布台プロジェクト A街区

副所長

入社年:1990年

主な業務:安全・品質管理

Profile

柴野 潤市

虎ノ門・麻布台プロジェクト A街区

工事長

入社年:1985年

主な業務:安全・品質管理

Profile

三嶋 敬輔

虎ノ門・麻布台プロジェクト B-2街区

入社年:2005年

主な業務:施工計画・施工管理

Profile

額見 吉員

虎ノ門・麻布台プロジェクト 土木工区

工事長

入社年:1992年

主な業務:六本木一丁目駅地下連絡通路部 
施工管理